第5話 村長
村長の家は意外にも質素な建物になっていた。中は寝室と居間があるくらいで少し狭いくらいだ。
居間にはやや大きめの黒い机があった。おそらくここで仕事をするのだろう。
村長の姿は見えない。
「おーい、村長さーん」
ガルーダが呼ぶ。
「出かけてるんですかね?」
シルスラがそう言いながら周りを見渡した。
「おっと、あんまり動き回らないように。どこかにいるはずだ」
ガルーダがその場から動かずに言う。
「おーい、ここじゃここじゃ」
何やら机から声が聞こえる。
シルスラはガルーダの背中に乗って机をよく見た。机の上に飛び跳ねているノミのサイズほどの物体が見えた。
目を凝らして見ると白い髭を生やした老人だった。
「相変わらずちっこいな。見つけるのにも一苦労だ」
ガルーダは言った。
「今日もワシが部屋の掃除をしてるときに村人が訪ねてきて気づかなかったみたいで潰されたわい。だから机の上に避難したところなんじゃよ。全く不便なもんじゃよ」
ノミの年寄りはやれやれと言う。
「人間だけじゃなく同じモンスター相手にも注意しないといけないわけだ。そりゃ大変だな」
ガルーダが同情した。
「僕よりも苦労してそうな人がいるんですね。僕もあんまり贅沢言えないな」
シルスラが言った。
かと言って魔王に翼をつけてもらうことを諦めはしなかった。
「ほほう。これはまた珍しい。シルバースライムじゃないか。お前さんもワシと同じ苦労人じゃの。どうじゃ、今までの苦労を語り合わんかね?」
村長が提案した。
「ああ、申し訳ないが俺たちはこれから魔王城に出かけるんでな。しばらく留守にするから今日は挨拶に来たんだ」
ガルーダは魔王城に行く理由などを説明した。
「なるほどのう。翼つけてもらえると良いのう。じゃがもし断られても大丈夫じゃ。いつでもワシらの村に来なさい。歓迎するぞい。そして人間とモンスターが殺し合わなくても良い世界にしていこうじゃないか」
村長はそう言いながらシルスラたちを送り出そうとする。
「ここの村の人たちはみんな良い人たちなんですね。本当にありがとうございます」
シルスラは涙を浮かべながらお辞儀した。
そしてガルーダと外へ出た。
さていよいよ魔王城までの冒険が始まる。
そこへ向かう道中で何があるのか、魔王はシルスラの願いを聞いてくれるのか、その答えはまだ誰にもわからない。
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