第34話 売買

馬小屋の横でウトウトしていると夜が明けて来た。

「開門!」

マルセット街の街壁の門の片側が開き門の中から兵士が出て来くると、その兵士の中の1人が声を上げた。

門の前にはいつの間にか行列が出来ている。

「馬をどうにかしないと中には入れないわね」

「朝一番で出発する人なんかがいますから、売買の出来る人はすぐに来ると思いますよ」

ケイトの呟きにラッセルが律儀に返答を返す。

半開きの門が全開になり、街の中から続々と人が出て来る。

「街を出る人って多いのね」

「いえ、殆どが畑仕事の為に出る人ですよ」

なるほど、街から出て来た人の荷物には農具が多いな。

鎌や鍬みたいな物を持った人をかなりの数で見かける。

「あ、あれじゃないですかね」

ラッセルの視線の先に、20人程の一団が馬小屋の柵の門の前にやって来るのが見えた。

「おはようございます」

警備員が一団に頭を下げると一団は門の中に入って来た。

その中で身なりの良い男と女がその場に残ると、それぞれが別々の馬小屋へと行ってしまう。

その場に残った男女に、警備員が何やら話しながらこちらを指差す。

男女はラッセルに気が付いたのか、こちらへとやって来た。

「馬を3頭売りたいって来たのはアンタかい?」

「はい、そうです」

「俺は馬を専門に扱う商会をやっているフレデリックって者だ」

「ラッセルと言います」

「馬を見せて貰うよ」

「ええ」

男女は繋がれた3頭の状態を調べ馬具の具合を確かめると、ラッセルの元へと戻って来た。

「3頭とも良い馬だ。音にも驚かないし、かなりの訓練を受けて来た馬だろう」

「そうですね」

「軍馬か」

フレデリックの直球な質問に躊躇しながらも認めるラッセル。

「・・・はい」

「出所がまともな軍馬なら1頭を金貨300で買ってやる所だが、1頭で金貨150で3頭を金貨450って所かな。どうする?」

フレデリックも込み入った事情までは聞いて来ない。

事情を考慮した上での半額買取か。

まぁ、そんなもんだろう。

『金額はラッセルに任せると言ってくれ』

『わかった』

「・・・・・・・・分かりました。その金額で売りましょう」

「それじゃ、取引成立だな。金貨450枚を渡してやってくれ」

フレデリックは後ろで控えていた女性を振り返ってそう告げた。

「はい」

女性は鉄の鎖付きの腕輪に繋がった金属製の箱を持ってラッセルの前にやって来ると、箱を開き布を取り出した。

『あっ』

『どうしたの?』

『あの布は・・・』

女性は布に手を触れる。

「アイテムボックス、オープン」

すると、布一杯に黒い四角の入り口が現れた。

女性はアイテムボックスの中から中身の詰まった革袋を取り出して、中から金貨を取り出しては別の革袋に移している。

『クロス、あれってアンタの』

『ああ、俺の作った魔道具だな。軍の誰かが金持ちに横流しをしているんだろう』

見間違い様もない、俺が作らされていたアイテムボックスだ。

魔道具は軍が保有して秘匿する事で、市場に流れて俺の存在が他国にバレない様にしていたハズだが・・・

まぁ、賄賂や横領の好きな軍人や公務員がそんな決め事を守る訳が無いよな。

女性は空の革袋に金貨を450枚数えて入れるとラッセルに渡した。

「どうぞ」

「450枚、確かに」

ラッセルは背中に背負ったリュックの中にあるアイテムボックスを小声で開くと、受け取った金貨450枚の入った革袋を入れてリュックの口を閉じた。

「また、出物があったら何時でも買い取るぜ」

「その時はよろしくお願いします。ではまた」

フレデリックに挨拶をしてラッセルは馬商人の敷地を出た。

「これで軍馬という証拠は無くなったわね」

「どうします? マルセットの街に入りますか?」

「川の上流に行って協力者が見つからなかったらムダ足になるし、街に入って橋を渡りましょ」

「わかりました」




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