第6話 星月夜
9月3日。新学期が始まって二日目。昨日は始業式と宿題の提出だけで終わったのに早速通常授業が始まって披露困憊だ。俳句が無事に完成したのはお兄ちゃんも知っていることだし他の科目の宿題についてもちゃんと提出するのは当然なのでわざわざ報告することじゃない。
だけどわたしにはまだやるべきことが残っている。先生と生徒の関係は終わったけど、兄妹みたいな関係で結ばれている。そうじゃないんだよ。
「お兄ちゃんいる? いるよね。入るよ」
「おう。俳句の評価はどうだった? ってまだ授業は始まってないか」
「始まってるよ。古典はなかったけどね」
「そっか。せっかくならいい評価をしてもらいたいからな。先生としては」
「先生はもう終わり。教師面しないでくださーい」
「おいおい酷いな」
「だって、わたしがなりたいのは……」
部屋の空気がほんの少しだけ重くなる。お兄ちゃんも何かを察しているのか教師面をしないでという発言に対しての反応が薄かった。
「長年の想いを告げる星月夜」
今夜は新月。月が綺麗ですねなんて遠回しな告白はできない。ずっと抱えていた想いを、最初に作った日傘の俳句みたいにストレートに伝える。
「好きです。お兄ちゃんじゃなくて、恋人になってください」
わたしの好きな人は、今日誕生日を迎えて19歳になる。わたしはまだ15歳。二人の平均は17歳。17という数字は不思議だ。子供でもない大人でもない微妙な年齢を表すし、17文字あればいろいろな気持ちを表現できる。
「本当は俺から告るべきなのに」
「え、それってつまり……」
「すまん。照れ隠しで五七五で答えてしまった。俺も好きなんだ。でも、幼馴染で妹みたいな関係が壊れるのがイヤで、ずっと平静を装っていた。制服で一緒に歩いたのが本当にダメだったんだ。まだドキドキしてる」
「本当はすごい嬉しかったんだ? ご近所に見られたくないとか言ってたのに」
「嬉しいに決まってるだろ。年の差的に絶対に無理だったんだから」
「これからも一緒に制服着てあげてもいいよ。わたしは全然恥ずかしくないから」
「今年はギリ平気だけど来年からさすがにヤバいだろ。画ずらが」
「そう? 20代後半のアイドルが高校生役でドラマに出てから大丈夫じゃない?」
「むぅ~そういうのじゃなくてだな。俺が言いたいのは……わからないなら知らないでいい。とにかく俺の制服はもういい。昔からお互い好きだった。今は大学生と高校生。それでいいだろ」
「それもそうだね。じゃあ、お兄ちゃんは今日で卒業。これからは……」
名前を呼んだだけで口の中に甘酸っぱい味が広がった。檸檬のような爽やかさが脳を刺激して、すっかり俳句を考える頭になっていたわたしに一つの句が浮かんだ。
『久々に口にする名の檸檬味』
先生は幼馴染のお兄ちゃん くにすらのに @knsrnn
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