第30話 一撃(2/2)

点滅する街灯の下に女の子が一人、肩で大きく息をしている。

僕が赴任してから、ずっと関わってきた女子中学生。

濡羽色の長髪にポニーテール、すらりと地面から上に伸びた、誰もが目を引く容姿に、制服と共地の紺色ベストを着た剣道少女。

今回の事件の一つ奥に僕を進めた、学校に因縁のある女子生徒の一人。

思えば色々と巻き込まれてきたものだ。


嘘をつけない、すぐ顔に出る。

意地も張るなら食い意地も張る。

物怖じなどせず無鉄砲。

突飛が過ぎる行動にこちらの肝が何度冷えたか。


しかし、


咲き誇る桜のようによく笑い、感情豊かで素直な心。

年相応の子供らしさに情が深くて友達想い。

教師も生徒も魅了する、学舎がくしゃに轟く咆哮と飛び翔け抜けるその健脚はまさに韋駄天。

だが、生来に備わるは大人だろうと打ち倒す紫電一閃、天が授けた剣の才。


その生徒の名は、小日向櫻子。

僕の大事な教え子だ。


彼女は右手で引きちぎるようにネクタイを緩める。

そして、左手の竹刀袋から僕の生徒は今、まさに鞘から刀を抜くように竹刀を引き抜いた。



距離があるにも関わらず聞こえた、はたりと地面に落ちる竹刀袋の音。

彼女の乱れた呼吸音が徐々に小さくなっていく。

そこから一瞬とも数秒ともとれる間が経過すると、何事もなかったように小日向櫻子はゆっくりと動き出した。

左足より無理のない形で前方に出された右足、脱力した肩。

力むところが一つもない両腕は、竹刀と一体化しているようだ。

その切っ先は相手の喉元、目線は打ち倒すべき眼前の敵に据えられている。



彼女が構えた途端、僕には空気中を漂う水の一粒一粒が止まったように感じられた。

瞬間―、


「おおおおおおおおおおおお!!!!!」


人とも獣ともつかない気合と空気の壁が吹っ飛んできた。

僕はたまらず尻もちをつく。

対象が僕ではないことは当然理解している。

しかし、本能がここから逃げろと警告していた。

大隈先生から感じたそれとは質が違う。

明確な殺気だ。


だが、僕は頭を振り、正気を取り戻す。

助けに来た彼女を見捨てるわけにはいかない、見届けなければならない。

信じろ、自分の生徒を。

小日向櫻子の一挙手一投足を。



不思議な光景だった。

彼女とそれを取り巻く数メートルにも満たない範囲がはっきりと見える。

世界のあの部分だけ補正がかかったかのように、闇夜の中で彼女の姿が鮮明に見えている。

これは解像度が高いというやつだろうか。

もしや、先程の空気の壁で彼女の周囲は余計なものが排除された?

だとすると、彼女の周りだけが澄み切っているとでも言うべきか。


小日向は僅かに笑みを浮かべ、不動のまま構えている。

剣道の基本である中段の構えを、裂帛の気合の後とは思えない、凪のような穏やかな佇まいで。

僅かに浮かんだ微笑みも感情から出ているわけではない。

自らが全て整った結果、自然とそうなったとしか考えられない。



気づけば不規則に点滅していた街灯が、周囲と同じように煌々と夜を照らしていた。舞台のピンスポットは彼女に向けられていた。


「誰かと思えば、剣道部の問題児か。ビビらせやがって。」


彼女は微動だにしない。


「てめえのせいで俺の仕事が増えたなぁ。氏子にもムカついたが、てめえにもムカついていたんだよ。何とか言えよ!あぁん⁉」


安っぽい遠吠えが、空しく周囲に響く。


「他所から来た小汚ねえ外部指導者おっさんを潰したか何か知らねえが、どうせこすズルい手を使ったんだろう?一発お仕置きしたら…、あとは死ぬまで後悔させてやるよ。」


水内が鉄パイプを担いだ。


「死ねや、こらあああ!!!」


瞬間、銃声のような踏み込みの音と竹が景気よく爆ぜる音。

水内の振りかぶった袈裟斬りに狙い澄ました小手打ち。

僕が以前食らった技、認識した時には切られている不可避の一撃。

地面に凶器の鉄パイプが零れ落ち、周囲に乾いた金属音が木霊する。

敵は突然の激痛に苦悶の声をあげ、咄嗟に身を丸めた。

女の子でも打ちやすい高さに、標的の頭部が下りてくる。

彼女は折り込み済みと言わんばかりに、既に一歩下がって間を取っていた。


「とおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


裂帛の気合と共に振り下ろされる大上段、渾身の一撃。

構えたと思えば結果しか見えない雷のような一撃は、正確に頭頂部へ命中した。


衝撃は如何ほどのものだったのだろうか。

手本としてこの身に受けてきた一撃とは比べ物にならないはずだ。

衝撃は骨どころか内臓まで、頭頂部から股の先までを綺麗に突き抜けたに違いない。


どさり


激しく竹の爆ぜる音が聞こえて間もなく、水内は力なく前のめりに倒れた。

渾身の一撃を放った少女は、部活中とは全く違う人とも獣ともつかない眼をして、意識がなくなった物体を見下ろしている。

普段のあの子から想像出来ない冷たい眼に、僕は息を飲む。

手元から伸びる切っ先は相手の首元を指しており、いつでも追撃が入れられる体勢を取っていた。

『身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ』が本来の残心らしいが、残った心であれを成しているなら感服する以外あるまい。


僕が唾をごくりと飲みこんだその時。


「先生、大丈夫!」


竹刀が放り出され、小日向櫻子はこちらに駆け寄ってきた。

その眼は僕が今まで見てきたものだった。


「ねえ、大丈夫!怪我は⁉こんな傷だらけになって!ねえってば!」


「心配するな。こんなの座禅で肩を叩かれた程度だよ。」


「ごめんなさい。学校から先生を尾行けていたんだけど、距離を取っていたからすぐに追いつけなかった。」


「仕方ないさ。ぼんやりしていて一発もらった僕も悪い。」


水内は植え込みにでも隠れてたのだろうか。

それに気づかない僕は間抜けもいいところだ。


「こんな泥だらけになって!肩を叩かれたって言ったよね?動くの?」


「動くよ。当たったのは首に近い筋肉で骨は外れているみたいだ、ほら。」


僕はおどけて肩を回すが、胴体から脳を直接串刺しにするような激痛に思わず声をあげてしまった。

目の前の慌てた彼女は、わたわたと所在無げに両手を動かす。


「だから、そんな顔をするのはやめなさい。小日向の責任じゃないよ。」


今にも泣きだしそうな顔をしている彼女を慰める。


(生徒にこんな顔をさせるつもりはないのにな。本当に僕ってやつは。ぼさっとして一発もらって、転がりまわって、尻もちついて、このざまか…。)


「ところで、小日向。目の前のあれって…ったの?」


こればかりは確認しなくてはならない。


「失礼な!ちゃんと手加減しました!でも、小手は…少なくとも骨にひびが入っているかも。」


一気に調子を取り戻したのは良いが、彼女は視線を逸らし、一撃目の結果を誤魔化そうとしている。

だが、誤魔化そうと言っても無理な話だ。

あの気合が殺気十分だったのは分かっているし、その直後の一撃だ。

想像を遥かに超えた威力だったに違いない。


「安心しろ、あれはすっぱり骨が折れてるよ。小日向櫻子渾身の一撃だもんな。」


中学一年にして大人を倒し、木塚を興奮させるほどの腕前だ。

骨を断つぐらいの芸当は出来るだろう。


彼女はむずがゆいような表情を浮かべ、次の言葉を探している。


「やった私が言うのもなんだけど、あれって大丈夫だよね?」


「警察がそのまま病院に担ぎ込めば、大丈夫なんじゃないか?今も気絶しただけで、大量出血ってわけでもなさそうだしな。」


「大量出血って。私を殺人犯みたいに言わないで!」


そもそも教え子がそうなっては困るんだ。

余計な想像をさせるな。


「悪かった。小日向が守ってくれなきゃ、僕はその辺の暗がりで冷たくなってた。」


これは紛れもない事実だ。

現状でも人通りがないこの場所では、たとえ大通りに逃げ込めたところで結果は同じだろう。

どこかで動きが止まるほどの一撃をもらい、次いで致命的な一撃。

挑発も入れたから貰ったが最後、その後は餅つき大会ってところだろう。

想像したら頭の先から順繰りに、どっと疲れが体にのしかかった。

おまけに先程動かした右肩がまだ小さく悲鳴を上げて、体中の神経という神経を突き刺しまわっている。

だが、これだけは今ここで必ず伝えなければならない。

自分の命を顧みず助けてくれた、大事な教え子へ。

昔の、いや、磨き直した今の自分に似た君へ。

今の僕よりも純粋で鮮烈な輝きを放つあなたへ。


「小日向、ありがとう。」


「どういたしまして!」


瞬間、きょとんとした表情を浮かべた彼女だったが、すぐさま咲き誇る花のような笑顔を返した。

その屈託のない笑みに、僕は微笑わらってしまう。

ほっと一息つけるような顔しやがって。


「人の顔見て笑うとは失礼な!」


「安心したんだよ。ヒーローが小さなことに突っかかるな。」



膨れっ面の彼女を宥めながら、これからの手順を考える。


(まず警察…。いや、その前にあれを縛らないと駄目か?それが駄目なら大隈先生みたいに固め技でもしなきゃいけないのか?いや、俺は固め技なんて出来ないだろ。縛るなら紐か?縛る紐なんてどこに…。)


散漫な思考ではどうでもいいことが浮かんでは消えていく。

気が緩むとこうだからいけない。

しかし、目の前の大事な生徒が全身全霊を持って僕を守ってくれたのだ。

表情をころころと忙しく変え、感情を豊かに表現する今の姿は、そんな面影を微塵も感じさせないが。


(さっさと手を打って、安心させてやらないと。)



ざりりっ


視界の外から、砂が転がるような音がした。

僕が足を動かしたからだろうか。

僕の目の前には小日向がいる。

彼女が動いたような気配はない。

僕についた生傷をまじまじと見ては、表情を曇らせている。


(小日向は何も感じてないか。)


視界に彼女の向こう側が少しだけ映ったが、仄暗く視界が悪い。

明るい街灯の真下に僕らがいるということもあるのだろう。

いつの間にか僕らより一つ前の街灯、公園の総合管理棟入り口の街灯が再び不規則に点滅し始めている。

ぶん、ぶ、ぶぶんと明かりが点滅するたびに、異音を発している。


ざりっ、ざ、ざりり


再びあの音だ。

相変わらず小日向は気づいていない。



僕が彼女の背後に目を凝らすと、場面が途切れ途切れの不出来なストップモーション作品のように、黒い塊が立ち上がる寸前だった。

黒い影は意識がないのだろうか、どこか動きに魂が抜けているような軽さがある。

だが、黒い物体の両足に体重が乗り、今まさに直立せんとする瞬間―、僕の身体が動いた。



右腕が思い切り小日向を横に払う。

彼女の左腕の骨に右腕がかかったとき、脳が肩口から痛みの槍で直接刺された。

今まで感じたことのない激痛に意識が飛んでしまわないよう、奥歯同士をしっかりと噛み締める。

肺からは、空気が苦悶の声と共に漏れ出す。

体は右腕に流され左に捻った勢いそのままに、左掌へ体重を集め、地面を渾身の力でもって押し出し、体を跳ね上げた。

そして前傾のまま倒れてこんでしまわないように、諸手を地面に付ける。

今の姿勢は、明らかに窮屈なクラウチングスタートのように見えているに違いない。

距離はほんの数メートル。

前方に飛び込むことさえ出来れば十分だ。



一方、黒い塊はこちらに気づいたのか、直立の姿勢からゆっくりと首を回し、顔だけをこちらに向けた。

顔面は赤黒く、見開いた両の眼を爛々と光らせている。

頭頂部への一撃の影響なのか、口は真横に裂けたように広がり、上下の歯が犬歯のように尖って見えた。

その姿、まさに異形。

不規則に切り替わる光と闇の世界の狭間で生きる類の化け物だった。


きゅる、し、ぶっ、しゅるふるる、くるる


こちらに顔を向けた異形から、声にならない吐息と赤黒い泡が口から漏れる。

身体は視界に捉えた情報と相手の出す異音に反応して、足元へ力を貯めた。


『オン・ユア・マーク』


脳裏に浮かぶは、あの日見た彼女の姿。


『セット』


仮想の号砲と共に、僕は体重を左足にかけ思い切り地面を蹴った。

体は銃弾のように前方に飛び出す。

勢いに任せて飛び出した右足が全体重を受け止めるが、まだ間合いが遠い。


(もっと、もっと前へ。)


そう思うと、左足が右足に引き寄せられ、自然と足が継がれていた。

全体重が移った左足で、再度地面を捉えて押し出す。

視界は平行移動するようにブレがない。

化け物は体全体でこちらに振り向く寸前。

ここがラストチャンスだ。

真正面に水内だった何かを捉えながら、僕は左腕を振りかぶる。

この勢いなら、確実に間合いに入って拳を振り抜けるはずだ。

パンッという音と共に着地した右足で地面を踏みしめ、反動を全身に伝え左拳を突き出す。

今の姿は、槍投げの選手のように前傾姿勢でつんのめっているはずだ。

いや、そんなに美しいフォームなわけがない。

きっと無様で笑ってしまうくらい不格好に違いない。

だが、正真正銘、全体重の載った全身全霊の一撃。


(いけええええええええええええ!!!!!)


突き出された拳は、吸い寄せられるように相手の鼻先を捉えた。

化け物がこちらに向き合ってすぐの顔面。

拳に伝わる、がちりと骨と骨がぶつかる感触。

くにゃりとした肉を潰している柔らかい感触もあった。

同時に僕の左拳は微かな悲鳴をあげた。

どうやら反作用の力に耐えられなかったらしい。

しかし、拳がそれだけの力を全て対象に伝えたということは間違いない。



目の前の異形はメトロノームのように足を起点にして、ばったりと後ろへ倒れた。

ごつりという鈍い音を残して。

赤黒い顔の男は目を見開いたまま倒れている。

腕は糸が切れた人形のように無造作に投げ出され、脚に力が入っている様子もない。

呼吸は…胸がかすかに上下しているようだ。

口も半開きになっているから、意識だけが完全に飛んだ…でいいのだろうか。

不規則に点滅していた街灯は、再び正常に煌々と闇を照らし始めた。

放り出された僕の書類鞄に小日向の竹刀袋、そして襲撃に使われた鉄パイプも全て。



凶器が握られていたと思われる部分は赤黒く染まっていた。

水内は怪我でもしていたのだろうか。

僕は気になり、地面に投げ出された半開きの掌に目を向ける。

白色の光は、くっきりとその様子を浮かび上がらせた。

どうやら印刷室で見た噛み傷や切り取り線のような跡が出血の原因のようで、裂けた皮膚と少しだけ顔を覗かせる肉が生々しい。

点線のような印象を与えたということは、頻繁にやっていたということだろうか。


手全体に目を凝らすと、指先は不自然に血に染まり、特に爪はマニキュアを塗ったように赤黒かった。


(あんたも我慢してたってわけですか。)


自分の思い通りにいかない時の癖だったのだろうか。

だが、同情は出来ない。

この男は身の回りの利用できるものを、全て自分のために利用してきたのだから。



「…鷹村先生?」


背後から聞き馴染みのない、弱々しい声が聞こえてきた。

その声に、僕は我に返る。

そう、やることは山積みだ。

帯も段もない空手経験者風情が、残心の真似事などしている暇はない。

ましてや元全国で指折りの実力者だった小日向でもないのだ。


振り返ると、彼女は地べたにぺたりと座っていた。

声は出せたものの、まだ放心状態のようだ。


「どうした?制服が汚れるぞ。」


「先生が払い飛ばしたんでしょーが!でも、ごめんなさい。腰抜けちゃった。」


抗議したかと思えば、すぐに照れ笑いに変わった。

本当に忙しいやつだ。


「分かった。今そっちに行く。」


一歩、また一歩と足を踏み出すと、体の節々どころか、体全体が悲鳴を上げていた。

一撃を食らった右肩、右腕、右足も再び痛み出している。

これが火事場の馬鹿力の反動というやつなのだろうか、我ながら満身創痍にも程がある。

笑ってしまうくらい無様な恰好だ。


「大丈夫…じゃないよね?先生。」


「あぁ。洒落たことの一つも言えそうにないくらいに、大丈夫ではない。」


半ばふらつきながら彼女の目の前まで来ると、はっきりと彼女の表情を捉えることができた。

その顔は『心配』『不安』の二つで埋め尽くされている。

…『大丈夫』の一言で済ませるべきだったか。

とことんヒーローに成れないもんだ。

だが、ぼやいてもいられない。

この子にはいつものようにからからと笑っていて欲しい。

そんな湿気た顔は似合わないから。


「小日向、手をグーにしてこっちに出せ。」


「どうしたの、急に?」


意図を図りかねている彼女は、言われるままに右の拳を突き出す。

僕は右肩の痛みがあったので、自然と利き手の左拳を突き出した。

それを見た彼女は意図を理解したらしく、屈託のない笑みを浮かべ、そうこなくっちゃと言わんばかりに自分から拳を当ててきた。


こつん


「いっっってえ!!!!!」


拳に走った軽い衝撃は激痛となり、全身を駆け巡った。

痛んでいた左拳のことがすっかり頭から抜け落ちていた。


「もう!雰囲気台無し!」


ロマンチックな展開を夢見ていたに違いない少女は、ぷんすかと頬を膨らませている。

だが、こちらは痛みでそれどころではない。


「すまん!ちょっと待ってくれ!」


僕は呼吸を整え、徐々に体を落ち着けていく。

目の覚める痛みとはこのことか。

格好つけるとすぐこれだ。


「締まらないなあ…。」


大人が情けなく痛みに悶える様子を見て、現実に向き合わざるを得なかった少女は、呆れて果てている。

僕は痛みが落ち着いたところで、呆れ顔の少女に改めて右手を差し伸べた。

もうワンテイク、取り直しなしの一本勝負。

彼女は訝しげに僕の顔と右手を交互に見る。


「本当にこっちは大丈夫?それより左手…。」


「先生ってのはな、腕の一本や二本使えなくても、打つ手なしにしちゃいけない場面があるんだよ。」


「何それ。」


彼女は噴き出し、腹を抱えてからからと笑いだした。

…外したか。

良い文句だと思ったんだが。

笑うだけ笑って呼吸を整えた小日向は、吹っ切れたような表情で僕を見ると、ニッと一笑い。

そして、僕の右手をぎゅっと力強く握る。

右掌に圧力がかかったことを合図に、僕は右腕全体を強張らせ、上に向かってぐっと一気に引き上げた。

力を利用した彼女は跳ねるように立ち上がり、体操選手のように足を揃え、音も無く見事に着地した。


「よくできました、先生。」


「そりゃどうも。…お前もな。」


十点満点の笑顔が見れて良かった。

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