第26話 移動

斥候を排除した後ラッセルがお湯に葉を入れてお茶にしてくれたので、しばしお茶を嗜みつつパンを齧った。

腹も満たされたのでアイテムボックスに入って寝たが、夕方になっても何も起きていない。

俺はアイテムボックスからのそのそと出ると竈の前に座るケイトに声をかける。

『起きていたのか』

『あら、よく寝れた?』

『ああ、寝ている間に周りを敵に囲まれていたとしても、何とか出来そうな力もついてきたしな。落ち着いて眠れたよ』

『あ、私のPSI能力スキルがレベル23になったわ。テレパシーの効果範囲も23mに伸びたし、サイコキネシスの範囲も7.5mで動かせる重さも650gになったわ』

『はぁ、レベルがかなり離されたな。譲るんじゃなかったか』

『博愛精神なんて出すからよ』

まぁ、馬を殺したくなかったのとラッセルの足も欲しかったし、そこは仕方がない。

『ラッセルは?』

『まだ寝てる』

『一晩中歩かせていたし、かなり疲れさせていたか』

『そうかも』

ケイトは着火の魔道具を使って竈に入れられた木に火を点けた。

竈の上に置かれた鍋には水が入っている。

『川から汲んで来たのか?』

『ええ』

竈にくべられている木もケイトが集めて来たのだろう。

ケイトは着火の魔術具で火を調節しながら口を開いた。

『朝の連中が私を見て黒エルフって言ったの、覚えてる?』

『ああ』

『この世界には私みたいな肌をしてるのは、黒エルフって言われる南の大陸の人達しかいないみたいなのよ』

『へぇ、南にも大陸があるのか』

『キグナス連合王国にはそこから連れて来られた黒エルフが、奴隷としてよく使われてるそうなのよ』

『なんか奴隷解放前のアフリカとアメリカの関係みたいだな』

『お陰で肌の黒い種族は白人種から差別されているから、私が降臨した国でもテレパシーの力でバンバン悪口が聞こえたわ。"何で御使いの肌が黒いんだよ"とか"国の恥だ"とかね。お陰で降臨してわずか10日で密かにアルクーダ送りよ』

『そんな環境で他人の考えが判るスキルがあるのはキツいな」』

降臨した国からそんな理由で追い出されるとか、理不尽としか言いようがない。

少なくとも、俺が降臨したリンクス王国からは歓迎されていたし、ラッセルみたいな諜報員が俺の行方探してくれていた。

異世界人降臨というガチャとして見ると、リンクス王国へ降臨した俺は当たりを引いたとも言えるだろう。

けど、その国の国民に攫われて俺はアルクーダに売られたんだけどな・・・

『"死んで貰って次の御使いの降臨を待とう"なんて言いだす貴族なんかもいたし、国にいたら毒殺されてたかもしれなかったんだけどね』

『降臨する国との相性なんて神様は考慮してくれないらしいな』

ケイトは大ハズレだったって事か。

『そうね。アルクーダに来ても"黒い御使いなんて外聞が悪い"って言われてあの監禁部屋に閉じ込められるし、ロクでもない世界よね』

『こんな世界でも差別があるのか・・・』

踏んだり蹴ったりだな。

『だからさぁ、クロスの足や舌がどうにか出来たら、黒エルフの国に行ってみたいのよね』

『行ってどうするんだ?』

『奴隷商人をぶっ潰して回るとか、奴隷解放運動をするとか?』

『おっ、それいいな。俺も参加していいか?』

『キング牧師の名言を言う役は譲らないわよ?』

『裏方で結構だ』

ガサッ

後ろで音がしたので振り返ってみると、アイテムボックスからラッセルが出て来た所だった。

「あら、よく寝てたわね」

「虫も入ってこないので安心して眠れましたよ!」

「野営にはいいわよね」

「あ、お湯を沸かしてましたか、茶葉入れましょうか?」

「そうね、お願い」

ラッセルの荷物用にと渡したアイテムボックスの中から、ラッセルは茶葉と食器を取り出すと茶葉を掬って鍋の中に入れる。


ウーロン茶みたいな発酵茶を飲んで落ち着いた後、水筒にお茶を入れて竈の火を消した。

「それじゃ、出発しましょうか」

俺とケイトはラッセルに貼り付けたアイテムボックスの中だ。

ラッセルは馬に乗りながらも空馬を2頭引いている。

『ケイトは馬に乗れるか?』

『無理よ』

『だよなぁ』

元の世界で生活する現代人の中でも、乗馬の練習をした事がある人間がどれだけいるんだ。って話だよな。

キチンとした場所をそれなりの人数で囲って練習をしないと、馬になんて乗れる気はしない。

そこらに放って魔獣に襲われたら可哀想だしな、この馬は売るしかないか。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る