第2話

「はあああああああああ!?」

「明日斗さん!貴方、自分が何言ってるか分かっているんですか!?人殺しになるって事ですよ!それに、能力者との戦いで命を落とす可能性だって…!」

「うん、分かってます」

「じゃあ、なんで…!」

「…何となく、ここで動かないと、自分を、日常を変えられない気がしたから…?」

「っそんな理由で…!」

「一旦落ち着け」

「深弧…さん……はぁ…明日斗さん。考えを改めるつもりは、無いんですか?」

「…無いです。俺は、今の自分を変えたい」

「…そうですか。なら、今日はもう遅いですし、この話についてはまた後日お話します」

「はい。ありがとうございました」

「…大丈夫か?家まで送ってくか?」

「いえ、大丈夫です」

そう返し、ドアを開ける。部屋を出る際、

「気をつけろよ。それと、それ、能力を解除しようと思えば消えるだろうから、消してけ」

俺は小さく頷くと、手の軽さを感じながら警察署を後にした。



誰もいない静かな住宅街。再び能力を発動し、手に装着されたそれを眺めながら、歩いていた。さっき調べたが、こういうのをガントレット、と言うらしい。おれは、ふと思った。

…なんというか、地味だな。これ。

正直な話、能力というと、もっとゴムゴムしてたり、オラオラしてるのを想像していた。それが、ただの装備品だ。

普通に買えるじゃん、こんなの。

いやまぁ、まだこれで戦ってないし、まだ判断するには早いとは思うけど…。


にしても、能力犯罪専門の治安維持組織か…。字面だけなら凄いカッコイイな。まあ、実際にはただの人殺し集団…あれ?人殺し集団?え、俺なんで入るって言ったんだ?というか、普通に死ぬ可能性あるって言ってたし。あれ?怖くなってきたんだけど。

…今からでも、やっぱ辞めるって言おうかな。昨宮さんの連絡先は貰ったし…。

そんなことを考え歩いていたが、俺は足を止めた。

俺の真正面に、道のど真ん中で仁王立ちする人影があったからだ。怪しい、以外の感想が出なかった。特に、今日みたいなことがあった以上、ああいうのには近づきたくない。

迂回しよう、と振り返るが…

「おおおおおおおおいいぃぃぃどこへいくぅ?見えてんだろぉ?俺の事がよぉ!」

不味いのに絡まれた。どうしよう。無視して逃げ

「無視すんなガキィ!『アマルガム』!あのクソ野郎の脳天貫けぇ!」

嫌な予感がし振り向く。すると、男の足元で、銀色のスライムが蠢いていた。

うわっ!キッモ!

って、そうじゃない。あれ、まさか能力!?ヤバい!マジで逃げないと!

「おっとぉ!背を向けたら、狙い放題だぜぇ?」

俺は咄嗟に迫真のローリング回避を発動した!顔を地面に擦りながら転がり、コンクリ塀にぶつかって停止した。すると、俺の頭があった場所を、銀色の触手が突き抜けた。元を辿ると、スライムからそれは伸びていた。

「おっほぅ!これを躱すったァいいねぇ!まさか、てめえも能力者ってやつかぁ?いいねぇ!いいねぇ!!」

何この人怖い!

「つーか、お前逃げようとしたよなぁ!逃がさねぇよ!『アマルガム』!挟め!」

そう言うと、アマルガム、と男の言っていたスライムは、突如俊敏な動きで俺と反対のコンクリ塀に飛び移り、そのまま塀を蹴って(?)男の反対側に着地する。

「ハッハァ!もーう逃げらんないぜぃ!ほら、躱してみろぉ!」

アマルガムから数本触手が伸び、俺目掛けて飛来してくる。

俺はそれを咄嗟に飛んで回避する。

こっわい!多分当たったらダメなやつだこれ!

あ、そうだ!電話だ。昨宮さんに電話して、助けに来てもらおう!

俺はポケットからスマホを取り出し、昨宮に電話を掛ける。

早く、早くでて!

「もしもし、明日斗さん?どうかされましたか?」

でた!

「さ、昨宮さん!今、のうり」

ヤバい。冷や汗が止まらない。ここまで背筋が凍ったのは何時ぶりだろう。

ボトリと、少し遅れて鈍い音がなる。俺のスマホは、触手に貫かれ真っ二つになっていた。

なに、今の。速すぎて全く見えなかったんですが。

「ハッ、残念だったなぁ!今は、俺と遊んでんだろぉ?なら、他のやつに出る幕はねぇよ!」

「…えっと、これ、まーじでヤバいやつ…?」

「オラァ!スピード上げんぞぉ!気張ってけぇ!」

まじ?これ以上速くなったら、マジで死ぬ!

…いや、待てよ。さっきから、アイツは顔面だけを狙っている。ということは………

アマルガムから数本の触手が生えてくる。そして、それらは先端を俺に向け……

触手がブレたように見えたこの瞬間。俺は能力を発動し、両手で顔面をガードした。触手は全てガントレットに着弾し、ヒビを入れるだけでそのまま貫通することは無かった。

だが、着弾時の衝撃で、俺は後方へ吹っ飛んでしまう。

地面を転がりながらも、地に手を付けて勢いを殺す。

「いって……」

体の節々が痛いが、確かに防げた。これなら、助けが来るまでの時間稼ぎも…

「ハッハァ!やるじゃねえかァ!」

その声はすぐそばから聞こえた。声の方に顔を向けると、俺のすぐ側に男がいたのだ。

俺はすぐさま起き上がり、男と向き合う。

「おぉ?やるのかぁ?いいぜ、これで最後としようやぁ!『アマルガム』!最高速度でぶちのめせ!」

恐らく、後ろでは触手が俺に狙いを定めているのだろう。

だが、もう振り向かない。今、ここでやらなきゃ、殺られる。

俺は少し構えると、右手に力を入れる。男も応じて構える。互いに準備は出来ている。あとは、放つだけ。

触手が、男の拳が、俺の拳が。一斉に放たれた。


あと数mmのところまで接近していた触手が、ピタリと動きを止め、灰になって消えてゆく。男が、その場に仰向けに倒れた。

「はは…や、やった……」

俺は、その場に倒れ込みそうになる。だが、俺の視界に写ったそれが、俺の体を硬直させる。

殴った部分…男の頭部が、体から離れ、向こうのT字路の家のコンクリ塀に埋まっていた。そのコンクリ塀には、左右の家まで届くほどの亀裂が入っている。

それだけじゃない。俺の今立っているこの道路に、左右の家のコンクリ塀に、隕石でも落ちたかと思うほどの亀裂が入っていた。

「…マジか…………」

俺は今度こそ倒れ、そのまま意識が途切れた。


都会の騒音なんて聞こえない、ネオトーキョーの深い闇。迷宮のように入り組んでいる路地裏の奥。そこを、2人の男が歩いていた。

「なぁΣ。本当にここであってんの?」

ボサボサ髪と黒パーカーが特徴の男が、後ろを歩くもう1人の男の方を向いて言う。彼らの目の前には、ただのビルの壁がある。扉などは特に見当たらない。

「うん、確かにここであってるよ、Δ」

Σ、と呼ばれた男が、スマホを確認しながら言う。Σはずっと整った顔立ちで、ずっと微笑んでいる。

Σは壁の前に来ると、そっと壁に手を触れた。すると、壁が下にスライドし、地下へと続く階段が現れる。

「おぉ、カッケ」

「…行くよ、Δ」

数分ほど降り続け、やがてある部屋にたどり着く。

薄暗い照明が、部屋の中央にある大きなドーナツ型のテーブルを照らしている。そして、等間隔になるように椅子が5個置かれており、そのうちの3つは既に埋まっていた。その3人の圧が、ΔとΣをビリビリと震わせる。

Δが、ニヤリと笑った。

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