第38話 守備兵 ②
『こいつらにトドメ刺していいの?』
『少し待ってくれ。生きていれば人質の役割も果たすから、見捨てて逃げたりも出来ないだろうし』
『ああ、殺しちゃうと逃げ出す口実になっちゃうのね』
『そういう事だ。兵士達が生きていれば見捨てて逃げられないだろうし』
俺は杖を突きながらゆっくりと残りの兵士達に近づいてゆく。
「何だあの光る武器は!」
「クソッ、間合いが広くて近づけない!」
「誰か弓を持って来てないのか!」
「兵舎に戻らないと弓は用意できませんっ!」
床に転がっている兵士や隊長がギャーギャーと騒ぐので、収拾がつかなくなってきていた。
俺が杖を突きながら前に進むと、その分の距離を残りの兵士達はジリジリと後退している。
「おい、それ以上は下がるな!」
地面に倒れている隊長が怒鳴り、後退する兵士達を押しとどめる。
「しかし、我々には手立てが」
「あの剣で斬られたが、俺は死んでいない。一斉に掛かって取り押さえろ! 無事な者がコイツを捕えて元に戻す方法を吐かせろ!」
「わ、わかりました!」
兵士達も覚悟が決まったのか、互いに頷き合う。
「三列になって槍を構えろ!」
よくまぁ、地面に転がったまま偉そうに指示を出せるな。
「よし、一列目から一斉に突撃!」
「「「うおおおおおおおっ!!」」」
兵士達は5人3列になって槍を構えてこちらへ向かって走って来た。
俺は向かって来る兵士達を指差す様にして右手を肩の高さまで上げる。
『ジョイン』
スキル発動に伴って、俺の右手の指先から長さ1m程の半透明の光る刃が現れた。
この長さじゃ届かない。
『最大まで伸びろ』
そう念じると光の刃は2mを超える長さになった。
そうこうしている内に兵士達が駆け寄って来る。
俺は向かって来る兵士に向かって指先をスッと横に動かした。
ドサッ、ドサッドサッ!
すると前列の5人の首が走って来た兵士の身体を離れ、地面へと転がり落ちる。
「えっ?」「あああっ!」「何が」「うぁぁぁ」
首を失ってバランスの取れなくなった体の方も前のめりに倒れる。
ガシャガシャガシャッ!
「2列目行けっ!」
首の取れた兵士を避けながら2列目と呼ばれた兵士達が飛び出してきた。
チッ、今度は横並びではなく各自バラバラかっ!
駆け寄って来る兵士達の膝の高さへ向けて光の刃を振るった。
すると、時間差で突撃して来た兵士達のが膝から下を失って地面へと転がる。
「あっ?」「うわっ!」「ぐあっ」
2列目という兵士達が倒れると同時に倒れている隊長が声をあげた。
「くそっ、3列目行けっ!」
隊長の号令で倒れた兵士達を避けつつ3列目が走り込んで来た。
今度は前後もバラバラで隊列にもなっていない。
「誰でも良い! そいつを引き摺り倒せ!」
一振りで行動不能にするのは難しいな・・・
『気を使えなくて悪いな』
槍の穂先の迫る中、俺は光の刃を左右に激しく動かす。
「なっ」「うおっ」「そんなっ」
すると、槍で突きかかって来た3列目の兵士達が、腕・胴・頭がバラバラになって地面を転がった。
『ああ、バラバラに・・・』
どれが誰の手足なのかも判らなくなってしまっている。
暫くの間光の刃を構えたまま後続を待ってみたけれど、兵士を乗り越えて来る4列目は来ない。
『終わりみたいね』
そうか、これで20人か。
『やっぱり、指揮官が生きていたから逃げなかったのか?』
『でしょうね』
それならば、今後もこういう事が起きた時には指揮官は生かしておくのが良さそうだ。
『何か情報は取れるか?』
『この隊長に聞いてみるわ』
『聞くのか?』
『質問をすれば知っている事を強く意識するのよ、闇雲に記憶を探るよりも効率的なのよ』
『約束通り、この兵士達のトドメは好きにしてくれ』
『スキルには慣れた?』
『ああ』
『それじゃ、有難く経験値は頂くわね』
そう言ってケイトは2本の短剣を中空に向かって放り投げた。
あっ、そうか
兵士達を人質にして聞き出す必要は無いのか。
ケイトの投げた短剣が中空で生き物の様に動き出した。
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