第37話 守備兵 ①
「おい、あれ見ろ」
「ダークエルフの女と片足を引き摺った黒髪の男?」
「あれ、ターゲットだよな?」
ざわめきと共に兵士達が隊列を崩した。
俺は杖を突きながら一歩ずつ兵士達に近づいてゆく。
すると、兵士の中の1人が兵士達の中から出て来ると、俺に向かって声をかけた。
「お前、脱走奴隷のクロスだな?」
「・・・・・」
俺はその問いには答えずに一歩ずつ歩を進める。
「ちっ、だんまりか」
「隊長、そいつ舌が無いって話じゃないんすか?」
後ろにいる兵士が俺の前に出て来た隊長に助言した。
「ああ、舌を切り落とされてるんだから返事が出来る訳も無いか、ぶははははは!」
「そっすね、うはははは!」
「・・・・・」
俺は無言で隊長と呼ばれる男を睨みつけながら一歩ずつ近づいてゆく。
「おっと、抵抗するなよ? 今度は足の腱だけじゃなく両足が無くなるぜ」
「隊長、ダークエルフの方は?」
「殺せと言われているが・・・可能なら捕えてみるか?」
「いいんすか? へへっ、じゃあ捕まえたヤツが一番な」
隊員達が下卑た笑いを浮かべながらケイトを見る。
あー、こいつら。そういう連中か。
警備隊長との距離が2m程の所までやって来たので俺は足を止めた。
『ジョイン』
俺の右手の指先から1m程の光る刃が現れる。
「おい、何を」
『最大まで伸びろ』
俺がそう考えた途端、光の刃はスッと伸びた。
ステータスを確認した時の最大値は230cmだっけ。
ま、それだけあれば十分だ。
俺は最大値に伸ばした光の刃を指先をクイッと振る。
すると光の刃は目にもとまらぬ速さで隊長の胴の辺りをすり抜けた。
「してい・・る!?」
すると、隊長は胴から横に真っ二つとなり上半身が地面に落下した。
ガシャン
「ぐっ・・何だ!?」
地面に落ちた上半身の傍に、バランスを崩した隊長の下半身も遅れて倒れ込む。
ドサッ
「これは、お、俺の足なのか?」
上半身だけとなって地面に転がる隊長は、目の前の地面に倒れて来た自身の下半身を掴んだ。
『面白いわね。風切り音もしなかったし』
『空間を切っている様なもんだし、空気抵抗は無いんだろう』
真っ二つになった警備隊長の上半身を隊員の一人が抱き起す。
「たっ、隊長? 何で真っ二つに斬られてるのに生きてるんすか?」
「クソッ、何としてもこの男を取り押さえろ! 手足を切り落としても構わん!」
驚いて固まっていた他の隊員達も、隊長の命令で一斉に武器を構えた。
隊長が真っ二つになっても生きている状態にしたのは俺だが、元に戻す事も出来るのも俺だけだろうと本能的に悟っているのだろう。
『手出ししていい?』
『トドメは譲るから暫く見ててくれ』
『あら、悪いわね』
敵対する兵士を経験値としてしか見ていないケイトにはトドメを譲っておけば良いだろう。
「おい、後ろに回り込むぞ!」
「おう!」
道幅は4m程で両側には煉瓦や石造りの建物が立ち並んでいるので、道を外れて俺達の後ろへ回り込む事は物理的に出来ない。
後ろに回り込もうと4~5人の兵士が道の端に寄って走り出した。
スッ スッ
俺は走り抜けようとする両側の兵士に向かって指を振ると、光の刃が兵士達を通過する。
「うああああああっ」「何だ!?」「えっ、あっ」「か、身体が!」
すると、兵士達は上下が真っ二つになって落下し、地面を勢いよく転がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます