第23話 実験
夜が明けて来たので休む場所をどうするかの話になった。
馬に乗った追っ手が追いかけて来る事が予想されるからだ。
「街道を外れた場所に聖人クロス様のアイテムボックスを付与して休むのではないのですか?」
「基本はそうなんだけど、勿体ないじゃない」
「勿体ない?」
「私達の経験値を上げてくれるエサが沢山やってくるのよ?」
その言葉にラッセルは背筋が寒くなる。
「し、しかしどれだけの数がやって来るのか分からないのですよ!」
「でもあなた達の言う聖人が2人で相手をするのよ?」
「だとしても、キグナス連合王国の国内では目立つ事は避けるべきです」
そう言われるとケイトも言葉に詰まる。
特殊な能力と知識を持って異なる世界からやって来る神の使いだ。
その知恵は国に恩恵をもたらし、力は国を守るとラッセルは教えられて育っている。
そう易々と兵士にやられるとは考えてはいない。
「それに、聖人ケイト様のお力が戦闘向きである事はこの目で確認しているから判りますが、聖人クロス様のお力は戦闘には向いておられないかと・・・」
『・・・だそうだけど?』
ケイトが俺に念話を飛ばしてきた。
『少し確認したい事もあるし、ボックスから出ると伝えて』
「クロスがボックスから出るみたい、しゃがんでて」
「はい」
ラッセルがしゃがんだのでボックスの入り口を広げて外に出る。
んんーーっ
ずっとボックスの中で寝ころんでいたから、外に出るのは気持ちが良い。
「何の確認をするの?」
『ちょっと待っててくれ』
さて実験だ。
俺のアイテムボックスはレベルに応じてボックスの大きさが増えていく。
その形の基本は一辺が170cm正四角形だが、容量さえ変わらなければ様々な四角形にする事が出来る。
だから、その形を深さ10cmにするとどうなるか。
『アイテムボックス、340×1445×10、ペースト』
街道の横が草原になっている方向に向かって手をつく。
すると、一瞬にして草原が消え340cm×1445cmの黒いスペースが現れた。
「あっ」
「えっ、なにこれ」
『開口口を340cm×1445cmにした深さ10cmの落とし穴だ』
「落とし穴?」
ケイトは俺が落とし穴言ったアイテムボックスに手を入れた。
「ねぇ、落とし穴にしては浅くない?」
『たった10cmの落とし穴だけど、用途としては十分なんだ』
『そうなの?』
レベル17の俺の作れるアイテムボックスの大きさは170×170×170の正立方体だ。
それを10cmずつにスライスすると17枚の170×170×10のパネルが出来上がる。
そのパネルを8枚ずつ2列+1枚で並べたのがこの落とし穴だ。
対人としてはこちらで十分だと思うが、騎兵相手には縦一列にパネルを並べる170×2890×10なんかにするのが良いんだろうな。
『まぁ、見ててくれ』
俺はラッセルに手伝って貰い、大きさが20cmを超える石を落とし穴に置くとボックスの上からどいた。
『石がどうなるか見ててくれ』
「ええ、いいわよ」
俺はアイテムボックスの端に触れながらスキルを使う。
『クローズ』
すると一瞬にして黒いアイテムボックスの開口口は消えて、草の茂った草原が現れる。
『む、草原は元通りになるのか・・・草の上からアイテムボックスを被せた形になるのかな?』
『元の草原に戻っただけよね?』
『ああ、それは今は関係が無い。悪いが置いた石を探して持って来てくれ』
ケイトは草原の手前に転がっていた石を見つけると、石を拾い上げた。
「あっ!? 綺麗に切れてるわ」
ケイトがこちらに戻って来て石の切断面を俺に向ける。
切断された石の断面には俺の顔のシルエットが映っていた。
『おお、凄いな』
挟まれた物が切断されるのは判っていたが、これほど綺麗な切断面になるとは思わなかった。
『金属を切れば鏡が出来そうね』
『これなら俺のスキルでも何とか役に立てそうだ』
その後、様々な方向にアイテムボックスをペーストして数値を計算して実験を終了した。
『それで? 休む場所はどうするの?』
『いや、さすがに街道から見える場所で休むのは調子に乗り過ぎだろう』
アメコミ系のヒーロー映画の主人公ってこうやって調子に乗って失敗するけど、慎重さが足りないのは国民性なのかな?
『経験値稼ぎたかったのに・・・』
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