第18話 脱出②

ガチャッ、ギィィ・・・

「空耳か?」

そう言いながら扉を開けた兵士が扉の外へ出て来た。

今だ!

"ボックス、ペースト70×140×280オープン"

俺はしゃがみながら杖を伸ばし、扉の前に出て来た兵士の足元に縦長のボックスを張り付けた。

形を指定したイメージは140×140×140のボックスを縦に半分に切って、上下に繋げた形だ。

出て来た兵士の足元に張り付けたボックスに兵士が落ちる。

「えっ」

俺はその瞬間に合わせてボックスを閉じた。

"クローズ"

何とか大きな声を上げられる前にボックスを閉じれたか?

まぁ、これも切り離して置いて行こう。

"インディペンデント"

俺が同時に出せるボックスの数はレベル5で2つに増え、レベル10で3つに増えた。

だが、作ったボックスはどんどん切り離しておかないといけない。

切り離し忘れていて、いざって時に"既に3つ使っているから新たなボックスを開けません"となってしまう恐れがあるからだ。

『中の兵士は起きたか?』

『平気みたい』

俺は守衛室の中に入ると、牢屋の看守と同じ手順でボックスの中に閉じ込めて切り離した。

『門番の処理は終わったぞ』

『よし、外に出よう』

ケイトは通用門の小扉のロックを外し、太い閂を抜き取って小扉を開けた。

『開け方なんてよく分かったな』

『そりゃあ、門番の記憶を見たからよ』

『あ、そうか』

『よし、今なら裏門の近くに人はいないわ。行きましょ』

『ああ』

ケイトが小扉をくぐって門の外に出たので、俺も杖を突きながら慌てて後に続く。

開きっぱなしでは怪しまれると思い、小扉を閉めると中からロックがかかった。

中にはもう戻れないみたいだな・・・

約一年間もここに閉じ込められてたんだな。

俺が門を眺めていると、ケイトが袖を引っ張った。

『何してるのよ。急いで通用門から離れるわよ』

『ああ、そうだな』

ケイトに袖を引かれて足早に通用門を離れると、建物の路地へと入った。


月明りで辛うじて見えるけど、足元が不安だな。

足元に気を付けながら暫くの間路地を進むと、明かりの点いた店らしき建物がいくつも見えて来た。

『店か?』

『飲み屋かしら』

『灯は松明じゃないみたいだな』

『ダンジョンに入る時のランタンの魔術具みたいなのが、店の軒先に付けてあるみたいね』

明かりの点いた店を過ぎると広場に出た。

広場は石畳になっていて、真ん中を水路が通っている。

公園じゃないよな。

広場の真ん中には明かりがあった。

街灯じゃないよな?

ケイトに袖を引かれ明かりに近づいてゆくと、それがランタンを持った人だと気が付いた。ランタンを持って広場の真ん中で何してるんだろう?

俺は警戒の意思をケイトに伝える。

『ケイト』

『大丈夫、協力者よ』

協力者?

そうか、待ち合わせだから目立つ様にしてるのか。

ランタンを持った人物は俺達に気が付いたのか、ランタンを足元に置くとうやうやしく帽子を取った。

「初めまして、御使い様方。ラッセル・ハーストと申しますリンクス国から派遣された諜報員です」

「私はケイト、こっちはクロス。クロスはリンクス国じゃ聖人だっけ?」

「聖人クロス様ですか!? 攫われたとは聞いておりましたが・・・まさか、こんな所にいらっしゃったとは」

ラッセルは俺の言葉を待っているみたいだが、生憎と俺は喋る事は出来ない。

『説明してやってくれるか?』

『いいわよ』

「クロスはね。約1年前にここに連れて来られて、その時に舌を切り取られていて左足の腱も切られてるわ。だから喋れないし、杖無しじゃ歩けないの」

「そんな!?」

俺の顔を見るラッセルに向かって口を開き、切られた舌を見せてやる。

「あ・・・」

ラッセルが声を上げながら足元に崩れ落ちる。

「ああ・・何という事を」

「騒がないで、目立ちたくないの」

足元で嘆くラッセルにケイトが声を掛けると、ラッセルの顔から表情が消えた。

「申し訳ありません。取り乱しました」

「ラッセル、宿はもう引き払ってあるの?」

「はい」

「そう、落ち着いて話の出来る場所に行きたかったけど、わざわざ宿を取る訳にもいかないわね」

「ええと、それはどういう話でしょう?」

「まず、私達を国外に逃げたいの。貴方にはその手伝いを引き受けてくれるのかどうかを聞きたいわね」

「私はリンクス国から連れ去られた聖人クロス様の情報を集める為に派遣された調査員です。聖人様方のお手伝いが出来るのであれば、何でも致します」

「そう、なら有難く手を借りるわ」

「はい」

『嘘は言ってないわ、信用出来そうよ』

『なら、ラッセルに上着を脱いで俺に渡す様に言ってくれ。すぐ返すから』

『わかった』

「クロスに貴方の上着を脱いで渡して貰える? すぐ返すから」

「え? ええ」

ラッセルはハーフコートの様な上着を脱ぐと、畳んで俺に差し出した。

俺は受け取った上着を石畳の上に置く。

"ボックス、ペースト80×140×200オープン"

上着の右胸の辺りにボックスを張り付ける。

"ボックス、ペースト80×140×200オープン"

上着の左胸の辺りにもう1つ同じ形のボックスを張り付けた。

"インディペンデント"

両方のボックスを切り離して、独立した魔術具にしておいたからこれで完成だ。

左のボックスの入り口を上着のサイズより広げて人の通れる大きさにした所でケイトを呼ぶ。

『ケイト、入ってみて』

『ああ、これに入って移動するのね』

ケイトが縁に掴まりながら中に入ったので、出入口を10cm×10cm程の大きさまで狭めておく。

『入り口は中からでも広げられるかな?』

ボックスの中から指が出て来ると、入り口を広げたり縮めたりし始める。

『出来るみたい』

『なら、バレない様に覗き窓程度の大きさにしておいて』

『このぐらい?』

入り口が3cm×10cmぐらいに縮まった。

『完全に閉じると窒息するかもしれない、気を付けてくれ』

『分かったわ』

俺は右側のボックスの入り口を広げると、ゆっくりと中に入った。

中の壁を確認してみたが、広さは悪くない。

入り口を小さく縮めてケイトのボックスの覗き窓と大きさを合わせておく。

一応、ファッションに見えるかも?

『こっちも準備出来た。ラッセルに上着を着る様に言ってくれ』

『ええ』

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