救済のエゴ

@amata-Danbooooru

第1話

「そっか。君は、███って子を消し去りたいんだ」

「…私もね、主人公って存在が嫌いでね。本当に、この世から1人残さず消し去りたいほどにね」

「ねぇ、私と一緒に行こうよ。主人公も、███も、全部。全部この世界から無くすんだ」

 「私が、君を救ってあげる。だから、私の手を取って?」


目が眩むほど美しい星空。星よりも輝く空を舞う鉄の塊。瓦礫だらけの廃ビル。


この日、僕は、救われた。



「先日の旅客機墜落事故について、警察の調べによると、現場の状況から、事件性が高い…」

テレビ内に表示される時計を確認し、テレビから目を離し玄関へと向かう。いってきます、とリビングの家族にも聞こえるように言い、今日も学校へと向かう。


ああ、今日もいつも通りの日々が始まる。


 

「んで、2028年…あんたらがクソガキのころに起きたのが、『超技術革命』だ。これにより、AIだとか医療だとか…あー、そうだ。この技術革命によって生まれた代表的なブツをー…んじゃ、明日斗。答えろ」

「んえっ?あ、えー、循環電池…ですかね?」

「循環電池はメジャーすぎ。他の奴…」


 

「明日斗、9.7秒!」

「うわ、下がってる…」

「50m9秒って、女子かよ!」

「相変わらず、運動はからっきしだなー」

「うっさい、俺は勉強出来るからいいんだよ」


 

「よし明日斗!飯食い行くぞ!」

「…俺今金ないよ?」

「おうおう!奢りだ奢り!行くぞ!」



「もう8時かよ、速ぇなー。んじゃーな!気ぃつけろよ〜!」

「おう、またなー」

「…急がないとな」


 

もう今日が終わる。昨日と同じような今日が。 

そう、今日もいつも通り。学校に行き、授業を受け、友達と遊び、家に帰る。

ただ、それだけ。悪いとは思わないけど、物足りない。それだけの日々。

帰り道も、変化は無い。相変わらず人で溢れ、ネオンの光が人々を照らしている。あそこのビルは今日も明かりが灯っているし、ベンチは酔っぱらいのたまり場になってるし、普段は鉄柵で閉じられた路地裏も開いて…。


「あれ?ここ、開いて…」

ふと、イケナイ考えが頭をよぎる。止めろと理性が叫ぶが、今の俺からはその考えが離れない。

そうだ、別に盗みを働く訳じゃない。ただ、ちょっと中を覗くだけ…なにもないだろうし、ちょっと見てすぐ出てく…そう、それだけだ。

もはや今の俺は、「非日常」を求める獣と化していた。


俺はひっそりと扉を潜り、大きな音を出さないよう慎重に路地を進む。

数回程曲がり角を曲がる。特に誰かがいたりすることも無く、行き止まりに辿り着く。

「まあ、そんなもんだよな…」

そうポツリと呟き、来た道を引き返…

「やぁ。こんなところで、何をしてるんだい?」

不意に声をかけられ、飛び上がりながらも振り返る。

そこには、含み笑いでこちらを見つめる、スーツ姿の青年が居た。

ヤバい。怒られる…!

「…ただの一般人か。本当はアイツらがよかったんだけどなぁ…」

そんな男の呟きは、自分の胸の鼓動にかき消された。

「まあいい。ちょうどガキをいたぶりたいところだったし」

うわっ!近づいてくる!と、とりあえず謝らな…きゃ……?

 

その瞬間、俺の右腕から鮮血が吹き出した。

「…は?」

「フフッ、まさか僕が土地の管理者で、怒られるとか、そんな展開になるとでも思った?残念、君はもう生きては帰れないよ」

男は、振り上げた手に付いた血を見上げながら、まるでそれが当たり前かのように、俺に言い放った。男の手の甲から、鋭い刃物が顔を出していた。

「な、それ、生えて…」

恐怖で足の力が抜け、その場に座り込んでしまう。

「いやぁ、君も災難だね。『ネオトーキョー』の人目につかない場所なんて、日本で1番危険な場所なのに」

男が近づいてくる。反射的に後ろへ下がるが、壁にぶつかってしまう。

「うあ、あ……」

「あーあ、恐怖で声も出なくなっちゃったか。安心しなよ。ちゃんと死ぬ覚悟が出来るように、たっぷりと痛めつけてやるから」

男は振り上げたままの腕を俺に向け、手の甲から生えたそれを俺に向かって……!


振り下ろされることは無かった。男は力が抜け、その場に倒れ込む。いや、これは…

「し、死んで…!」

男の首から上が無くなっている。頭部はどこかへと消え、断面からは血が流れ、俺の靴を濡らしていく。

「はぁ、なんとか間に合ったか。ったく、戸締まりはしっかりしろって、あれほど…」

俺は、男の後ろに立っているもう1人の男と目が合った。

動けない俺に向かって、その男は言う。

「あー、なんだ…。とりあえず、俺について着てくれ」

男の背後に、鋭い獣の眼光が見えた。



怪我した腕に軽い処置を受けた俺は、少しふらつきながらも男の後をついて行く。

逃げたいとも思ったが、人の頭を一瞬で消すような奴に逆らう勇気は無いし、内心、この状況に期待してしまっている自分がいた。

この先には、自分の求める「何か」が、ある気がした。



俺たちが辿り着いた場所は警察署だった。男が受付で少し話した後、俺たちはある部屋に通された。看板には、特殊事件捜査課、と書いてある。

中に入ると、かなり広い部屋だったが、中には1人しか人がいなかった。キチンと整えられた髪、ピッチリとしたスーツ、高級そうな高いメガネと、いかにも「真面目」と言った感じの男だ。

その人は俺たちに近づくと、

「宇治乃明日斗さん、ですね。こちらにお腰掛け下さい」

「あ、はい!」

促されるまま、1人用のソファに座る。他のふたりは俺と向かい合うように座る。

「まずは…明日人さん、こんばんは。特殊事件捜査課課長、昨宮晋平です。よろしくお願いします。そして、こちらが…」

「黒氏深弧だ。さっきは驚かせてしまったな。すまなかった」

「あ、いえ…」

「…早速ですが、本題に移させてもらいます」

昨宮と名乗った男のメガネが光る。部屋の空気が重くなり、思わず息を飲む。

「…それの歴史は、江戸時代中期が始まりと言われています。そして、2040年現在まで、その存在は秘匿されてきました。」

「それは、時に魔法と呼ばれ、時に仙術と呼ばれ、時に神から授かった力なんても呼ばれ…今、我々はそれを、仮称として『能力』と呼んでいます」

「能…力……?」

「はい。物理法則を無視した超常現象を引き起こす、元より人間に埋め込まれている能力の1つ…いや、実際に見た方が早いですね。深弧さん、お願いします」

深弧は小さく頷くと、スっとソファから立ち上がる。そして、静かに目を閉じ…

それは、突然現れた。開いたままの大きな口と、そこから伸びる鋭い牙。羽のように広がるヒレ。体を覆う硬そうな鱗。サッカーボール程の大きさの魚のようなそれは、不快な鳴き声を発すると、自由に空中を泳ぎ回った。

「……ふぇ?」

思わず変な声がでた。

なんだこれ。え?ほんとに何これ。これが、その能力?

「…信じられないと思いますが、生物を生み出すことさえ可能な力…そんなものが、確かに現実にあるのです」

「ふぇー……」

「…少し休憩しましょうか」


〜休憩中〜


「案外可愛いな〜」

俺は、膝の上に転がる魚?を撫でながら言った。

「もう大丈夫そうですかね。では、続けますね」

「深弧さんの能力『ディープ・ワン』のような超能力を、人1人につき1つ所持しています。そして、それが発現するきっかけの大半が…」


「能力者と出会う、というものです」

魚を撫でる手が止まる。昨宮が何を言いたいのか、分かってしまった。

「明日斗さん。あなたには、能力が発現している可能性があります」

「っ!」

大方予想出来たとはいえ、思わずその言葉に気持ちが高ぶってしまう。俺も思春期の男子の1人だ。能力だとか、そういった特別な力には、どうしても惹かれる何かがある。そんな力が、俺に使えるかもしれないのだ。

そりゃあワクワクが止めらんねぇよなぁ!

「勿論可能性の話です。能力が発現していなければ、そのまま記憶処理をして元の生活に戻れるようにします。ただ、もし能力が発現していれば…その時はまたお話します」

…あれ?空気変わった?なんか急に凄く怖くなったんだが。

「能力の使い方は簡単だ。余程発動条件の厳しい能力じゃなきゃ、使おうと思えば能力が発動する。さあ、やってみろ」

深弧が静かな目付きで俺を見る。

え?ほんとにやめて怖い。能力が使えるやつは死ねー!とかそんな展開になったりしないよね?

だが、突然訪れた「いつも通りの人生」を変えるチャンス。手放す気は、毛頭なかった。

出ろ、俺の能力!

心の中で、思い切り叫んだ。


次の瞬間、両腕にずっしりとした重みを感じる。突然のことで反応できず、手の重さに引っ張られ倒れてしまう。

「いって…って、あれ?」

俺は、重い手に力を込め、手を上げる。

「なんだ、これ……」

俺の両手には、黒く、ゴツゴツした見た目の…篭手?が装着してあった。

「明日人さん、大丈夫ですか?」

昨宮が、俺に近寄り手を差し伸べる。俺は、その手を取ろうとするが、

「待て、その能力の詳細が不明な以上、迂闊に触らない方がいい」

「っと、私としたことが、初歩的なことが抜けてました。明日人さん、1人でも立てますか?」

「あ、はい。大丈夫です」

俺は床に手を当て、立ち上がる。もう手の重さにも慣れてきた。

「…能力が発現した、となると…とりあえず、座って下さい」

「あ、はい」

俺は再びソファに座る。

「…ハッキリと言わせてもらいます。明日斗さん。貴方は能力者となりました。そのことを再認識した上で、覚悟して、聞いてください」


「能力者となった以上、貴方が普通の生活を送るのはほぼ不可能です」

「へ?」

「…まず、こちらの資料を見てください。この資料は、能力者の犯罪率を統計結果とそこから考えられる能力者の特性がまとめられています」

そういって、昨宮は1枚の紙を手渡す。俺は資料に目を通す。正直なにも分からない。

「その資料にもある通り、政府の管理下にない能力者の犯罪率は、80%を超えています。」

は、80%!?え?能力者ただの危険人物じゃん!

「…〜資料下部の通り、能力者の殆どに倫理観の欠如が見られ、能力者は自身の能力を、他人に対して使用する欲求が高まる〜…強いては…」

…???やっべ、話聞いてなかった。なに言ってんだ…?

「おい、昨宮。話についていけてないっぽいぞ」

「…失礼しました。まとめると、能力者は暴力的欲求が高まる傾向があるため、貴方をこのまま帰すと事件に発展する可能性がある…という話です」

「なるほど」

「そして、その上で、貴方には2つの道があります」

「1つ目、政府の監視付きですが、能力を持ちながらも普通の生活を送る」

「そして2つ目、対能力者専門の治安維持組織に所属する」

「治安維持組織?」

「…はい。能力犯罪の解決を専門とした組織…ですが、オススメはしません」

「…?なんでですか?」

「それは、その治安維持組織の実態にある」

深弧が口を開いた。

「治安維持組織、なんては言ってるが、実際は能力者の欲求を満たすための肥溜めだ。犯罪者なら殺しをしようが何しようが自由。そうやって、組織に所属してる能力者の犯罪を無くそう!ってことだ」

「…説明、ありがとうございます。今言ったことは全くその通りです。高校生の貴方が行くべき世界じゃない。欲求の我慢は辛いでしょうが、我々がサポートします。なので、普通の生活を送りま」

「やります」

「…え」

「その治安維持組織っての。やります」

「……はあああああああああ!?」

なんでも、その昨宮の叫びは、警察署中に響き渡ったという……。

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