第9話 誘拐

街の入り口では驚いた。

沿道に詰めかける人が歓声を上げながら俺達を見ていたからだ。

凱旋パレードみたいな状態で城へと辿り着く。

城の入り口には何やら偉そうな服を着た人が俺達の出迎えに出て来ていた。

「I'm Alan-Smith, the owner of this Winston castle」

ウィンストン城主のアラン=スミスか。

城主になるぐらいだから、この人は貴族なのかな?

俺達は城主アランの勧めで夕食を共にする事となった。

どうやら、俺がこの世界にやって来たのは午後だったらしく、まもなく日没となる時間になると聞かされたからだ。

電気もガスも無い世界みたいだし、日没したら街は酒場以外はほぼ真っ暗になるんだろう。

昔の地球では日没で日付が変わっていたらしいしな。

燃料代が惜しい庶民は、日が沈めばサッサと寝ているハズだ。

それに、この街では顔が知られてしまっているだけに、昼夜問わずウィンストンの街中に出る気は既に無い。

食事として出て来たのは鶏肉の料理とパンだった。

席に並べられたナイフとフォークが、一人に対して一組だけだった事に安堵する。

フランス料理みたい、にナイフとフォークがが何セットもあったらどうしようかと思ったよ。

これならテーブルマナーには余り気を使わなくても平気だろう。

無難に食事を終えると、ティータイムと称した事情聴取が始まった。

王女達は気を使ってか、俺から先に質問して欲しいと言ってくれている様だ。

俺は辞書を使って単語を調べながら、たどたどしい英語で色々な質問をしてみた。

そして、彼女達から得られた情報を纏めてみるとこんな感じだ


・ここはスターリット大陸の小国リンクス王国

・スターリット大陸には20程の国がある

・他の大陸の事は余り判っていないらしいが、魔人の住む大陸があるらしい

・リンクス王国は中央南部の半島

・大陸の西側には連邦という枠組みで同盟をしている連邦国家群があり、東側はキグナス連合王国という大国がある

・東部は奴隷制度推進、西部は奴隷制度反対

・2大国の間には緩衝国がありリンクス王国はその中のひとつ

・大陸中央には大きな山脈があり、そこが東西に分割している

・太陽があり月がある事

・一年の周期は365日、4年に一度うるう年があって366日

・暦は1年12ヵ月、暦は神殿から提供されている

・一日は24時間、一時間は60分、1分は60秒

・長さはキロメートル、メートル、センチメートル、ミリメートル

・お金の単位はドル、100ドルが金貨、10ドルが銀貨、1ドルが銅貨、0.1ドルが鉄貨

・大陸極北部以外には四季がある

・この世界には魔獣・亜獣・獣・悪魔・天使・魔人・獣人・人間・精霊・精人がいる

・天使は世界各国の教会を運営し、悪魔は各地のダンジョンを運営している。

・魔人は謎が多く判らない

・獣人や精人は元々森や平原に住んでいたが、過去に奴隷として連れて来られたりして生息域はバラバラ

・魔獣は魔人・獣人・人間・精人を執拗に襲う

・魔獣は魔穴やダンジョンから生まれる

・宗教はポラリス神をあがめるポラリス教のみ

・教会の活動として巫女による宣託、怪我の治療、孤児院の運営、貨幣の造幣をしている

・各国に御使いが降臨するのは1人

・その国に降臨した御使いが存命中に次の御使いが降臨する事は無い

・ジョブは教会で変えられる

・スキルはジョブに就く事で得られる

・転職しても覚えたスキルは使える

・魔術は術具があってMPがあれば誰でも使える

・スキルレベルはスキルを使う事で経験値が溜まり、ジョブレベルが上がる時にそのレベル上昇分上がる

・スキルレベルはジョブレベルを超えない

・スキル経験値のストックに上限は無い


と、色々な事を教わった。

この知識はありがたい。

こっちに飛ばされる前にこっちの常識は殆ど教えてくれなかったしな、あの人・・・

あれ? 人?

人間ではないよな、少なくとも。

だとすると、神様だったのかな? それとも使徒だった?

うーん・・・・管理職っぽかったし、使徒なのかなぁ。



この世界の常識を色々と教わった事もあり、彼女達には俺のジョブとスキルを教えた。

王女達の話によると、どうやら俺のスキルを持っていた御使いが過去にいたらしい。

俺の所持するスキルはアイテムボックスを作れるスキルだと判明した。

お礼と実験を兼ねて1つ王女に造ってプレゼントすると、とても喜んでくれた様だ。

それで、この茶会はお開きとなり、俺はかなり豪華な寝室へと案内された。

あまり疲れてはいないが、明日から馬車に乗って2日程の移動になると聞いている。

魔術具のランタンが灯っていたが使い方が判らなかったので、点けたままで寝る事にした。


やがて夜も更けた頃、俺の顔に何か柔らかい物が押し付けられた。

むおっ! 息が! と言ったつもりが「モゴ、モガッ」としか声が出ない。

何で? 何が起こってる?

俺は慌てて手足を動かそうとする。

バチッ! バチバチッ!!

何かが弾ける様な音と共に俺の体を鋭い痛みが全身を襲った。

グァァァァァァァーーーーッ!!!

「モガガガガーーーーー」

俺の叫びは、顔に押し付けられた柔らかい何かに妨げられたらしい。

全身が思うように動かないのに何かに引っ張られ、体がエビの様に反りながら突っ張る。

体の全身が痛い!

・・・・何だこれ。

激痛は無くなってエビ反りからは解放されたけど、指の一本すら動かせない。

俺が動けないでいると、顔に当てられていた柔らかい物がなくなった。

くそっ、一体何が・・・

どうやら俺は今、声も出せない状態らしい。

俺を覗き込む様にして視界に現れたのは、数時間前まで話をしていた城主のアランだった。

「Good morning saint. Let's get along for a while」

そう言って手を振ると俺から離れる。

俺はアラン以外の誰かに猿轡を噛まされた後、シーツと毛布でグルグル巻きにされた。

その後、何者かによって持ち上げられると、荷物の様にどこかへと運ばれる。

手足はその間も動かない。

俺が食らったのは高圧の電流か?

俺はテーザーガンを食らった人の動画を思い出した。

暫くの間、何者かに担がれたまま移動した後、今度は木製の床の上に転がされる。

まだ、声は出ない。

床がガタゴトと揺れ、俺の体が上下に揺れる。

乗り物? 

馬の蹄の音も聞こえるし、俺は馬車の荷台にでも転がされているんだろう。

どうやら城を出て、俺をどこかへ連れて行くつもりらしい。

そういえばさっきアランが言ったのは"暫くの間よろしく"みたいな意味の言葉だっけ。

"暫くの間"ってのはどこかへ移動する間って事か?

俺を殺すつもりは無いみたいだけど、こんな事をする連中の所には行きたくない。

だが、体はピクリとも動かせないし、猿轡をされているので声も出ない。

身動きの取れない俺に出来る事は何も無かった。

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