第14話 バッカスの酒を求めて
ヒスイの町から西へ飛んでいくと徐々に小さく町が見えてきた。近くには大きな滝が流れている山々に囲まれた町だ。
バッカスは山から湧き出る澄んだ水を使った酒を作り有名な町だった。
「空気が美味しそうな場所ですねー」
バッカスの町を見てシルスラは声に出す。
「だけどどうやってあの町から酒を盗めば良いんだろうな」
ガルーダは悩んだ。
「事情を話したらくれたりしませんかね?」
シルスラの言葉に何を言っているんだとガルーダはため息をつく。
「ねえ、あれ見て。下!」
キッドが叫ぶ。
ちょうどバッカスの町を見下ろす位置にある丘にモンスターの群れに囲まれた小さな影がひとつ見えた。
人間の子供のようだ。
モンスターに襲われている。
「ガルーダさん、助けに行かないと」
シルスラも状況を確認し叫ぶ。
「おいおい。人間に関わるのはごめんだぜ。どうせろくなことにならない」
ガルーダは無視してバッカスの町へ向かおうとする。
「助けなきゃ。ガルーダさん。早く降りて」
キッドも焦りながら言う。
「キッドまで何言ってんだ。無用な争いは避けるべきだろ」
ガルーダは助けに行こうとしない。
「ガルーダさんも悪いモンスターと同じなんですか。助けるのに人間もモンスターもないですよ。困ってる人は助けないと」
シルスラは必死の目をしていた。
「っけ。わあーたっよ。どうなっても知らねえぞ。しっかり掴まってろよ」
ガルーダは丘に向かって急降下した。
「グヘヘへ。この子供を探してる親からたんまりとお宝をもらってやるぜ。それまでは殺さないで置いてやるからなあ。安心しな」
子供を襲うモンスターの内の一匹が言う。
子供はそれに対してただただ怯えていた。
「お、おい。なんだありゃ?」
ガルーダの影に気づいたモンスターが叫んだ。
しかし他のモンスターも気づいた頃にはガルーダは地上数センチまで接近していた。
「つかまってー!」
キッドは叫び子供に手を差し伸ばす。
子供はしっかりとキッドの手を掴みガルーダの背中に乗り上げる。
そして再び空へと飛び立つ。
「くそっ。逃すか。おい!」
その声に従い魔導師型のモンスターが詠唱を始める。
「いつかのキッドを助けた時みたいだな。けど今度は当たったりしないぜ」
ガルーダは言いながら飛ぶスピードを限界まで早めた。
魔導師型のモンスターの魔法は全くガルーダにかすめもしなかった。
そして子供を襲っていたモンスターたちの視界から逃げることができた。
「へへ、大したことない奴らだったな」
そう言うガルーダの背中では先ほど救った人間の子供が肩を小さくしていた。
「大丈夫?」
キッドが聞くと少年は首を縦に振る。
「僕たちのことが怖い?」
シルスラが優しい口調で問う。
すると今度は少年は首を横に振った。
しかし言葉は発しない。
「僕たちの言葉が分からないわけじゃなさそうですね」
シルスラが言う。
「ならなんで声出してくれないんだろう?」
キッドが頭を抱える。
「まあ、無理もないだろ。あんだけのモンスターに囲まれてたんだぜ?」
ガルーダは言う。
「そうだ。君のおうちはどこ?」
キッドが聞くと少年はバッカスの方向を指差す。
「え、バッカスなの。ガルーダさん、この子を送り届けてそのときお酒が欲しいって伝えましょう。そしたら分かってくれますよ」
シルスラはガルーダに言う。
「どうだかねえ。俺は町の近くまで行ったらその坊やを降ろして後は自分で帰ってもらったほうが良いと思うぜ?」
ガルーダは自分たちがこの人間の子供をさらったモンスターだと誤解されると思っていた。
「きっと人間も話せば分かってくれるよ。シルスラの言う通り僕らで送り届けてあげようよ」
キッドもシルスラに賛成のようだ。
「はあ、俺は辞めた方が良いと思うんだがな」
そう言いつつガルーダはバッカスめがけ高度を下げていった。
「お父さんとお母さんに会えるね。良かったね」
キッドとシルスラは少年に微笑みかけた。
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