第3話

Δが、ニヤリと笑った。そして…

「…なぁ、Σ。アイツら、すっごい見てくんだけど。誰?」

Δが、席に座っている3人の男を指さしながら、コソコソとΣに聞く。

「はぁ、知らないのかい?まず、右の彼。」

Σは、向かって右側に座っている男をチラリと見る。真っ白のフードと仮面で、顔が完全に隠れている。

「彼は、このネオトーキョーの”裏”を牛耳るマフィアのボスだ。名前は知られてなくて、ただ『ボス』とだけ呼ばれている。」

「まんまじゃねーか。」

「…それは僕に言われても。」

「んで、真ん中のアイツは?スーツに頭ダンボールとかいうクソキモファッションだが。」

「彼は、表ではあの『神箱グループ』のトップ、名前は神箱 源造。裏とも繋がりがあったなんてね。」

「お、俺も知ってるぞそれ。大量に広告貼ってあるやつ。」

「…君はいちいち反応しないと死ぬのかい?」

「別にいいだろこんくらい。それより、今気づいたがあの左のやつ、ガキじゃねーか。迷子か?」

「えっと、あの子は…」

「君たちは、座らないのかい?」

Δたちの右側の男……ボスが、二人に問う。

「お、おい。てっきり無口系かと思ったが、だいぶフレンドリーだな。」

「静かに。とにかく、このまま立っても変に注目されるだけだ。座ろう。」

Δがズカズカと椅子に座り、ΣはΔの傍にそっと立った。

「おや?其方の貴方が最後の一人では無いのですか?」

神箱が、Σに聞く。

「はい。本当は、この場に呼ばれたのは彼1人ですから。僕はただの付き添いですので、お気になさらず。」

「ふむ。では、僕らを呼んだのは一体どこの誰だ?人様を招待するのなら、自分の身分を明かすのが礼儀だというのに……。」

左の少年が愚痴を零す。

「おや?てっきり貴方が、私たちを潰すためにここに呼んだのかと思ったが…違ったかな?日比谷 小瀬郎くん?」

「怪しい、か。僕としては、どう考えてもあなたの方が怪しいと思うが。なんだ、そのダンボール頭は。ふざけているのか?」

日比谷は神箱の方を指さす。

「ふざけてる、ですが。それは貴方の組織の名前では?たしか『死の集う家HoD』(笑)でしたっけ?ああ、そういえばあなたも、『ボス』でしたね。」

「随分と煽ってくれるじゃないか。そんなに僕たちと殺り合いたいというのなら、歓迎はするが……。」

「おや?てっきり……」


「全員そのつもりでここに来たのだと思いましたが」

神箱が指をパチンと鳴らす。すると、それを合図に複数の足音が近づいてくる。

そして、神箱と同じようにダンボールを頭に被った人間達が大量に部屋に押し寄せ、あっという間に神箱以外の全員を包囲する。彼らの手には小銃が握られている。

「ほぅ、あなたは、最初から私たちを始末するためにここへ……。」

「ええ。我々の計画を遂行する上で邪魔になる存在を、一気に減らせるチャンスですからね。」

「なるほど、いいじゃないか。殺してみろ。」


「殺れるものなら、な……!」

日比谷の足元の床に巨大な亀裂が入る。衝撃で、床の破片が宙を舞った。

「おっ!喧嘩かぁ?」

「はぁ、できるだけ面倒事は避けたいんだけどなぁ……。」

「ふふっ、楽しくなってきたじゃないか……!」

もし誰かが1歩でも動けば、この地下室が崩壊することにでもなりそうな、一触即発の状態。

「殺れ」

最初に動いたのは、神箱だった。神箱の合図と共に、ダンボール頭たちが引き金を──────!

「はーい、ストップ」

全員の視線が、1点に集まった。先程まで誰も居なかった、ただ1つ空いた椅子。そこに、高校生くらいの少女が座っていた。

「どーも、柊 和佳っていいます。あー、本日はこの集会に来て頂き、ありがとうございまーす。」

「ねぇ」

和佳が振り向こうとするが、首を捕まれ動きを止める。いつの間にか、日比谷が背後を取っていたのだ。

「君は誰だ?それと、どうやってここに入ってきた。」

「私は最近”裏”に入ってきた新参者だよ。それで、ここには普通にあの階段から入ってきたよ」

「普通に?僕は、君の能力はなんだと聞いているんだ。」

「………」

「僕は、答えろと言って……」

「はぁ、うるさい。」


「バラすよ?ガキ。」

刹那、部屋が豹変した。壁や天井を謎の肉塊が包み込み、巨大な肉の触手がΔたちを取り囲んでいたダンボール頭たちを薙ぎ払う。薙ぎ払われたダンボール頭たちは、上半身が無くなっていた。

「なんだ、これは……」

「あんま調子に乗らないで。力を持ってるのは、あんただけじゃないの。」

「…チッ」

日比谷や手を離すと、静かに席に戻る。それと同時に、肉塊が壁の亀裂に吸い込まれるように消えてゆく。

「んじゃ、本題いこっか」

「まぁ、簡潔に話すと、今回みなさんを呼んだのは、停戦協定を結びたいなって思って」

「停戦、ですか。」

「はい。ご存知の通り、貴方達3人はこのネオトーキョーの”裏”で活躍されている組織のトップです。それと、そこの御二方は組織に所属してはいませんが、私の判断で特別に招待しました。」

「私たちの共通点は、そこの方々は知らないが、恐らく何かしらの”目的”と”計画”があること……。」

「…なるほどね。大体は分かったよ。恐らく、私たちがそれぞれの”計画”を遂行する上で、どうしても他の勢力との衝突は避けられない。だから、消耗を減らすためにも、お互い衝突はしないでいきましょう、ってことだろう?」

「…話が早くて助かります。ほぼその通りです。『計画の準備が済むまでは、他の勢力に関わらないし、他の勢力からも関わられない』。これが、今回の協定の内容です。」

「あくまで実行まで……。いいだろう。私は是非、協定を結ばせてもらおう。」

「つまりは、他の組織よりも早く計画を実行すれば優位に立てる…そういうことか。まあ、僕たちも賛成だ。」

「これで2人が賛成…それで、源造さん。あなたは?」

ボスが殺気を放ちながら神箱に問う。

「…チッ。本当はこんな協定なんて結びたくないですが……。こんな所で死にたくはないのでね。」

「賢い選択だな。部下もいないんじゃあ、賛成しないとこの場で僕たちに消されてもおかしくないからな」

「…殺す」

「…コホン。それで、Δさん。あなたはどうしま」

「パスだ」

「……え?」

場の空気が凍ったのが感じられる。全員の視線が、Δに集まった。

ΣはΔを睨みつける。だが、Δの口は止まらない。

「ぶっちゃけ、お前らのこととかどうでもいい。俺はよぉ、ただ強いヤツと戦えれば、それでいいんだ。こんなくだらねぇ遊びに付き合う義理はない。」

「おい、Δ。少し静かに」

「そもそも、お前らも強いんだろ?なら、なんで今この場で敵を殺そうとしないんだ?そこのダンボールのオッサン、こんなかじゃ弱いんだろ?なら殺せよ。協定なんて結ぶ必要がねぇ。」

「…Δ。いい加減にしろ。」

「なんなら、俺が殺してやろうか?オッサン…いや、ここにいる全員。俺は構わねぇぞ?いや、もう答えを待つ必要もねぇな。よし、そんじゃい」

「黙れ」

Σの柔らかい声が、変貌した。Δは驚いた表情でΣを見る。

「Δ。お前と俺の目的は違う。お前はそうじゃなくても、俺はこいつらと敵対するつもりは無い。おい女。俺らも協定を結ぶ。…Δ、帰るぞ。」

Σが早歩きで部屋を出ていく。Δは、元のつまらなさそうな表情に戻った後に

「ハイハイ、従いますよ〜」

と言って、部屋を去った。

「あーもう、ダル……。はぁ。それじゃ、全員の同意も得られたので、集会を締めさせていただきます。それじゃ、私も用事あるんで。」

そういって、夢も席を立つ。

そして、部屋を出る際、

「そういえば、君はなんでこんなことを?私はメリットがあるから賛成させて貰ったが…君にもメリットはなるのかい?」

とボスに聞かれ、

「ただの保険ですよ。この世界じゃあ、若い芽はすぐ摘まれますから」

とだけ言い残し、闇の中へ消えていった。

 

ネオトーキョーの闇は、地獄の底より澱んでいる。それは常に変わらない。だが、今日はその澱みが更に増したような、そんな予感がした。

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