第41話 乱戦

広場には100名程の兵士達が、両足の足首より先を失った事で立つ事も出来ずにその場に転がってうめき声を上げている。

その真ん中にいた転移者達は、俺がアイテムボックスの開口部を閉じる前に中空へと飛び上がってしまった為に三人共無傷のままだ。

『避けた・・・のか?』

『あの女が危機察知のスキルを使ったのよ』

『あの右側の女か』

中空には転移者の3人が浮いているが、その3人の右側に赤い髪を束ねた女がいる。

『直後に起こる自分の危機、先の未来に起こる天災や大事故、人や物の行方。それが視えるスキルを持っているみたい』

『3つもか?』

『あの3人の転生者は全員がレベル100を超えているわ』

『そういう事か』

転移者はこの世界への転移直後はレベルが1でスキルも1つしか持っていない。

だが、レベルを上げていけば、1つだったスキルは3つまで増えるらしい。

前にケイトからそう教えられた事を思い出した。

俺もケイトも所持しているスキルは2つなので、レベルを上げていけばあと1つは覚えるという事なのだろう。

ケイトとやり取りをしていると中空の転移者3人は移動していて、街の壁上に降り立っていた。

壁の上は外敵に弓等で対処する為の設備なので、かなり広くなっている。

『壁の上から近づかれるとケイトのスキルも使いにくいだろう。少し門から離れて広場の真ん中の方に移動しようか』

『そうね』

転移者から目を離さない様にしながら、俺は杖を突いて広場の中心に向かう。

すると、飛行スキルの転移者が1人だけ壁上を飛んで離れ、足首から先を失った兵士達の傍に降り立った。

『ん? アイツ、何をするつもりだ?』

「ひいっ、俺はもう戦えません!」

「や、やめてくれ!」

転移者は負傷して動けない兵士を右手と左手で掴むと中空に浮き上がった。

『っ!? 負傷した兵士の血を私達にかけた上で、空から兵士達をぶん投げてくるつもりよ!』

『なっ!?』

飛行する転移者は俺達の真上20m程の位置に兵士達を伴って静止した。

すると、止血もされていない兵士達の傷口から垂れた血が俺達の上に降って来る。

ボタボタボタッ・・・

俺は杖を持っていない右手で持っていた盾代わりのアイテムボックスを、開口部を真上に向けた。

嫌がらせか? 

だとしても血を被れば視界が遮られるし、アイテムボックスで血を受け止めるしかない。

ザムッ!

すると、壁の上から門の前に男の転移者の1人が降り立った。

ラテン系の堀の深い顔立ちの男か・・・

「捕獲を命じられているのはそっちの男だけなんでな、アンタには悪いが死んで貰う」

そう俺達に向かって言うと、転移者の男は腰に下げていた剣帯からサーベルと呼ばれる片刃の剣を右手で抜いた。

アイテムボックスの貼り付けは・・・無理そうだな。

ケイトが俺の杖を突いて歩く後ろを付いて来ていたので、転移者に向けてアイテムボックスを張り付ければケイトを巻き込んでしまう位置取りだ。

降り立った転移者もそれを狙っての事だろう。

『私が相手をするわ』

そんな葛藤を知ってか知らずか、ケイトは転移者の前に進み出る。

「無言で襲い掛かって来るかと思ったら、案外と紳士じゃないの」

ケイトも2本の短剣を中空に浮かべる。

そんなタイミングで空から兵士が降って来た。

「うあああーーーっ」「ひぃぃぃー」

俺はアイテムボックスの開口部を調整して、空から降って来た兵士達をアイテムボックスに収める。

「ストレントニング」

転移者の男は強化に類する単語を発すると、ケイトに向かって真っすぐに走り込んで来た。

なるほど、このタイミングを待っていたのか。

ケイトは2本の短剣を転移者の男の進路上に浮かせる。

キィン! キィン!

転移者の男は右手のサーベルで弾くが、不自然にバランスを崩すと前方へと転がった。

ズザザッ!

「ぐあっ! 何をしやがった!」

「言う訳ないでしょ」

恐らく、ケイトは転移者の男のつま先か踵をサイコキネシスのスキルで引っ掛けたのだろう。

人は足先が前に出るタイミングを僅かにズラされるだけで、簡単に転んでしまうからだ。

転がる転移者の男の背中に向かってケイトの操る2本短剣が追いかける。

「くっ!」

転移者の男は右に左に飛び退りながら、何とかケイトの短剣から距離を取ろうと逃げ回る。

そこへ飛行のスキルを持つ転移者が再び兵士を連れて飛んで来た。

今度はかなりの速度がある!?

兵士達は飛行の転移者から解き放たれたのか、転移者の手を離れてそのままこちらへと向かって飛んできた。

「うああああ!」「ぎゃあああっ」

中空を飛んで来た兵士達は俺達の手前の地面に落ちる兵士。

ザシャッ! 

手足がひん曲がった兵士達は飛んで来た勢いのままケイトと俺に向かって地面を転がって来る。

ガッ・・ゴッ・ズサーッ!

ケイトが俺から少し離れている分、アイテムボックスで止められるのは1人だけだろう。

盾に出したアイテムボックスのサイズは俺が引っ張って開口部を広げるか、一度消してサイズ指定する必要がある。

これを素早くやれる自信は無い。

俺はアイテムボックスの盾を横に構えた。

『ケイト避けろ!』

サーベルを持った転移者を追いかけ回していたケイトは、転がって来る兵士に気が付くと慌てて飛び退いた。





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