第20話 クラウルの街

その日の夕方、何事も無くクラウルの街へと到着した。

「一人か?」

「はい」

「銅貨5枚だ」

「どうぞ」

「入っていいぞ・・・次!」

ラッセルと門番の兵士のやりとりも問題は無い様だ。

『この街にまでは私達の事は伝わって無いみたいね』

門番とのやり取りを聞いていたケイトから安堵の声が聞こえて来たので、俺も返事を返す。

『朝一番で出発する馬車よりも速く、情報を周辺の各街へ伝えるのは無理だろうしな』

門を潜り兵士から遠ざかった所でラッセルが口を開いた。

「大きな1人部屋のある宿を探すつもりですが、その前に何か買っておく物はありますか?」

3人部屋に泊まる訳にもいかないしな、俺達はボックスの中で寝ればいいだろう。

『何かある?』

『それなら食料と水の補充とハンカチサイズの布が4~5枚欲しい』

『布? 何に使うの?』

『ああ、布にアイテムボックスを張り付けてアイテムボックスの魔術具を作りたい。作った物は売って逃走資金にするつもりだ』

『わかった』

ケイトがラッセルに俺の意向を伝えると、ラッセルは難しい顔をした。

「布を買って来るのは構いませんが、この国の中でアイテムボックスの魔道具にして売るのは止めた方がいいです。聖人クロス様がこの街に寄ったと追っ手に教える様なものですので」

「それもそうね」

「逃走資金をお求めであれば、一旦その魔道具は私が買いますのでそのお金をお使い下さい。工作資金としてそれなりの金額は持っていますので」

「それでいい?」

『ああ、頼む』

ラッセルは市場へ向かうと食料品を買い込み、水筒や布を商店で買い入れた。

「このぐらいあれば大丈夫でしょうか?」

ラッセルは小声でケイトに問いかける。

「そうね。あまり買い込むと目を付けられるかもしれないし、そのぐらいで十分よ」

「知人の店に寄りたいのですが、大丈夫でしょうか」

「いいわよ」

『クロスもいい?』

『ああ』

ラッセルの案内で市場の外れにある建物の扉をくぐった。

建物に入ってすぐにカウンターがあり、カウンターの奥には大きな樽がいくつも並んでいる。

ラッセルは無人のカウンターに行くとカウンターを拳でノックした。

コンコンコン・・・

するとカウンターの奥の扉から口ヒゲを生やしたオールバックの男が出て来た。

「ラッセル!? お前、任務はどうしたんだ!」

「その事で急ぎで本国へ報告をして欲しいんだ」

「内容は」

「アルクーダで囚われていた我が国の御使い様とそのお仲間の御使い様から接触があって、これに協力して脱出した」

「何だって!? やっぱりキグナスの仕業だったのか!」

「シッ、静かにしろ」

「あ、すまん」

「私は御使い様に同行して西のペリステリ王国へ向かう」

「な、何でだ? 船に乗ればすぐに本国だぞ」

「まもなくキグナスが全ての船を出航禁止にしてくるハズだ、今後しばらく船は動けなくなる。それに御使い様方がペリステリ王国行きを望んでおられる」

「ペリステリって・・・・奇跡の聖人様か?」

「ああ・・・。それと腕の立つ諜報員がいたら応援要員として送って欲しい」

「腕の良いヤツらはキグナスの東部や北部に行っているからなぁ・・・本国から呼び寄せるのを待てるか?」

「無理だな、明日にはクラウルを出てマルセットに向かうつもりだ」

「わかった、同行出来そうな諜報員が見つかったら追い駆けさせる。目印は赤いストールだ」

「頼む」

ラッセルは外の様子を窺ってから素早く店の外に出た。

『リンクス王国の諜報員か?』

『そんな感じだったわよね』

『まぁ、ラッセルにも仕事の都合があるんだろうしな』

「それじゃあ、いきつけの宿へ向かいますが良いですか?」

「ええ、お願い」


ラッセルはクラウルの街の宿屋の中でも中クラスと思われる宿へと向かうと、1人部屋を無事に確保した。

宿屋の1人部屋に入ってカギを掛けベッドに腰かけ、ケイトと俺に声をかける。

「ボックスから出られますか?」

『いや、やめておこう。街の中では安心出来ない』

「一度出ちゃうと中に入るのも大変だしね。このままでいいそうよ」

左足の動作に不安のある俺では緊急時の対応に不安がある。

何かあった場合、ラッセルの服にくっ付けたアイテムボックスに戻るのが難しいからだ。

「では、今後の行動を決めましょうか」

ラッセルが上着を脱いでベッドの上に置いたので、ボックスの入り口の大きさを調整して俺とケイトは顔を出した。

『地図を持っているか聞いてみてくれ』

「ラッセル、地図は持っている?」

「自作の地図で良ければあります」

「見せて貰える?」

ラッセルは荷物の奥を漁ると木箱を取り出すと、木箱の蓋を外した。

「一枚がこの大陸の大まかな国の地図で、もう一枚がキグナス連合王国の地図です」

「ペリステリ王国はどこ?」

大陸地図を受け取ったケイトはラッセルにペリステリ王国の位置を尋ねる。

「えっとキグナス連合王国がこのマルセットという街の東側全部の国で、盟主国のアルクーダ王国は連合王国の南西で内海に面しています。マルセットの西側は連邦国家群に所属する国々ですね。ペリステリ王国はアルクーダ王国に隣接したカミラ王国を超えたこの辺りです」

国土分布をおおまかに表現すると、東半分がほぼキグナス連合王国で西側が連邦国家群となっている。

どちらも一つの国家みたいな物だが、1つの国にしてしまうと降臨する御使いが減ってしまうからダメらしい。

あくまで降臨するのは1国に対しては、1人の御使いなのだとか。

そんな連中のエゴに俺達が振り回されていると考えると実に腹立たしい。

地図を見る限り東のキグナス連合王国所属のアルクーダ王国と、西の連邦国家群のペリステリ王国にはそれなりの距離がある。

「リンクス王国はどこ?」

「我が国はここです」

キグナス連合のアルクーダ王国から内海を挟んだ向かい側にリンクス王国がある。

俺が攫われた時に何日も船に乗せられた記憶があるので、アルクーダ王国までは海路で運ばれたんだろう。

リンクス王国は内海に突き出た半島にあるので、アルクーダ王国へ行く通り道にはない。

『リンクス王国に寄るとかなりの遠回りだな』

「真っ直ぐ陸路を通るのが速そうね」

「このまま陸路で進むとなると・・・このクラウルの街より西にある国境の街マルセットを抜けて連邦国家群の1つであるカミラ王国を抜けるのが最短ですね」

地図を見る限りカミラ王国の隣がペリステリ王国となっているので、最短距離だとカミラという国を突っ切る事になる。


ドンドン!

俺達が地図の前でルートを考えていると、突然部屋のドアを叩く音がした。









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