第17話 脱出

『クロス、起きてる?』

深夜2時ぐらいにケイトからテレパシーが来たので返事を返す。

『ああ、起きて目を慣らしていた。看守は?』

『寝てるわ』

『よし、作戦開始だ』

俺は部屋の扉へ近づくと"ジョイン"のスキルを発動させる。

すると、20cm程の光の刃が右手の指先に現れた。

暗闇の中でスキル"ジョイン"の光の刃は薄っすらと光っている。

これ、暗闇の中で使うと目立つんだよな。

光の刃を扉と壁の隙間へ差し込むと、カギの位置辺りの鉄ごと切り落とした。

ゴトン、ギィーーーー・・・

なるべく音を立てない様にゆっくりと扉を開け、奴隷部屋から杖を突きながら廊下へと出た。

廊下は光の取り入れ口が無いらしく真っ暗だが、光の刃がぼんやりとした光で辺りを照らしている。

あ、ライト代わりにもなるのか。

足元を照らすだけなら十分だろう。

俺は杖を突きながらケイトのいる1号室へと向かった。

扉にはでかい錠の付いたカギがぶら下がっている。

俺は錠の留め金に光の刃を差し込み切り落とした。

ゴトン、ギィーーーー・・・

『ハイ、ちゃんと顔を合わせるのは初めてね』

『そうだな』

扉をゆっくりと開けると、部屋の中から出て来たのは褐色の肌の女だった。

なるほど、ケイトは有色人種だったのか。

アメリカ人と言っていたし、珍しい事でもない。

だが、この世界の有色人種の割合はどうなんだろう。

まぁ、逃亡するには目立ちそうだけど、協力者がいれば何とかなるか。

『看守は平気そうか?』

『ええ、反応は無いわ』

離れていても寝ているのが判るとは、中々便利なスキルだな。

さて、ここからだ。

『行こう』

俺は左手で杖を突きながら看守部屋へと向かった。

看守部屋を通らないと外に出る事が出来ないからだ。

扉は看守部屋側にカギが掛かっていて、廊下側からは開けられない構造になっている。

俺は扉の隙間に光の刃を差し込むと、ゆっくりと錠の金具を切り落とした。

キィーーー・・・・

扉を開けて中を覗き込むと、ベッドの上で眠っている看守を見つけた。

『どうする?』

ケイトが俺に尋ねるが、俺の答えは決まっている。

『痕跡を残さずに始末したい。任せてくれ』

『分かった』

俺は看守の寝るベッドに近づくと杖でベッドの上に触れた。

"ボックス、ペーストオープン、サイズフリー"

頭の中でスキルを起動させる。

"サイズフリー"は張り付けた対象と同じサイズの大きさにするオリジナルの指示だ。

ボックスの形は四角であれば、どんな対比にも開く前に指定すれば出来る様になっている。

200×140×80など細かく指示する事も出来るが、ボックスをペーストする対象に合わせるの場合"サイズフリー"と指定しておけば足りない容積分の大きさにリサイズしてくれる。

ベッドのシーツの上全体にボックスの入り口が広がった。

ボスッ

「うぐっ」

看守はボックスの中に落ち、ボックスの中からうめき声が聞こえてきた。

大声をあげられてしまうと面倒だ、早くと閉じてしまわねば。

"クローズ、インディペンデント"

入り口を閉じると同時に、切り離しておく。

これでシーツはアイテムボックスの魔術具になった。

中には看守を閉じ込めてある。

ボックスの中には空気があるから、暫くの間は生きているだろう。

『首輪の遠隔操作してたプレートと首輪のカギを探そう』

『そうだな』

ケイトに頷いてみせると、看守部屋を探してみる事にした。

暫くの間探してみたが、首輪のカギが見つからない。

プレートは机の中にあったんだけどな・・・

『ここに無いとすると、城の中だろうな・・・』

『どうするの? こんなの付けたまま逃げてもすぐに捕まるわよ?』

"ジョイン"

俺は再び光の刃を出すと、自分の首に付けられた首輪のカギの部分を切ってみせる。

そして、首輪を両側に開いて首から取り外した。

『そんな事出来るなら探す必要無かったじゃないの』

『いや、プレートとカギと首輪のセットを手に入れたかったから』

『そんな物、何に使うの?』

『人質取ったりするかもしれないじゃないか』

机の上に置いたプレートを指さした。

『あー、それはアリね』

『まぁ、無い物は仕方がない。首輪を外すからこっちへ来て』

俺はケイトの首輪を同じようにして外し、看守室の机の上にプレートと一緒に置いた。

これは持って行きたいな。

切った部分は元通りに出来るし・・・

看守部屋にあった手拭いを机の上に広げると、布にボックスを張り付けて魔術具化して首輪とプレートを中に入れて閉じた。

布は首にでも巻いて持って行くか。

後は、この恰好を何とかしないと・・・

俺達が着ているのは白と黒のボーダー柄の服だ。

コントで使ういかにもな囚人服となっている。

恐らく、脱走しても目立つ格好にするべきと、異世界から来た誰かが入れ知恵したんだろう。

看守部屋を見渡すと壁に兵士の制服も2着あった。

剣と盾も2セットが部屋の隅に置いてある。

『これに着替えよう。囚人服を着てるよりマシだ』

『そうね、街中でも兵士の制服の方がマシね』

俺達は急いで兵士の制服に着替える。

『武器はどうする?』

『剣ぐらい持ってた方がいいんじゃない? 何があるかわかんないし』

それもそうだな。

『なら盾は首輪と一緒にアイテムボックスに入れておく』

剣帯のベルトを腰に巻いて、そこに鞘ごと剣を通し準備は出来た。

靴が無かったから足元はサンダルなのは仕方がない。

『どう?』

看守部屋の扉をゆっくりと開け、外の様子を探ってみた。

真夜中だけに中庭に灯は無く、人は誰もいない。

『平気そうだ』

『じゃあ、中庭に出るわよ?』

『ああ、通用門に向かおう』

城の正門は昼間にしか開かないし、たった二人では開けられない。

向かうのはパワープレイの時にも通る通用門だ。

あそこなら内側からなら一人でも開けられる構造になっている。

俺達は無人の中庭を横切り、城の通用門へと向かった。

通用門の横には小さな建物があり、建物の隙間からは光が漏れている。

『門番はあの中にいるのか?』

『ええ、あれが守衛室よ。門の外に番兵はいないわ』

ケイトの聞いた所によると通用門の横には小さな窓口があって、来訪者はその窓口でやりとりをしてから通されるらしい。

これも異世界人の入れ知恵だろう。

城の通用門の外に、夜中の間もずっと番兵を立たせておく意味なんて無いだろうしな。

俺達は音を立てない様にして、守衛室の入り口に近づいた。

『中に何人いる?』

『2人だけど、1人は寝てるわね』

急な来訪者があった時に起こせばいいんだし、交代で仮眠を取っているんだろう。

『何とかして、起きてる方を外におびき出したいな・・・』

『なら、1人だけ外におびき出すから、上手くやって』

『あ、ああ』

建物の影に隠れてボックスの大きさを考える。

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