第46話 諜報員ラッセル ③

「うぐっ」

両腿の痛みに耐えきれず地面に私は膝をついた。

「貴方には色々と聞きたい事があるから、なるべく殺さないでおいてあげる」

「・・・私なんかを人質にしても役には立ちませんよ」

「別に人質になるとは思っていないわ。ただ、逃亡者達の側から協力者を引き離せればそれでいいの」

そうか、クロス様ケイト様を服に貼り付けたアイテムボックスに入れて運ぶ者がいなくなれば、クロス様は杖を突いての移動になるしケイト様の容姿は目立つだろう。

そうなれば連邦国家群の勢力圏に入ってもトラブルは避けられない。

「そんな事は・・・ガッ!」

剣を地面に突き刺して立ち上がろうとしたが、エカテリーナに剣を弾き飛ばされ地面にうつ伏せになった。

「詰所に拘束具ぐらいあるかしら・・・」


私はエカテリーナが詰所で見つけて来た錠前付きの木製の拘束具を後ろ手に付けられ、布で口を塞がれてしまった。

「ポーションは持ってるけど使わないでおいてあげるわ。移動中に運が良ければ死ねるかもしれないわよ」

「んーーっ! んーーっ!」

ダメだ抗議の声を上げようにも口が塞がれていて言葉にならない。

「さて、後はジャンが来るのを待つだけ・・・えっ?」

エカテリーナが頭を右に振ると、先程までエカテリーナの頭があった場所を何かが掠めた。

ヒュッ!・・ズガッ!

大きな音のした西門の壁には人の頭程の石がめり込んでいる。

この石が高速で飛んできて西門の壁にめり込んだのか?

石の飛んで来た方を見ると、二人の女性らしき者がこちらへ向かって走って来るのが見える。

エカテリーナを狙ったのか?

「・・・こんな展開は予知に無かったハズなのに」

エカテリーナは鞘から剣を抜くと、私の首にピタリと当てて走って来る2人に声を掛けた。

「そこの2人、止まりなさい!」

私の首に当てられた剣を見た2人は走るのを止めた。

エカテリーナと2人の女性までの距離は15m程の位置だ。

通路のあちこちには、足首の無い兵士の死体が転がっているという異常な状態だ。

「この状況、何があったのです?」

2人の女性の内の1人が視線で周囲の状況を指し示しながらエカテリーナに向かって口を開いた。

「この街へはお忍びで滞在をしていたのですが、賊が西門の兵士達を殺して門を超えて行くのを目撃したもので・・・。この国の貴族として見過ごす訳にもいかず、こうして賊の1人を捕えた所です」

律儀に返事を返しているのは、突然現れた2人の女が敵か味方かも判らないからだろう。

「そうですか」

「ところで、その貴族である私に向かって石を投げた理由を聞かせて貰えますか?」

「ああ、試したのです」

「試す?」

「偶然居合わせただけの方かどうかを」

そう話している最中にもう一人の女性が、足元に落ちている拳ほどの大きさの瓦礫を拾うとエカテリーナに向かって投げつけた。

ヒュッ!

「は?」

エカテリーナはその場から大きく飛び退いて飛んで来た石を躱す。

ボゴンッ!

石は西門の詰所の壁に当たり穴を開けた。

「ま、待ちなさいっ! 何で私が敵なのですか!」

「良かったです。貴方がこの国の御使い様で、一般人だったらどうしようかと思いましたもの」

「・・・私が御使い様ですって? 何を言っているのかしら?」

「西門の向こう側にいる方に教えて頂きました」

そう言うと、女性はエカテリーナに向かって走り出した。











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