第17話 海賊

結局海賊退治に集まったPTはレミィたちも含めて5組だった。




 ガサキにも脇差級の冒険者が4組もいたのかと感心したものだが、他のPTもせいぜいリーダーが脇差級で他は小刀級だったり、レミィたち同様小刀級のPTが他のPTの級をあてにして来て来ている感じである。




 ただし、人数だけは集まった。合計二十名強の冒険者が組んでここ最近貿易船を荒して回っている海賊団を討伐するのだ。




 その海賊団は人間とのことで、リザードマンなどの海生モンスターの海賊なら倒したら宝石が手に入るので一挙両得だったのだが、そうもいかないのが残念だ。


 だが討伐に成功すればB級の宝石が5つも手に入る。また海賊団が貯め込んでいるであろうお宝も宝石に換金できるだろう。




 期待に胸を膨らませながら対海賊団の冒険者たちを乗せた大船はガサキの港から出航した。海賊が襲ってきたくなりやすいように商船に扮しているため多少の金目の荷物がこれみよがしに積んである。




 ちなみにナパジェイでは正義の海賊が悪党の海賊団を倒しながら冒険する物語が子供たちの間で大人気である。その物語の主人公の海賊たちは海賊らしい強盗行為は行わず純粋に冒険を楽しんでいる。




 もちろんこんなのは創作の中だけの話で、実際の海賊は貿易船から金品を巻き上げるわ、罪もない人は殺しまくるわ、挙句盗るだけ盗ったら最後は商船に火をつけ海の藻屑にしてしまう。




 ナパジェイでは海賊に襲われても自己防衛できなければ「自己責任」の一言で片付けられるが、ブドーキバやネテルシシからナパジェイに向けて出航して海賊に襲われたら堪ったものではない。


 特にブドーキバはナパジェイから遠く海を隔てた欧州にあるので、えっちらおっちら船でナパジェイまで来て、海賊に積荷奪われて殺されました、では笑い話にもならない。




 とにかく、レミィたちは商船に扮した船で配置につき、海賊が現れるのを待った。






 そして数時間……。




「ウィンド・プロテクション!」




 大声が聞こえて潮風の心地よさに少しうとうとしていたレミィは飛び起きた。




 いきなり大砲の弾が飛んできて、レイドの魔法使いが風の魔法で防いだのだ。




 何が起こったのか理解したのも束の間、小舟で海賊たちがこちらの商船に乗り込んでくる。




「魔法で打ち落とせ!」


「上がってくる前に倒せ! 小舟を燃やすんだ!」




 轟くレイド仲間たちからの怒号。




 そう言われても、ここで炎の赤の宝石を無駄にするわけには行かない。仕方なく緑のの宝石でウィンドカッターの魔法を使い海賊たちの首を狙う。




 さすがに海賊たちは戦い慣れしているようでレミィの魔法は分厚い段平で防がれてしまった。




「馬鹿! 舟を焼けと言ってるだろ! 魔法使い」




 さきほど魔法で大砲の弾を防いだレイド仲間からお叱りが飛んできた。そういえば、白と赤の宝石を節約していることなど説明していない。




 そこへ、隣にいたチェスカが服の中に仕込んでいた分銅鎖を投擲し、海賊の一人の脳天を一撃する。




「要は船に乗り込まれる前に倒せばいいんでしょ、ケィン、渡しといた投げナイフでレミィの負担を軽くしてあげて」




 実はチェスカはこういった遠距離戦も想定してジャンク屋で屑鉄を買い、投擲武器を打って用意していたのだ。




「よっし、一人たりとて船に上陸させてたまるか」




 ケィンは投げナイフで正確に海賊たちの急所を刺し貫いていく。




 チェスカの分銅鎖も投げたら当たりはしなくてもその重さで海賊たちが乗っている小舟が傾く。




 レイドのPTたちも健闘していた。




 炎の矢で小舟を燃やし、オールを風の刃で斬り立ち往生させ、そこに魔法を叩きこむ。




(そうか、わたしたちは3人きりで戦ってるんじゃないんだ)




 自らも風の刃を飛ばし、小舟を真っ二つにすると、泳いでこちらの船に這い上がろうとしてくる海賊たちにストーンバレットの魔法でトドメをさす。




 時々飛んでくる大砲の弾は風の魔法で防いでいた。




「エア・ウォール!」




 風と土、つまり緑と黄色の宝石を使いながら海賊を撃退していく。




 しかし海賊の本船は未だ遠くにある。雑魚が片付いたらあっちを攻撃せねば。




 商船の操舵手が急速に海賊船へ商船を近づけていく。




「よし、こっちの被害はほとんどない! 一気に海賊船を攻め落とすぞ!」




 レイドでもリーダー格の脇差級の冒険者が叫ぶ。




「ちっ、送り込んだのは新米海賊の雑魚どもだ! 本物の海賊を舐めるなよ!」




 海賊船の船長らしき人物が負け惜しみのようなことを言ってくる。そう、もう海賊船からの声が聞こえる距離なのだ。




 操舵手の手腕で海賊船に商船が接舷する。レイドの力自慢の大男が縄ばしごを放り投げた。これで相手の船に攻め込める。




「いくぞ! 船に残っている海賊はおそらく手ごわい。1PTでひとりに当たれ!」




 最初の作戦通りの内容をレイドリーダーが言う。レミィたちとてハナからそのつもりだ。間違っても一対一なんて状況は作らない。




「“ガサキの海狼”の異名を取るディカス様に向かってくる奴は誰だ!」




 3人ではしごを渡りきると、まずレミィたちの前にざんばら髪の二刀流の男が立ちはだかった。




 ナパジェイの特産品の武器である「刀」を左右の手に持ち、こちらを威嚇してくる。




「レミィ、こいつはやばい。できれば他のPTに任せ……」




 ギィン!




 二刀流の剣士の右手での一撃をモールでチェスカが受ける。しかし、チェスカのモールはなんと鉄球部分が一刀両断されてしまった。




「嘘っ!? 鉄製よ、このモール」


「どいてろチェスカ、俺がやる」




 ケィンがチェスカと剣士の間に割り込んだ。




「レミィ、補助魔法だ! 赤と白以外の宝石でありったけ!」




 ケィンが炎を纏わせた剣を手に二刀流の剣士に突貫していく。

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