第39話 対峙


警備兵の死体をアイテムボックスに回収した俺達は西門の両開き大きな門の扉の前にやって来た。

『開けるわよ?』

『ああ』

扉の大きな門の閂は外されているので、押せば開く状態になっている。

ギッ・ギギッ・・・

『うっ、重い・・・』

門の扉の片側をケイトが体当たりする様な格好で押すと、人が通れるぐらいの幅で扉が開いた。

ケイトはブツブツと文句を言いながら扉を押すのを止めているし、人が通れるだけの分を開けば十分だと考えているのだろう。

俺はその隙間から扉の外側を覗き込む。

『ああ、結構な人数がいるな』

扉の向こうはバスケットコートぐらいの大きさの広場になっており、真ん中を開けて100人程の兵士が左右に分かれて整列していた。

ケイトの得た情報通りだな。

ここからでは見えないが、兵士達の後ろには川が流れているのだろう。

兵士が開けた真ん中の部分は煉瓦で舗装されており、奥に木製の橋が架かっているのがここからでも確認できる。

橋までの距離はこの西門からだいたい20mぐらいか・・・なら広場全体に深さ10cmのアイテムボックスを張り付けてもかなり余るな。

俺が左手で杖を突きながら門の外へ出ると、ケイトもそれに習って外へ出て来た。

『ラッセルには安全が確保できるまでは出て来ない様に言っておいてくれ』

『ええ』

「ラッセル、安全になるまでは門の外には出て来ないで」

「わかりました」

俺達が門の外に出た事で兵士達にざわめきが起こった。

「おい、出て来たぞ」「あれを捕まえるのか?」「ダークエルフじゃないか」

「静かにしろ!」

ざわつく兵士達を上官らしき者が一喝するとざわめきは静まり、その後兵士達の後ろから中央の石畳の上へ3人の男女が出て来た。

3人とも首にゴーグルをぶら下げている。

ゴーグル? 何でこの世界にそんな物が・・・

『あの3人が転移者よ。左の男は身体強化型スキル、真ん中の男は飛行系スキル、右の女は・・・予知系スキル』

『飛行系スキルで飛んで来たから3人ともゴーグルを付けてるのか』

『3人で飛べるって事はかなりの高レベルなんでしょ』

俺達転移者のスキルはレベルが上がると成長する。

アイテムボックスもレベルが上がると格納容量が増すし、ジョインという新たなスキルを俺がダンジョンでレベルを上げた事で獲得できたのがその証拠だろう。

3人の中から革のコートを着た男が1歩前に出ると、俺達に向かって声を掛けてきた。

「私の名はマテウス。君達と同じ地球からやって来た転移者だ」

「だから何?」

ケイトがマテウスと名乗る転移者に返事を返した。

「君達はキグナス連合王国からは逃げられない。素直に捕まってくれないか? 悪いようにはしない」

「ハッ、私を殺す様に言われて来たんでしょう? その命令はどうするのよ」

「それは何とかする」

「両足を鋸引きにして一生牢屋暮らし? 冗談じゃないわ」

『コイツの頭の中に私達が捕まった場合の処遇が"両足の鋸引き"って浮かんでたわ』

ああ、会話しながら記憶を探っているのか。

『話し合いで解決なんてあるのか?』

『無いわね』

「では、あくまでこちらの譲歩は受け入れないと?」

「あんた達の言う譲歩ってのは、殺さない代わりに散々痛めつけた上で逃げられない体にして牢屋に入れる事でしょう? そんなのお断りよ」

『兵士が矢を撃ってくるわよ』

『分かった』

「交渉は決裂か」

マテウスが右手を上げると兵士達が弓をこちらに向けて構えると、一斉に矢をつがえた。

「まずは黒人女の方からだ」

『門の向こうに下がる?』

『いや、対処する俺の横にてくれ』

『わかった』

「撃てっ」

俺の横に立ったままのケイトに向かって一斉に矢が放たれた。

『アイテムボックス200cm×200cmでオープン』

スキルが発動して俺の目の前に200cm×200cmの開口部のアイテムボックスが現れた。

俺はアイテムボックスの端を掴むと裏返しにする。

すると、一斉に飛んで来た矢はアイテムボックスの中へと音も無く吸い込まれてゆく。

『あぶなっ!』

「な、何だ」「黒い壁が」「矢が吸い込まれたぞ」

アイテムボックスには裏表があって、表の開口部は真っ暗で分かり易いが裏側からは何も見えない。

俺とケイトからは一見何もない場所に矢が到達すると、突然消えたように見えるのだ。

『悪い、驚かせたな』

『矢が消えてく・・・これ、アイテムボックスの開口部の裏側?』

『ああ、中空に浮かせられるし裏返せば盾になるなって』

『裏側は透明なのね、知らなかった』

「撃ち方やめ! 弓はその場に放棄、抜剣!」

兵士達の中に優秀な指揮官がいるのだろう、すぐさま手段を切り替えて来たようだ。

『判断が速いな。アイテムボックス奥行10cmで地面に張り付けてオープン』

俺は盾代わりのアイテムボックスから手を離すと、その場にしゃがみ込んで前方の地面に右手を付いてスキルを発動させる。

すると、俺達よりも前方の広場と橋の上にアイテムボックスの黒い開口部が現れた。

「うわっ」「足元が黒い」「何だ!」

兵士達はよろけながらも口々に異変を叫ぶ。

だが、足元が10cm下がったぐらいでは誰一人として倒れたりはしない。

「マテウスッ!! 飛んで!! はやく!!」

転移者3人の中でマテウスの右にいた女の転移者が、俺のスキル発動と同時にマテウスの腕を掴んで大声を上げた。

『なにっ!?』

女の叫びからワンテンポ遅れて、転移者3人の身体が中空へと舞い上がった。

『くっ、アイテムボックス、クローズ』

俺は慌ててアイテムボックスを閉じる。

すると、抜剣して突撃の命令を待っていた100人を超す兵士達は、整列をしているその場で一斉に倒れ込んだ。







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