第3話 探し屋
「ふう……」
「ハーイ、バニーたち!」
レミィがB級宝石を5個ほど練成した頃、軽薄そうな甲高い男の声が「森の家亭」に響いた。
相変わらず頭に兎の耳のカチューシャををつけた若い男、噂の探し屋、ウサギが現れたのだ。
二枚目半くらいの顔立ち。黒いスーツで決めた、それなりに鍛えられた体躯。
頭のウサギ耳と特徴的な口調と奇行さえなければもう少しは女性が寄り付くのではないかという変人ぷり。
「今日も新しい情報を仕入れてきてあげたよ~! 聞きたいよね? 聞きたいよね?」
ほとんどの冒険者たちは無視を決め込むか、チラリとだけ視線を送るに留めた。
「ウサギ!」
レミィだけがその存在を認めると声をかける。
探し屋ウサギは嬉しそうにぴょんぴょんとケィンたちが座っているテーブルにやってくる。
「おや、ハーレムパーティくんたちじゃないか。僕に何か用?」
「女二人だけじゃハーレムとは言わねえよ。この依頼書の件なんだけどな……」
「おお、それは僕が一昨日張り出した遺跡の依頼じゃないか。受けてくれるのかい?」
「いや、報酬とか、情報が曖昧すぎるからもう少し詳しく訊きたいだけだ」
ケィンが受け答えすると、ウサギは顎に手を当てて考え込んだ。
「曖昧ねえ。でも滅んだ遺跡の情報なんてそんなもんだよ?」
「なんでモンスターが少ないって分かるんだ」
「は~いってみたからさ~、安全確認にね」
レミィは頭を押さえた。探し屋としてそれはどうなのか。
ちなみに、チェスカは別の意味で頭を押さえていて水をおかわりしていた。
ウサギはなぜか両手をあげてくるくると回りだす。
「そんなことより~、今日は新しい遺跡の情報を仕入れてきたんだけどね、買う?」
「新しい遺跡だあ?」
「値段は聞いてみてから。損はさせないよ?」
「先に値段を言え、不安すぎて聞けんわ」
「じゃあD級宝石1個でいいよ」
ちなみにこういう交渉ごとのときはいつもケィンが矢面に立ってくれる。レミィもチェスカも交渉には向いていないし、どんな相手にも物怖じしないケィンはこういうとき頼りになる。
そんなところも、また好き……なのだが、レミィはいつになったらこの気持ちをケィンに伝えられるのだろう?
「レミィ、共有財産からで」
「は、はいぃ!」
急に話しかけられてしどろもどろになってしまう。
「そんなに驚くところか? PTの共有財産はお前の担当だろ」
「わ、わかった。D級1個ね。はい」
レミィは共有財産からD級の黒の宝石を出してウサギに渡した。
光源や回復用になる白、旅中の飲料水になる青、防御強化に使う黄、攻撃に使う赤や緑はもったいない。ここは使い道の少ない闇属性の黒の宝石にしよう。
「たしかに頂戴したよ、バニー。では情報を売るね」
ここでウサギが下手なウインクをする。こういうところがなければこの男も多少はとっつきやすいのだが。
「みつーけた遺跡はサガンの研究施設の廃屋さ。どうやらホムンクルスに関する研究を行っていたらしい。1階はスライムなんかの魔法生物がうーようよ。ただし廃棄されたときの研究成果もまだ残っているようだね」
「じゃあ持ち帰れるのは好事家が買うようなミニスライムとかか?」
体内の減酸処理をして虫や果物しか食べなくなったミニスライムならペットとしてそれなりに可愛いと感じる者も多いので結構な値がつく。
「さあねえ、ホムンクルスもいたりして。僕もそこまで奥まで入ってないからね」
「サガンなら馬車ですぐだな。もう少し詳しい場所を教えてくれ」
「詳細はちーずを描いてあげるからちょーっと待っていたまえ」
「助かる」
「あ、この地図追加でE級宝石2個ね」
「……レミィ、払ってやれ」
正直内容に比して料金が安いなとは思ったがまさか地図に追加料金をとるとは。
「……はい」
「たしかに。はい、描けたよ」
ケィンは地図を無言で受け取ると、
「行くぞ、レミィ、チェスカ」
「うう、あたし今馬車乗ったら吐きそう」
「じゃあ出発は昼にする。それまでに武器のチェックしながら二日酔い治しとけ」
ケィンはそう言って右手用の長剣と左手用のソードブレイカーをチェスカに預けた。
「俺は庭で木刀で素振りでもしてるから昼飯になったら呼べ、レミィ」
「うん」
嬉しいな。
ケィンとまた冒険に行ける。
こんな日々がいつまでも続けば良いのに。
練成した宝石を自分の宝石袋に仕舞うとレミィはそんなことを考えた。
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