第14話 あれから

あの日から一年が過ぎた。

俺は未だにキグナス連合王国の奴隷として働かされている。


バタン! ガチャ・・ガチャン

扉を施錠した看守のダニエルが看守室へ去ってゆくのを見届けると、俺はベッドの上に倒れ込んだ。

あー、クソッ・・・殴られた所がいてぇ

『クロス。今日のパワープレイはどうだったの?』

痛む箇所をさすっていると、俺の頭に若い女の声が聞こえて来た。

奴隷仲間のケイトだ。

今日は俺の月に一度のパワープレイの日だっただけに、その様子が知りたいんだろう。

『今日も最悪だったよ』

俺は顔の殴られた部分をさすりながらそう答えた。

『あいつら、私から告げ口してやろうか?』

『いや、いい。あんな連中がパワープレイの担当だから、俺のスキルが増えた事が報告もされずに放置されてるんだ。まともなヤツに入れ替わる方が困る』

ケイトは奴隷部屋1号室の住人でアメリカ人の異世界転移者だ。

ジョブはPSI能力者でLVが15、スキルはテレパシーLV15とサイコキネシスLV5。

テレパシーは指定した相手の考えを読みとったり、自分の考えを伝えたりする事が出来るスキルだそうだ。

今はスキルレベルが15になっているから、効果範囲は大体15mぐらいだとか。

そしてもう一つのスキル・サイコキネシスの方は、範囲内の物を自由に動かせるスキルだと聞いている。

動かせる範囲は自分から大体3.5m程で、動かせる物の重さが今は250gぐらい。

スキルレベルが上がると効果範囲が広くなり、動かせる重さも増えるらしい。

ケイトはキグナス連合王国の属州コルブスから差し出されてここに来たらしいが、テレパシーという貴族達にとって厄介なスキルのおかげで奴隷部屋にもう2年近く軟禁状態なのだそうだ。

『なら、告げ口はやめとくけど・・・で、何があったのよ?』

『ああ、冒険者の中にボルクって若いのがいるんだけど、そいつが俺なんかにパワープレイするのが気に入らないらしくてな。何発か殴られたんだよ』

『あいつね・・・、その報酬で食ってるクセに、そんな事も理解出来ないの?』

『この国じゃ貴族の子供以外にまともな教育を受けられるヤツなんていないしな、一般人にはその簡単な事すら理解出来ないんだよ』

こんな会話をしていながら、俺はケイトの顔を見た事が無い。

奴隷部屋の入り口は木製の分厚い扉で、覗き窓は外からしか開かない仕様になっているからだ。

ケイトは俺がこの部屋に放り込まれた数日後から、彼女の持つテレパシーのスキルを使って俺に話しかけて来ていた。

毎日英語でだ。

まぁ、舌が切り取られて喋る事の出来ない俺でも、テレパシーのスキルのおかげでケイトとは会話が出来ている。

それから1年程の間辞書を見ながらケイトと毎日会話していた事もあり、俺はスラング混じりではあるがある程度の英会話を習得していた。

お陰で、看守の命令や冒険者達の会話や指示を、聞き逃す事は無くなっている。

尤も、舌を切られてしまっているから、ケイトのスキルを使った会話以外じゃ使う機会は今の所無いんだけどな。

『脱走計画に支障が出るのは困るけど・・・死んだら何もならないのよ?』

『ああ、だから計画を急ぎたいんだけど、ここを脱走してからが問題なんだよな』

『まぁ、私達はここからダンジョンまでの道ぐらいしか知らないしね』

俺はこっちの世界に来てすぐに捕まって連れてこられたし、ケイトも転移して一週間程でこの国に引き渡されたと聞いている。

おかげで、俺達はこの街の事すら何も知らないのだ。

『協力者が見つかれば、ここから脱走出来るんだけどなぁ・・・』

先月のパワープレイの時にも、ケイトには協力者になってくれそうな人の捜索を頼んでいた。

ケイトのテレパシースキルで周囲の人の記憶を読んで、脱出計画に協力してくれそうな人を探して貰っている。

『ええ、今度こそ。明日の私のパワープレイの番で協力してくれそうな人を探してみせるわ』

『ああ、頼む。後払いかアイテムボックスの現物支給で良ければ、いくらでも報酬にして構わないから探してみてくれ』

『わかった』

ケイトからの会話はそれで終わった。

さて、今日のノルマをこなしておくか・・・

俺が生かされているのは、他国に降臨した異世界人だからだ。

ケイトの話によると、ここで俺が死んでしまうと、俺が転移して来た国には新たに別の異世界人が転移して来るのだとか。

キグナスにとっては役に立たない異世界人だとしても、敵対国の国力を削ぐ意味で死なない様に捕まえておかなくてはいけないらしい。

まぁ、俺は死ぬつもりもここにずっといるつもりも無いけど。

俺は椅子に座ると、テーブルの上に置かれた布を手に取った。

「ボックス、ペーストオープン。インディペンデント」

"布にボックスのスキルを張り付けて切り離す"という作業を6回繰り返し、アイテムボックスの魔術具を6つ作り出した。

お・・・スキルレベルが1上がった事でMPが10増えたから、作れる数が5から6に増えたみたいだな。

「ボックス、ペーストオープン。インディペンデント」

確認の為、7つ目を作ろうとボックスを布に張り付けたが、ボックスは切り離せない。

ボックスの開け閉めにMPは減らないが、切り離して魔道具にする場合に20のMPを消費する。

今みたいに、俺自身にスキルを切り離して魔術具として独立させる為のMPが無ければ、"インディペンデント"と唱えても切り離しは発動しない。

まぁ、6つも出来れば上等だろう。

出来上がった魔術具6つを入り口の扉の横にある配膳口に置いた。

こうしておけば看守が勝手に持って行く。

もしも、ここにノルマの魔術具が置かれていなければ、看守のダニエルは容赦無く首輪の雷撃を発動して俺に罰を与えてくるだろう。

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