第11話 脱出
暫くの間そうしていると、落ち込んでいる私に向かってシャリアが言った。
「姫、アイテムボックスを出して下さい」
「・・・いいけど、どうするの?」
私はポケットから聖人様から頂いたアイテムボックスの魔術具を取り出すと、シャリアに渡した。
「アイテムボックスオープン」
シャリアはテーブルの上にハンカチを広げアイテムボックスを起動させると、聖人様の服や持ち物をアイテムボックスに放り込んでゆく。
「いえ、聖人クロス様が何も身に着けていなかったら、お助けした後にお困りになるのではありませんか?」
そう言われれば、荷物も服もここに残っているのだから聖人様は下着姿か丸裸だろう。
私が落ち込んでいる時にそんな事を考えていたのか・・・
「プッ・・・フフ、そうね。私達が直接聖人様に服を渡してあげないといけないわね」
「はい」
私は立ち上がると、自分の頬を両手で叩いた。
パァン!
「よし、目が覚めた。御使い様を探さないと」
「あ、その前に城主アランの部屋へ寄ってみても良いですか?」
「城主アラン? そういえば無事なのかしら」
「分かりませんが、部屋はこの階なので行ってみましょう」
「そうね、捜索の兵も借りたいし」
城主の部屋は御使い様の部屋から階段を挟んだ反対側にあるハズだ。
ドンドンドン!!
「アラン城主! 起きなさい!」
扉を叩いて待ってみるが返事は無い。
もしかして、暗殺者にやられた?
「確認してみましょう」
カチャ・・
シャリアが扉のノブを捻ると扉が開いた。
「開いてますね。入ってみます」
「ええ、気を付けて」
シャリアは扉の中に素早く入り込んだ。
私は部屋から飛び出して来る者がいれば攻撃をするつもりで、魔術具のランタンを床に置いてから構えた。
暫く待っていると、中から扉が開いてシャリアが出て来た。
「どうだった?」
「誰もいませんでした」
「争った形跡は?」
「それもありません。ベッドメイクされたままになっていて、今夜は誰も使っていなかったみたいです」
「どういう事・・・?」
「分かりません。とりあえず城の外に出ましょう」
「そうね」
廊下を進み階段へ向かう途中、開いた窓からウィンストンの街が見えた。
あらっ?
夜なのに街が見えるのっておかいわよね?
街を照らす灯の数は多く、その灯は赤く揺らめいている。
「この街を照らす灯って、火事? えっ、この数って」
少なくとも街の10カ所以上の建物が大きく燃えている。
「・・・!? 警備を混乱させる為に街中に火を点けてるのかもしれません」
だとしたら、逃げ惑う民衆は何処に行くだろうか・・・
街の中にいては危ないとなれば、火の手の無い街の外に出ようとするだろう。
基本的に夜は街の門を開ける事は無いが、門番も特例として門を開けて住民を避難させるハズだ。
マズいわね、門が開くと聖人クロス様を連れ去られてしまう。
「手数が欲しいわ、捜索隊と合流して門に急ぎましょう!」
「はい」
3階から階段を2階に降りるとコゲ臭い匂いが漂って来た。
視界もだんだん白くなってきている。
「これは、煙?」
「くっ、どうやら城にも火が掛けられた様です!」
1階に降りると玄関の扉は既に火に包まれていた。
「玄関はダメね。火の勢いの少ない場所の窓から出ましょう」
「はい」
私達は1階の奥のダンスホールに行くと木窓を開けて外を見た。
窓から見える火の勢いがここは他よりも少なめに見える。
「この窓から出ましょう」
「私が先に出ます」
「ええ、お願い」
シャリアが窓から庭に飛び降り、安全を確認してから私を呼んだ。
「平気です。どうぞ」
「ええ」
中庭に着地し建物を見ると、城の外側の壁のあちこちに燃えやすい物が積み上げられていた。
随分と大がかりな・・・
ここまでやるとなると、かなりの人数が必要になるハズ。
これを全部どかすとなると、私達で火を消し止めるのは無理ね。
「兵舎に行って捜索隊と合流しましょう」
「そうね、そうしましょう」
シャリアの意見に賛成し、炎に包まれる城から離れた。
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