第32話 会議


アルクーダ王都アルドクリフ城の会議室



「揃ってるな」

豪奢な扉を押し開き会議室へ入った私は、円卓に用意された座席に空きの無い事を確認して中央の席に着いた。

連合の中でも最恵国待遇の国には転移者の拠出を求めていない。

今日、この場に集めたのは、連合王国の中でも従属国という立場にある国から差し出され、このアルクーダに滞在して仕事をさせている転移者達だ。

「急に集まれって話で来てみたけどよぉ、なんかあったのか?」

そう言いながら背もたれにだらしなくもたれ掛かって足を組むのは、アギラダ国の転移者マテウス。

連合王国の東部にある国から送られて来てまだ数年の転移者だ。

「集まって貰ったのはその件だ。まずはビエラから入った報告を」

私の後ろに立つ文官が書類を手に口を開いた。

「先日、ビェラ城の地下に閉じ込めていた転移者2人が脱走致しました。牢の金属製のカギは切られており、牢の見張り1名は行方不明、城の通用口の門番も3名が行方不明となっています」

文官は書類をめくって話を続ける。

「明朝、通用門の門番の交代時間になってやって来た交代の兵が異変に気が付いた事で、牢に入れていたリンクス王国転移者クロスとニヒトリーデ転移者ケイトの脱走が発覚致しました」

書類をめくった文官は更に話を続ける。

「急遽ビェラからの人の流れを制限した上で兵を動員して街を調べましたが、発見には至りませんでした。現在は捜索範囲を西に絞って捜索しております」

「何で西なんだ?」

マテウスが文官に向かって疑問を口にする。

「転移者ケイトは降臨国のニヒトリーデからは嫌われているので、頼る事は無いでしょう。そうなると逃げ込む先は陸路で連邦国家群を目指すか、転移者クロスの降臨国であるリンクス王国を海路で目指すしか無いからです」

「まぁ、連合のど真ん中を抜けて東を目指す意味はねぇか」

「ですが、念の為に転移者エカテリーナ様のスキルで占って頂きました」

「ほう」

会議参加者の目が一斉に私の隣の席に座るエカテリーナに向けられる。

「まぁ、これが仕事だしね」

エカテリーナの所持しているスキルは"先読み"と"予知"と"占い"だ。

先読みと予知は自身に関する事しか分からないが、条件さえ整えれば占いのスキルでどんな事柄でも占えてしまう。

「んで、連中の行き先は?」

「連邦との境にある街、マルセットって出たわ」

「マルセット?」

そう言われて首を傾げるマテウスは、マルセットがどこにある街なのか判らないのだろう。

文官が慌ててテーブルの上に大陸の地図を広げ、マルセットの位置を指で指し示したした。

「ここです」

会議の参加者が地図上のマルセットの位置をに注目した。

「さて、概要は理解したな?」

文官による説明が終わったので私は口を開いた。

会議室の面々は頷いた。

「逃走中のケイトという女はニヒトリーデから代替わりを希望されている。確実に殺せ。それから、クロスという男の方は代替わりをさればリンクスの利益に繋がる。こちらは殺さずに連れて帰れ」

私は円卓に座る転移者達をゆっくりと見回し、再び口を開く。

「人選は飛行系スキル持ちのジャン、身体強化系スキル持ちのマテウス、予知系スキル持ちのエカテリーナ、この三人だ」

「わ、私もですか?」

私の人選にエカテリーナが疑問を挟む。

「連中は何か移動する姿を隠蔽する手段を持っていると思われる。お前は予知や占いのスキルで隠蔽の手段を見破り、ジャンとマテウスに教える役だ。戦闘に参加はしなくていい」

「・・・そういう事なら分かりました」

「宰相、質問があります」

円卓から立ち上がって質問の声を上げたのは指名を受けたジャンだ。

「何だ?」

「逃亡中の転移者達のスキルを教えて頂けませんか?」

「いいだろう。おい、説明してやれ」

私は文官に説明を促す。

「はっ、まず転生者ケイトの所持スキルは2つです。1つはテレパシー。効果範囲の者の思考を読み取れ、口を開かなくても会話が出来ます。2つ目はサイコキネシス。250g程度の重さの物を効果範囲内で自由に動かせるとの事です」

「その効果範囲は具体的な数字は判らないのですか?」

「えーっと、テレパシーが15mサイコキネシスが3.5mと記載されていますね」

「ふむ、考えを読まれるというのは厄介ですね。もう1人の転移者のスキルは?」

「そちらは・・・転生者クロスの所持スキルはアイテムボックスというスキルだけです」

「1つだけ? という事は2つ目のスキルを覚えるレベル10にもなっていないという事ですか?」

「はい、牢番の報告ではそうなっています」

「うはーっははは! 何だそりゃ! アイテムボックスって、俺達の持ってるこの道具入れを作ってたヤツか!」

そう言ってマテウスはポケットの中からアイテムボックスの付与され魔道具となっているハンカチを取り出し、ヒラヒラと振って皆に見せる。

「ぷぷぷっ・・やだ、良く生きてたわね。そんなスキルで」

「ククク、チープなスキルだねぇ」

円卓に座る転移者達が口々に、クロスという転移者のアイテムボックスというスキルを笑い飛ばす。

「こりゃ、楽勝だな」

「そうですね。サッサと終わらせてきましょう」

私は思わずため息をつく。

「はぁ・・・」

アイテムボックスのスキルは流通の仕組みが変わる程のシロモノだ。

既にアルクーダの輜重隊はヤツに生産させたアイテムボックスの魔道具の配備が完了している。

その事によって軍の進軍速度は数段上がっているだろう。

そんなアイテムボックスの魔道具を無限に生み出せる転移者の価値が、全く理解できていないこの連中に任せて良いのだろうか・・・

軽口をたたき合っているマテウスとジャンに一抹の不安を覚えた私は、念の為に二人にはクギを刺しておく事にした。

「いいか、クロスという転移者は絶対に殺すなよ」 

"ここにいるお前達全員よりもよっぽと貴重なスキルだ"、という言葉が口から飛び出しそうになるのを危うく呑み込んだ。

こんなバカ連中でもレアなスキルを持った連合王国の貴重な駒でもある、余計な事を言ってモチベーションを下げる必要もないだろう・・・

「アイテムボックスを生産できるスキル持ちなんて、次に現れるのは何百年後かもしれないというぐらいに貴重なスキルだ。 うっかりで殺さない様に十分に気を付けろ」

「へいへい」

「分かりました」

「エカテリーナも十分に留意しておいてくれ」

「はい」

「では、行ってこい」

マテウス、ジャン、エカテリーナの三人はキグナス連合王国式の敬礼をすると、会議室を出て行った。

「本日の会議はこれで解散とする」

私はそう会議の終了を宣言して会議室を後にした。






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