第21話 宿屋にて

『地図をしまって上着を身に付ける様に言ってくれ』

「ラッセル、地図を片付けて上着も着て」

「は、はい」

ラッセルが地図を荷物の中に片付け上着を着ていると再びドアを叩く音がする。

ドンドンドン!

「お客様、少々お伺いしたい事がありますのでドアを開けて貰っても良いですか?」

ラッセルは既に上着を身に付けたし、俺とケイトはアイテムボックスの穴を小さくしている。

「開けていいわよ」

「はい」

ケイトと小声でやり取りをした後、ラッセルが扉の閂を外して扉を少しだけ開ける。

「何でしょう?」

バンッ!

すると、扉が凄い勢いで開かれ、武装した3人が部屋の中へと押し入って来た。

「おい、さっきまで話していたのは誰だ!」

ラッセルの服の胸元を掴んで怒鳴りだした。

3人とも似たようなデザインの茶色い上下の服にブレストプレートといういで立ちで、腰には同じ剣を帯びている。

恐らく、この国の兵士だろう。

どうやらこの部屋の会話を盗み聞きをしていたらしい。

「いえ、私一人です。独り言がクセなので聞こえてしまいましたか?」

ラッセルは胸元を掴まれていても平然と受け答えをしている。

おお、さすが諜報員。

「なら、お前を徹底的に搾り上げてやる。連れて行け!」

「「はっ」」

『連れて行かれると拷問コースよね』

『だろうな、ここで始末しよう』

『なら、私に任せて』

『いいのか?』

『平気よ』

『わかった』

兵士は持って来た縄でラッセルを縛り上げようとしている所だ。

そんなさ中、兵士の1人の携帯する短剣が剣帯から音も無く抜ける。

「おら、腕を前に出せ」

そうラッセルに言いながら作業を見つめるのは、先程ラッセルの胸元を掴んでいた兵士だ。

ズシュッ!

その兵士の首に剣帯から抜けた短剣が深く突き刺さった。

「ぐぁぁぁぁぁーーっ!」

「た、隊長?」

「えっ、何で」

そう言って驚く兵士の短剣がまた音も無く抜けると、ラッセルを縛り上げている兵士の首に深く突き刺さった。

「ちょっ、え? え?」

パニックになっている残りの兵士の首にも短剣が突き立った。

「あぐっ・・・何で」

そこら中を血だらけにして兵士達は這いずり回っていたが、数分後には全員動かなくなる。

「ひっ、ひぃぃぃぃ」

扉の外にいた宿屋の従業員は慌てて逃げて行った。

『あれは見逃すのか?』

『兵士じゃないしね』

ラッセルの面が割れるのは困るが、俺もケイトも一般人を殺してまで口止めをしようとは思っていない。

アイテムボックスに兵士の死体を入れて時間稼ぎをしようかと考えたけど、俺の姿を宿の従業員に見られる訳にもいかない。

「聖人様、今のは・・・」

ラッセルは唖然とした顔でケイトに尋ねた。

「私のスキルの1つ念動力よ」

「テレパシーだけかと思っていました」

「レベルが上がって覚えたスキルなんだけど、初めて人前で使ったわ」

俺もケイトもレベルが上がってから覚えたスキルは、隠す為に申告はしていなかったからな。

パワーレベリングでも使っていなかったのだろう。

「それは良いとして、宿を出ましょ」

「兵士の死体はどうします?」

「宿の人に見られているんだし、隠してもしょうがないでしょ」

『それなら、確保したいんだけどいいか?』

『血だらけよ?』

『構わない』

「クロスがアイテムボックスから出るって言ってるわ、少しかがんでて」

俺はアイテムボックスの入り口を広げ、ラッセルの上着に付着させたアイテムボックスの中から出る。

『アイテムボックス、オープン』

俺は宿の床に1m×1mほどの入り口のアイテムボックスを出すと、死体をアイテムボックスの中へと放り込んだ。

『買って来た布を1枚出す様に言ってくれ』

「ラッセル、買って来た布が1枚欲しいみたいよ」

「あ、はいっ!」

ラッセルは荷物の中から紺色の布を出してきた。

俺はそれを受け取ると血の付いていない床に広げる。

『アイテムボックス、ペースト、インディペンデント』

これでアイテムボックスの魔道具化が完了。

『アイテムボックス、クローズ』

ボックスの入り口を閉じて、この布は首にでも巻いておこう。

『終わった。上着のボックスに戻る』

「上着に戻るそうよ」

ラッセルにかがんでもらって俺は上着のボックスに戻った。

『まさか掃除しろとは言わないわよね?』

まぁ、そこら中血だらけだからこれ以上は隠蔽のしようもない。

『生きているかも、と思わせれば十分だ。宿を出よう』

ラッセルは足早に宿を出るが、それを止める者はいない。

宿の従業員は口止めを恐れて宿の外へと逃げたのだろう。

宿の外へと出てみたが、兵士が待ち構えているという事も無かった。

『でも何で宿がバレたんだろう』

『今日、この街に来た人を手当たり次第に捕まえていたんじゃない』

それはあり得るな。

"上から必ず捕まえろ"と言われているが手掛かりも無しともなると、こういう手段しかやれる事はないのだろう。

『こうなったら追っ手を撒く為に海路でリンクス王国に行くのもアリか?』

『そうしたい所だけど、たぶん港の船は全て出航を止められてるわよ』

確実に匿ってくれるだろうし、俺達の逃亡先としては一番ではあるんだよな。

それだけに追っ手も海路での逃亡は一番警戒をしてるだろう。

『食料なんかの買い物もしたし街を出ようか』

『陸路で?』

『そうなるね、ラッセルは馬には乗れるのかな?』


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