第40話 転移者
私の要請に応じてマテウスがスキルを発動し、私達は地面から空へと高く舞い上がった。
マテウスの飛行スキルは200kgの荷物を同行させる事が出来るスキルなので、私やジャンを自らと一緒に中空へ緊急退避させたのだ。
西門広場には両足の足首より下を切断されて転げまわる兵士達が悲鳴を上げている。
「足、足が!」「痛い!」「何だよこれは!」「ぎゃあああ、俺の足が!」
私は、広場に横たわる兵士達を見て驚愕する。
私のスキル"アラート"が発動して、私の足首から切断される映像が頭の中に飛び込んで来た。
私の剣幕に驚いたマテウスが飛行のスキルを使う事で、危うく難を逃れたのだ。
「一回の発動で兵士全員かよ・・・アイテムボックスのスキルだよな? あれって」
私の隣で同じ様に空に浮いているジャンが私に問いかける。
「私達の持っているアイテムボックスの魔道具は中身の形を変えられなかったけれど、オリジナルは自由に変えられるって事みたいね」
魔道具となったアイテムボックスは、50cm四方のハンカチのサイズより入り口を広くする事は出来なかった。
だが、驚く事に門の前で杖を突く男の使ったアイテムボックスのスキルは、アイテムボックスの開口部を広場全体まで広げていた。
兵士の被害が足首だけな所を見ると、深さを10~20cmにして開口部をとにかく広くしたのだろう。
「俺達もあそこに立ったままだったら、ああなってたのか?」
「そうよ」
スキル"アラート"が私にそういう未来を視せている。
私が何もせずに黙って突っ立っていたら、兵士達と同じ目に遭っていただろう。
占術と違って身に降りかかる危険を察知しないと発動しないパッシプなスキルだから、こういう時にはありがたい。
「なるほど、お前がバカにしていたアイテムボックスでも戦いようはあるみたいだぞ?」
マテウスが私とジャンの会話に口を挟む。
出発前にジャンがアイテムボックスというスキルを持つ転移者を侮って、軽口を叩いていた事への嫌味なのだろう。
「チッ・・・」
「兵士達の矢を防いだ黒い四角の何かもアイテムボックスなのだろう。地面に薄く張り付けたりと、オリジナルはかなり応用が利くようだ」
「どうするの? このまま逃げ帰る? 私は対象の発見っていう仕事は果たしたし、別に構わないけど」
「冗談じゃねぇ! 何もしないで帰ったら、俺はアンタ達と違って粛清の対象だ!」
予知系の私や飛行系のマテウスには荒事以外の利便性を重要視されているから、このまま戻っても問題はないだろう。
そもそも、私は荒事への不参加を許可されているのだし。
ただ、荒事に特化したスキルのジャンが何もせずに帰れば、粛清されて次の転移者を待つ"転移者ガチャ"(誰が名付けたのか判らないが)対象になるのは確実だ。
「ならどうする?」
「門の壁上に降ろせ」
「勝算はあるのか?」
「黒人女を人質に取る。そうすればあのアイテムボックスを地面に薄く張り付ける技も、黒人女を巻き込む位置取りをしてりゃ問題ない」
「宰相の様子からして、捕縛対象を殺せば確実に"転移者ガチャ"だぞ」
「ハッ、接近して1対1に持ち込めればどうとでもなるだろ。手足の骨をへし折ってでも無力化してやるよ」
「ふむ・・・上級ポーションは用意して来ている。手足を切り飛ばしても出血はすぐに止められるから、気にせずにやるといい」
「そりゃ助かるぜ」
私は軽薄なジャンを好きにはなれないので同情はしないが、マテウスはジャンを気遣っている様だ。
マテウスは私とジャンを門の壁上に降ろすとこう言った。
「先に私が仕掛けよう。それに気を取られた隙を狙うといい」
「悪いな」
「気にするな」
マテウスは倒れている兵士達の方に向かって飛んで行ってしまった。
私達が門の壁上に降り立ったからか、対象の2人は門の前を離れて広場の真ん中へと移動を開始していた。
兵士達に使っていたアイテムボックスの応用は、違う高さには適用できないのでしょう。
あの応用技は人が立つ地面に使うしかないのであれば、広場の真ん中で待ち受けるしかありません。
ターゲットの2人を避けて兵士の所へ辿り着いたマテウスが、負傷して動けなくなっている兵士を2人掴んで空へと舞い上がった。
「ハハッ! いいねぇ」
マテウスのやろうとしている事が判ったのか、ジャンが獰猛な笑みを浮かべている。
「一体何を・・・」
ジャンは壁上を一気に門の真上まで走ると、縁に足をかけて壁下へと飛び降りた。
「じゃあな、エカテリーナ」
「ちょっと、ジャン!」
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