第18話 苦戦

 ケィンから補助魔法を頼まれたレミィは右手の各指の間に宝石を挟み持ち、赤と白の宝石を使わないで済むバフデバフを敵味方両方に積んでいく。




 黄の宝石を右親指と人差し指の間に挟み、朗々と魔法を唱える。




「アース・プロテクト!」




 土の魔法でケィンの防御力を上げたら次は人差し指と中指の緑の宝石で速度アップの魔法をかけた。




「チーターフット!」




 そして中指と薬指の間の青の宝石はデバフ用だ。




「バインド・ミスト!」




 敵の周りの水蒸気を重くし動きを鈍らせる魔法。この魔法がかかった瞬間にケィンと海賊の剣士、ディカスは肉薄した。




「最後にもひとつ! ダーク・ミスト!」




 二刀流の剣士の視界が一瞬闇に覆われる。薬指と小指の間の黒の闇の宝石で使ったものだ。




 ケィンはその隙を見逃さず、炎を纏った剣でディカスを袈裟切りにした。




 しかし、浅い。これだけのデバフを受けながら相手は後ろに飛びのいて傷は肩から胸にとどまる。




「ヒーリング・ウォーター!」




 そして、なんと水の魔法で自らを癒した。




 しかし動きが止まったのでチェスカが胴目掛けてメイスを投擲する。




 が、そのメイスも金属部分が刀で真っ二つにされ勢いを殺されてしまった。手負いのくせになんという力だろう。




「ディカスの旦那、手を貸しますぜ」




 そこへ、斧を持った海賊が二人、敵に加勢してくる。




「これで三対三。平等ってわけだ」




 言う海賊。しかし二刀流の剣士は来た連中にしっしっと手を振った。




「こっちは三対一で楽しんでるんだ。邪魔するんじゃねえ。特に俺に傷をつけたあの剣士。あいつは俺の獲物だ。女の方は後で楽しんでやる」


「くっ……」




 獲物と見なされてケィンがたじろぐ。まだバフ魔法の効果は切れていないとはいえ、早くこいつを片付けねば。




「ですが旦那……こいつら商人じゃなくて冒険者ですぜ」


「お頭も船にまで上がらせてご立腹で……」




 斧を持った海賊がなおも食い下がろうとすると、




「うるせえ!」




 なんとディカスは一瞬で仲間の海賊の首二つを落としてしまった。




 レミィは思わずその光景から目を背けてしまう。




 ごろんと音を立てて海賊船の甲板に転がる二つの首。残った胴体はディカスが蹴飛ばして海に落としてしまった。




「ひでえことしやがる、味方なのによ」




 ケィンが苦々しくつぶやく。




 言いつつも血に染まった甲板を走りディカスに肉薄した。しかし、炎の剣での攻撃はあえなくかわされてしまう。




 そこへチェスカがモールを持って飛びかかった。




 レミィは敵がケィンに斬られた隙にチェスカにも補助魔法をかけていた。また、モールの金属部分も魔法で強化してある。さっきのように刀で簡単に切られたりはしないはずだ。




「いいねいいねぇ! 楽しくなってきた!」




 ディカスはケィンの斬撃とチェスカの殴打を二刀流の刀でいなし続け、歓喜の声を上げる。




「ウィンドカッター!」




 二人で足りないなら三人がかりでとレミィが風の刃を飛ばす。




 しかし、それさえもディカスが無詠唱で唱えた光の魔法の壁に阻まれた。どうやらこのディカス、二刀流なのは刀だけではないらしい。武器を扱いつつ魔法も使えるのだ。




 誰か。




 誰かレイドでこっちに加勢してくれる者はいないか。


 レミィはあたりを見回したがこちらと同じく複数人で一人の海賊を相手にしている。




 やはり海賊船本船の乗組員はさっき小舟で商船に乗り込んできた連中とは格が違う様だ。




 それが証拠にどのPTもたったひとりの海賊に押されている。




 レイドのリーダー格の脇差級の冒険者の姿を探したが、すでに斬られ、船の床で気絶していた。




 そこへチェスカの怒号が飛ぶ。




「レミィ! ケィンが斬られたわ! 水か土の魔法で回復を!」


「りょ、りょうかいっ、アースリィ・ヒール」




 床に倒れ胸から血を流すケィン。詠唱短縮の応急処置的な回復魔法だったため、傷を塞ぎ血を止めるのがやっとだ。




 ケィンは立ち上がりはしたものの、ふらついている。剣に纏っていた炎も消えた。元々魔法使いでない彼は自分とは違い魔法力が尽きるのが早いのだ。




「助けてっ!」




 二刀流をモールで受け続けているチェスカが叫ぶ。




 まさか彼女の口からそんな言葉が出るとは。




 こうなったらもう宝石の節約なんて言っていられない。




 レミィは六色の宝石を取り出し、右手左手の指に挟んだ。


 


 ミックス・ブラスト。




 これしかない。




「チェスカ! 離れてっ!」




 チェスカに合図を送るが、そんな隙を相手が与えてくれるはずもなかった。




 二刀流の右手の切っ先が冗談のようにチェスカの腹に食い込む。プレートアーマーを貫いて、だ。




「ああっ!?」




 レミィには目の前の光景が悪夢にしか思えなかった。




 ――そこに飛んでくる矢が一本。




 なんとディカスの右目を撃ち抜いた。




「ぐわあああああ! 痛てぇ!」




 よかった。




 レイドの誰かが助けてくれたんだ。




 レミィは安堵し、矢が飛んできた方を振り向いた。




 そして彼女は信じられないものを見た。




 弓を持った人物はなんと自分たちが乗ってきた商船にいたのである。


 あの距離からこちらの船に乗っている敵の顔を正確に狙い撃つなど、伝説の女弓手、ノスナ・ヨイチーもびっくりだ。




 その人物は勿論レミィたちには聞こえない声で呟いた。




「矢の標的への命中。胎教中に受けた戦闘教育プログラム、正常な稼動を確認」




 矢を撃った人物にレミィは見覚えがあった。よく知る人物(?)だった。

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