第13話 太陽神
「こんなところで話たぁ、秘密の依頼みたいだな」
ケィンが席に着くと開口一番そんなことを言った。
「はーい、私の父の宗教に関わる話でーす」
「宗教?」
レミィが眉をひそめる。ケィンは黙っていた。
「太陽神アポロン、知りますか?」
シモーヌは欧州の古代国家、ヘレスでかつて信仰されていたという古代神の名前を出した。アポロンとは太陽を神とし、特にアンデッド撲滅を活動内容としている。
「まあ聞きかじり程度なら」
「アンデッド撲滅の過激派集団と伺っています」
レミィがケィンに補足するとシモーヌは顔を曇らせた。
「ナパジェイ、アンデッドでも差別しません。人に害なさなければ退治されません。私の父、アポロン教徒。ナパジェイでアンデッド退治の許可もらうためナパジェイ来ました」
「しかしそれは国是に反するのですよ」
「分かってます。ナパジェイ、差別ない国、素晴らしい国」
「付喪神なんかの、迷惑なアンデッドは討伐対象ですけどね」
そこでシモーヌは我が意を得たりとばかりに目を見開いた。
「そうでーす。アポロンは迷惑でないアンデッドも滅ぼすべきいう考え。ナパジェイでも迷惑なアンデッドは倒されるべき、違いますか?」
「違いません。大抵のアンデッドは人を襲いますから」
「ガサキで昔ラバマシーいうところで大量虐殺ありました。4万人くらい処刑されたい
います」
「ああ、ラバマシーは今も立ち入り禁止区画ですね。怨念だらけですし」
「武器を持った過激派唯一神教徒、たくさん殺されました。今でこそ天上帝、唯一神教
認められてますが、そういう時代もありました……」
チェスカがそこで口を挟む。
「ちょっと待ってよ。あなたあたしたちにアポロンの思想の元、ラバマシーの怨霊を鎮
めろなんていうつもり?」
「あなたたち、信用できます。私が知ってるナパジェイの誰よりも」
「アンデッドすべてを滅ぼすのはダメでもナパジェイで最も迷惑なアンデッド地帯をなんとかすればお父さんの面目は立つって訳ね」
ここまでの話をまとめるチェスカ。
「何か成果を出さなければ父も私もブドーキバ帰れません。私の父、天上帝に直接お目通りしてアンデッド退治させてください言うつもりです。そんなことしたらきっと大変なことになります。無理なお願いだとは承知しているのですが……」
ナパジェイの歴史の中でももっとも残虐な殺戮が行われたラバマシーの乱。
太陽神の御名のもと、その後片付けをしろと言っているのだ、シモーヌは。
「一応言っておくが、そんな仕事、軍ですら放置してるんだぞ。だからラバマシーは立ち入り禁止になってる。入るだけで結構な手続きが要る」
ケィンが難しい顔で言う。
「そこを曲げてお願い申し上げます。ラバマシーのアンデッド、欧州でも有名。ナパジェイ呪われた島いう偏見今も消えません」
「分かった。何とかしてみる」
「ケィン!?」
ケィンの安請け合いにチェスカが声を上げる。
「何とかラバマシーのアンデッドを退治するために立ち入らせてもらえないか、軍にかけあってみる。それで何か動きがあったらまた連絡する」
「ちょっとケィン、正気? よしんば許可が下りてもあたしたちだけでラバマシーのアンデッドを倒しきるなんて無理よ」
「安心してください、報酬の先渡しです」
「え?」
そこでシモーヌはずっと大事そうに抱えていた布に包まれた杖のようなものをこちらに差し出してくる。
「これは……?」
レミィが遠慮がちに受け取りつつ訊く。
「この杖、太陽神の杓杖、いいます。対アンデッド用の最強武装兵器と言われています。効果は太陽光に匹敵する光を発するいうものです。ただし燃費悪い。1回光らせるのに赤の炎か白の光のA級宝石1個分の力要ります」
「わたしが練成できる限界ですね……」
レミィは答える。
「本当は父から国一番の冒険者に渡せ言われてました。でもそんな人簡単に見つかる訳もなく……、私、途方に暮れてました。だから父止めるためゼンチクに行く予定でした」
「安心しろ、俺たちがラバマシーのアンデッドを駆逐して親父さんの面目を立たせてやるから」
ケィンが自信満々に言う。
そこでレミィは「おや?」とケィンの様子に違和感を感じた。普段の彼はもっと慎重だ。
それが今回は無茶振りとも言えるような仕事に乗り気で請け負おうとしている。
「ただし、今すぐは無理だ。レミィがA級宝石を練成できるまで宝石を貯めなきゃならん」
「分かりまーした。そちらが宝石を貯めるのを待っていればいいのですね」
「いいかお前ら、宝石を節約しつつ依頼をこなすぞ」
レミィとチェスカにケィンが気合の入った声で言う。
「その前にゼンチクにいる父に話の流れ説明したいです。サガンへの街道はもう通れるですか?」
「そういやさっき依頼書見たらあのトロルまだあの道に居座ってるみたいだな」
そこでケィンがレミィの方を向く。
「作って欲しい魔法がある。詳細は後で話す」
「えっ、新しい魔法?」
新魔法の構築は宝石の練成以上の高等技術だ。果たして自分にできるだろうかとレミィは困惑した。
「まずはすべての第一段階としてシモーヌさんをゼンチクへ連れて行くぞ。そのためにはあの不死身トロルをなんとかせにゃならん」
どうやらケィンには勝算があるようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます