第12話 捜索
「兵舎はこの建物よね?」
「はい、そのはずですが・・・静かですね」
入り口の扉を開け中に入ってみるが、兵舎の中からは人の気配が感じられない。
「城や街の火に気付いてないのかしら?」
「部屋を見てみましょう」
シャリアの言葉に私は頷き、入り口に一番近い部屋に入ってみる事にした
「うっ・・・これは」
魔術具のランタンで照らすと、テーブルに突っ伏した人の姿があった。
「これは、捜索隊のジルド副隊長ですね」
捜索隊のジルド副隊長が首から血を流して死んでいた。
捜索隊としての臨時の隊長は王族である私だけど、本来の軍の騎兵隊の隊長は死んでいるこのジルド副隊長だ。
剣技などの実力は、隊の中でも頭一つは抜き出ていた。
「武力で騎兵隊の隊長になった者が、こうもあっさりと殺されるなんて・・・」
「食事か飲み物に遅効性の毒物でも混ぜられたんじゃないでしょうか」
隊長格の者がロクな反撃も出来ずに殺されるとは、ここで一体何があったのだろう。
「他の部屋はどうかしら」
「そうですね、見てみましょう」
他の部屋を回ってみたが、どの部屋の隊員も首から血を流して死んでいた。
「何てこと! 観測員達まで殺されているなんて!!」
全員が一斉に食べるとしたら、兵舎の食堂で出された食事だろう。
戦時中でも無いし、身内から提供された食事を疑ったりはしないハズだ。
「兵舎の厨房で捜索隊の食事を作っていた者達にも、内通者が紛れていたって事?」
「・・・いえ、誰も疑いを持たずに毒入りの食事を食べたのであれば、急に紛れ込んだ者ではなかったのでしょう。恐らく私達がこの街に来るずっと前から裏切る事を前提としてこの城で働いている者達ではないかと思います」
「私達は御使い様がこの街の近くに降臨なさったからここへ来たけれど、御使い様が別の場所に降臨されていたらここへは来ていないのよ?」
「ですが、この用意周到ぶりはおかしすぎます」
「この国のどこに御使い様が降臨するかなんて占星術師にも判らなかったのに?」
「ええ、我が国の占星術師には出来ませんでしたが、他国にいるもっとレベルの高い占星術師ならどうでしょう?」
「っ!? もしかして、御使い様の降臨する場所が前もって分かってたって事!?」
ありえない話ではないわね。
我が国の占星術師が出した答えは「国内のどこか」という曖昧なものだった。
もしも他国のもっと優秀な「占い」や「予知」のスキルを持った者が、御使い様の降臨場所をその対象にしていたなら・・・
「そうでなければ、ここまでの準備は出来ないと思います」
私達がウィンストンに来たのはほんの7~8時間前だ。
その7~8時間の間に城の中を調べて客室のカギの持ち主を探し、兵舎の厨房で疑われる事無く兵士達に食事を作る。
・・・こんな事、前もって準備していないと無理よね。
「なら、シャリアはどこまでが内通者だと思う?」
「・・・・恐らく、城の敷地内にいた者の全部が内通者の仲間だったのではないでしょうか?」
「そんなに!?」
「城や街に躊躇なく火を放つ所を見ると、この国の者の仕業とは考えられません。このやり口は他国の手の者だと思われます」
そう言えば聞いた事がある。
村を焼くのは他国から流れて来た余所者の野盗で、村から物や金だけ奪っていくのが自国出身の野盗だと。
「城主のアランも攫われたのかしら?」
「むしろ、城主のアランが内通の首謀者だと思います」
「城主よ?」
「国から給金を貰っているただの公務員ですからね、大金を積まれればコロっとなびくでしょう」
この国の城主アランは王都から派遣された文官だから、公務員としての給料しか支払っていない。
他の国みたいに城主が領地持ちの貴族という訳ではないから、他国にお金を積まれれば裏切ってもおかしくはない。
「・・・でも、それなら何で私達の食事には毒が盛られていなかったの?」
「姫の食事は私が毒見をしているのを向こうも知ってますし、私達を使って御使い様から色々と聞き出すつもりだったのではないでしょうか」
ああ、城主アランのいる前だというのに気にもせず、聖人クロス様から色々聞き出してしまった。
聖人様が私達を信用して明かしてくれた個人情報なのに・・・
「は、ははは・・・・」
完全にやられた。
姉上達に何て言えばいいのよ。
「とにかく、厩舎へ寄って馬の準備をしましょう。街の外に出られていたら馬で追うしかありません」
「・・・・そうね」
私達が厩舎に行くと、私達の乗って来た馬達は無事だった。
「どうやら馬を殺して逃げたりはしなかったみたいね」
「どうでしょう、そんな殊勝な心を持っていたとは思えません。馬を殺そうとすれば馬が騒ぎます、きっとそれが嫌だったのでしょう」
それもそうか、馬はそういうの敏感に察知するしね。
私達は急いで乗り慣れた愛馬に鞍とあぶみを装着すると、馬を連れて城の門へ向かった。
「あっ」
城の門に立っていたハズの2人が入り口の柱の影で死んでいるのを見つけた。
「城の門番ならこの街の出身者でしょう。街へ放火する計画には当然反対するでしょうから、仲間にするつもりはなかったのでしょう」
「そうか・・」
私は名も知らぬ門番に向かって黙祷した。
「門は閉じているけど閂はかかっていないみたいです」
「火事の混乱で荒らされても困るし、門は閉めていきましょう」
私達は馬を引いて城門から出る。
「こっ、これは」
私達は街の様子を見て驚いた。
荷物を担いで門へ走る人達
「この荷物を急いで門の外へ運べ!」
火を消そうと頑張っている人達
「クソッ! 俺達の程度の魔術じゃ水が足りない!」
水を求めて走り回っている人達
「水路の水を汲んで来い! 速く!!」
皆が必至な顔をして走り回っている。
街中には多くの人々の悲鳴と怒号が飛び交っていた。
「おかぁさーん! お家が、お家が」
泣き喚く子供を抱きしめ、炎に包まれる建物の前で泣く母親の姿が目に入る。
炎は二階建ての建物を覆い尽くしていた。
恐らく、火をかけたのは城主アランとその手下達だろう。
自分たちが街から出た後に、すぐには追っ手が出せない様にする為に・・・
聖人様を攫っただけでなく、自分が治めていた街の住民にまで手を出すなんてね。
気が付けば握り込んでいた拳の爪が、手の平に食い込んで血が出ている事に気が付いた。
「ああああああー--っ!!」
私は血の滴る拳で街路樹を殴りつける。
ズゴンッ!!
アラン=スミス、この報いは必ず受けさせてやる。
絶対に!
「・・・姫」
「この状況で私達に出来る事は何もないわ。連れ去られた聖人様を追います」
「よろしいのですか?」
周囲を見渡しながらシャリアは私に問う。
「ええ、行きましょう」
私とシャリアはそれぞれの馬に騎乗すると、混乱する街中を抜け門へと向かって馬を走らせる。
私達は何とか門の外へ出ると、攫われた聖人様の行方を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます