第10話 失態

カチャッ

ん?

何の音?

キィィーー・・・

っ!? これって、扉の開く音だ!!

じゃあ、さっきの金属音はカギを開けた音!?

これは侵入者だわ。

部屋の中は真っ暗なままだ。

キシッ、キシッ

ゆっくりと音を立てない様にこちらへ近づいてくる。

狙いは当然私の命だろう。

どうする? 近づいて来た者の腕を掴んで捕まえるか、サイドチェストの魔術具のランタンを灯して暗闇を解消するか・・・

キシッ、キシッ

迷っている間にも侵入者は音を立てない様にしながら、一歩一歩こちらへと近づいて来る。

もう迷ってる暇なんて無いわね。

ダンダンダン!

私が覚悟を決めて毛布を跳ね上げようとした瞬間、扉を激しく叩く音が聞こえた。

「姫! 起きて下さい襲撃です!」

扉を叩く音とシャリアの声だ。

今だ!

私は手探りでサイドチェストに置いたランタンの魔道具を掴むと、急いで作動させて侵入者へ向けて掲げる。

「くっ!?」

ランタンの光が眩しいのか、ベッドの縁までやって来ていた侵入者は目の辺りを押さえて後ずさった。

私はランタンの明かりを灯したままサイドチェストの上に置くと、毛布を掴んで侵入者に向かって飛び掛かった。

「なにっ!」

慌てる侵入者に毛布を被せて視界を奪うと、侵入者のがら空きの腹部を思い切り蹴り上げる。

ドボッ!

「ゴフッ!」

毛布で力が幾らか減衰したみたいだけど、侵入者は腹部を押さえて蹲った。

危険を冒してまで捕える気はありません。

私は低い位置まで降りて来た侵入者の頭を毛布ごしに掴むと、力任せに捻った。

ボゴン

骨の折れる様な音がした。

これで侵入者は死んだでしょう。

生かして捕える事も考えたが、私がノーブルブラッドのスキルを持っていると解っていて襲って来た侵入者だ。

当然、私を殺す手段も持って来ているのでしょう。

バンッ!

「姫!」

シャリアが扉を開けると、慌てて中へ飛び込んで来た。

「大丈夫、侵入者はそこよ」

私は毛布を頭から被って死んでいる侵入者を親指で指さした。

「まだ生きてますか?」

「いいえ、死んでるわ」

「こちらにも来ていましたか・・・」

シャリアは侵入者へ近づくと毛布をはぎ取って顔や持ち物を確認し始めた。

「シャリアの所にも襲撃が?」

「はい。廊下で物音がした気がしたので、装備を整えて中で待ち構えていました。すると、カギが開けられ部屋の中に武装した何者かが入って来たのです。私が武器で応戦し侵入者ともみ合いになりましたが、身構えていた剣を装備の隙間に差し込み何とか侵入者を倒す事が出来ました。そしてすぐに姫の身も危ないと思い、この部屋へとやって来たのです」

「そう、危なかったのね」

「こちらは?」

「同じね。カギを開ける音がしたから・・・そう言えば、カギはどうやって開けたのかしら? それなりに面倒な仕組みになっていたハズだけど」

「言われてみればそうですね、侵入者の持ち物を調べてみましょう」

そう言うと、シャリアはこと切れている侵入者の持ち物を探りだした。

「両刃が黒塗りのダガーに毒らしき物を入れた小瓶・・・これは姫のスキル対策の様ですね。私の部屋に来た侵入者が持っていた者は武器しか持っていませんでしたから」

「私が寝ている隙に、毒を直接に飲ませようとしてたのかしら?」

「おや? カギの束を持っていますね」

シャリアが侵入者の服のポケットから10本程のカギをリング状の金属に通したカギ束が出て来た。

「マスターキーかしら?」 

「ええ、てっきり道具を使って解錠したんだと思っていましたが、マスターキーを手に入れているとは・・・」

「城の誰がマスターキーを持っていてどこにしまっているのかなんて、予め知っていないと手に入らないわよね?」

「それに、どれがどの部屋のカギなのかもこの状態では・・・」

シャリアはカギの沢山付いたカギ束を私に見せる。

城に忍び込んだ侵入者はカギのありかを知っていそうな人を捕まえて脅し、カギのある場所まで案内させて、私達の部屋のカギがどれなのかまで教わった?

うーん・・・カギを見つけてここへ辿り着くまでの間に、何人も殺さないとカギにはたどり着けない気がするけど・・・

だとすると、城で働く人の中に予め内通者が?

「・・・まずい、急いで聖人クロス様の無事を確認しないと!」

「っ!?  わかりました。私が先に部屋を出ますので、私の後に続いて下さい」

「ええ、お願い」

シャリアは慎重に扉を開けると、左右を確認して廊下に出た。

手に魔術具のランタンを持っていないのは、彼女が"ナイトビジョン"のスキルを持っているからだ。

「敵はいません」

私はシャリアに続きランタンの魔術具を持って廊下へと出た。

「まずは聖人クロス様の無事を確かめに行きましょう」

「わかりました、3階へ向かいます」

シャリアが先頭に立ち、聖人様の部屋へ向かって足早に移動を開始した。

私達の部屋は2階で聖人様の部屋は3階だ。

聖人様の部屋は就寝前に送り届けたから、部屋の場所は判っている。

2階の廊下から急いで階段を駆け上がり、3階へと到着。

魔術具のランタンで3階の廊下を照らしてみるが、敵らしき者は見当たらない。

警戒をしながら3階奥の聖人クロス様がいるハズの部屋へと移動した。

「ここです」

昨夜、聖人クロス様をお送りしたのはこの部屋だ。

シャリアが扉に近づいて耳をすます。

「何も聞こえませんね。入ってみましょう」

「そうね」

シャリアは武器を構えてドアノブを捻る。

カチャ・・・キィーーー

開いた!? カギが掛かってない?

扉の影に隠れた敵がいないかを確かめると、シャリアは中へ入って行った。

「姫、中へ」

私は魔術具のランタンを掲げながら部屋の中に入ると、扉を閉めてカギを掛けた。

念の為、外から襲撃者が入ってこない様にする為だ。

「どう?」

「聖人クロス様はこの部屋にはいません。ただ、シーツと毛布が無くなっていて、聖人様の着ていた服は残っています。恐らく、襲撃者は聖人様をシーツと毛布でグルグルと巻いて連れ去ったのでしょう」

「やられた・・・」

私達が寝ている間に聖人様を連れていかれてしまうとは・・・

ああ、最悪の大失態だ。

私はその場に膝をつき、両手で顔を覆った。

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