第30話 接触

「おい、お前。 こんな所で何をしているんだ」

ラッセルは街道の路上にランタンを置いて座り込んでいるので、怪しくても声を掛けない訳にもいくまい。

接触して来たのは2人だ、先行して様子を確かめに来たのだろう。

後続は50m程離れた位置でこちらの様子を窺っている。

罠を発動するには後続にはもっと近くに来てもらいたいのだが・・・

「すみません。足を痛めてしまって」

「ああ? 何でこんな夜中に移動してるんだ」

「マルセットまで急いで馬を届けなくてはならなくて急いでいたのですが、私が足を痛めてしまったので、朝まで待って馬に乗って行こうかと思っていた所です」

3頭の馬はラッセルの後ろで大人しくしている。

「嘘くせぇ話だな、お前何者だ?」

「そちらこそ何なんですか? そんな大勢で夜中に・・・まさか! 盗賊ですか!?」

「ふざけんなよ、俺達はアルクーダの兵士だ。これから逃亡中犯罪者を捕まえにマルセットに行く途中なんだよっ!」

「えっ? そんなに大勢で? 一体何をした犯罪者なのですか」

「うるせぇっ、そんな事言える訳がねぇだろっ!」

ラッセルと話していた兵士の1人がラッセルに向かって手を伸ばした。

『ケイト、この2人の始末を頼めるか?』

『いいわよ』

ケイトの返事と同時に林の中から二本の短剣が飛び出した。

ヒュッヒュッ、ドスドスッ・・・

「ぐぁぁ」「ゴフッ」

ラッセルの胸倉を掴もうとしていた兵士の首に短剣が突き刺さり、ニヤニヤとして後ろで見ていた兵士の喉にも短剣が突き刺さった。

兵士達に刺さっていた短剣が兵士からズルリと抜けると、再び林の中へと消えていった。

二人の兵士はその場に首や喉を押さえて蹲る。

「おい! どうした!?」

先行した兵士の2人に何かあったと気づいたのか、様子を見ていた本隊から隊長格と思われる者が声をかける。

だが、蹲る2人から返事は発せられない。

「全員で一気に行く、損害は気にせずあの男を誰かが必ず殺せ」

隊長格の言葉に兵士達が一斉に頷いたのが判る。

「行くぞ!」

離れて様子を見ていた兵士達が隊長格の指示を受け、ラッセルに向かって一斉に駆けだした。

40m・・・・30m・・・・20m・・・・10m・・5m・・ここまで引きつければ兵士全員が罠の範囲に入るだろう。

俺はアイテムボックスから手を出し地面に触れ、練習してあったスキルを発動する。

『アイテムボックス170×2890×10、ペースト』

「うおっ、足元が!」「な、なんだこれ!」

ラッセルより前にいる街道上の兵士達が、俺の仕掛けた罠に10cmの穴に落ちた事で慌てだした。

「慌てるな! 足元が少し下がっただけだ」

だが、それだけ済むハズが無い。

『クローズ』

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」「ぐぁぁぁ、足が!」「いてぇ、いてぇよ」

幅1.7m 長さ約29mの開口部の上に乗った兵士達は、両足か片足のどちらかを足首から先を失って倒れた。

人間、歩いていても走っていても左右どちらかの足が必ず地面に付いている。

たかだか10cmの落とし穴とは言え、足先が10cmぶった切られては立っていられないだろう。

『無事な兵士はいるか?』

『後ろに2人無事なのがいるけど距離が・・・あ、こっちに来る』

『報告しに走る兵士がいるかと思ったけど、隊長の指示も無しにそれは出来ないか。その2人を任せていいか?』

『ええ、いいわよ』

2人の兵士が最後尾の方から抜刀して走り込んで来た。

仲間の怪我を心配するよりも、原因を排除しようという判断なのだろう。

だとすると、狙いはラッセルか。

「お前! 一体何をした! その地面から出ている身体は何だ!」

走り込んで来た2人の兵士がケイトの潜んでいる前を通過しようとした所へ、兵士達の足元をケイトの短剣が走る。

ヒュッ・・ヒュッ・・ヒュバッ・・ヒュバッ

走り込んで来た兵士達は足をもつれさせて前に転倒した。

「あづっ」「ぐっ!?」

なるほど、確実に足を狙ったのか。

倒れた兵士のケイトの飛ばした短剣が再び飛んで行く。

ヒュッ・・ザクッ、ヒュッ・・ザクッ

勢いの付いた短剣は、倒れた2人の兵士の首に深々と突き刺さった。

「ガッ」「ゴブッ」

兵士達の腰に下げたランタンの光しか街道を照らす物は何も無いし、林の中の暗闇から飛んでくる短剣なんて見えてもいないだろう。

『他の生きてる兵士はどうするの?』

『その2人の経験値がケイトに入ってからにするよ』

頸動脈や喉に短剣を刺したからと言っても1~2分は生きているハズだ。

いま俺のスキルを再び発動させてしまうと、ケイトの倒した兵士の経験値も俺に入ってしまう。


ケイトの倒した2人が事切れるのを見届けると、俺もスキルを再び発動する事にした。

足首の無くなった兵士達はその場で血止めをしたり、足首を押さえて蹲ったままだ。

負傷をおしてまで逃げ出す兵士はいなかった様だ。

『アイテムボックス170×2890×10、ペースト』

「ぐっ」「いっ」

足先の無くなった兵士達が、再び街道の地面の上に貼り付けられた10cmのアイテムボックスの上に落ちた。

『クローズ、オープン、クローズ、オープン、クローズ、オープン、クローズ』

「ぎゃああっ」「削られっ」「あがっ、ひっ」「た、たすけ」

兵士達はアイテムボックスの開口口を開け閉めする度に、身体を下から10cmずつ生きたまま裁断されている。

グチャッ、グチャッ、グチャッ、グチャッ

街道には裁断されてバラバラになった兵士の肉片が転がり、路上は血だらけになった。

ランタンの薄明りでハッキリとは見えないが、大勢の人間を俺がバラバラに切り刻んだのは俺だ。

地面は血まみれになっていて、兵士達は頭を残してバラバラだ。

最後まで頭を守ろうと切断された腕や足を使ってあがいたからだろう。

「うぉぇぇぇぇ・・・・」

ビシャビシャビシャッ

俺の吐き出した吐しゃ物が地面にまき散らされる。

『どう、自分の能力で人をグチャグチャに殺した気分は』

『最・・・悪だ』

幾つもの兵士の死体の中でも、兵士の視線は俺に注がれている。

そいつらの視線が俺には無言の抗議に見えていた。

「うぉぇぇぇぇ・・・・」

ビシャビシャビシャッ

ハァ・・ハァ・・ハァ・・・

『城から出る時の兵士はアイテムボックスに閉じ込めて窒息だもの、人を殺した間隔は薄かったんだろうけどね。今回は目に見える位置で大勢の兵士をバラバラに切り刻んでるんだから、精神的にも来るわよね』

ハァ・・ハァ・・ハァ・・・

『ああっ! クソッ! 俺は何でこんな所で人殺しなんてしてるんだよ!』

『それが必要な事だからでしょ』

『あ?』

『少なくとも私にはね。追っ手の連中は私の事を殺して、次の御使いへの代替わりをさせようとしているもの』

『・・・・』

『あなたは殺されないから良いわよね。アイテムボックスを作らせる為の道具だし。ただ、今度連れ戻された時には無事で済むの? 今度は右足の腱も切られるんじゃないかしら?』

『・・・・』

『舌を切られ、足の腱を切られ、あの部屋に閉じ込められて、クロスはあんな所にまた戻りたいの?』

ああ、そうだ・・・・そうだよな。

あの城に連れ戻されれば、二度と脱走出来ない様に右足の腱までも切られてもおかしくはない。

『・・・・・・・悪い、取り乱した』

こんなに大勢の人間を殺した事でパニックになっていた様だ。

『いいのよ』

林の中に隠れていたケイトが戻って来た。

『レベルはいくつになったの?』

『え? ああ、そうだな。確認してみる』


黒須裕二 ヒューマン ♂ 25歳 

HP  70%

MP  53(330)

所有ジョブ  

 スペーサー LV 33

体力   52

腕力   45

脚力   55

敏捷   38

器用   75

動体視力 67

知識   86

知能   72

魔力   78

精神   32

運     5

マナ回復 10

所持スキル

 ボックス LV 33 350×350×350

 ジョイン LV 23

魔術

ー--

精霊術

ー--


『・・・レベルが18もアップしてるよ』



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