第7話 ウインストン

うふっ、うふふふふ

ダメだニヤけた顔が戻らない。

私は今、御使い様と共に歩いているからだ。

先代の御使い様はこのリンクス国の基盤を整備した偉大な方だった事もあり、この国では子供の頃に御使い様の功績を教えられる。

その為に、他の国よりも御使い様への信頼が高い。

私はその偉大な存在を案内しているのだ。

「アー、マリオン・・ヒメ?」

私が一人ニヤケていると、聖人クロス様が私に声をかけてきた。

「は、はいっ!? 何でしょう」

「マジュウトハナンデスカ?」

そうか、聖人クロス様は神様の世界からやって来たんだっけ。

この世界の事は判らないよね。

「ええと、魔獣というのは魔素から生まれてくる生き物で、人型の種族だけを襲って食べます」

「ヒトガタノシュゾク?」

「ああ、えっと 獣人族・妖精族・魔人族なんかを含んだ二足歩行の種族ですね」

「ホー・・・・」

「魔物は植物を食べたり他の生き物を食べたりはしません。ですが、人型の種族を見つけると、自分が死ぬ・見つけた人型の種族を殺す・見失う、という結果になるまでは決して攻撃を止めません」

私の説明に聖人クロス様がブルリと体を震わせる。

「マジュウハツヨイ?」

「何十人で相手をしないと倒せない魔物もいれば、子供が石を叩きつけるだけで倒せる魔物もいます」

「コノアタリニモイマスカ?」

そう言って聖人クロス様は辺りを見回した。

「この辺りは草原になっているので比較的弱めです。ソニックラットやドリルラビットといった、小型の魔物なんかがウロついていると思います」

「・・・・ワタシデモタオセマスカ?」

うーん

出来れば聖人クロス様には魔物退治に手を出して欲しくはないけれど、どう答えたらいいんだろう。

「聖人クロス様は魔物との戦闘に向いたスキルをお持ちでしょうか?」

私が返答に困っていると、後ろに控えていたシャリアが馬を引きながら聖人クロス様との会話に入って来た。

「モッテマセン」

「この世界で魔物に対抗する為には訓練を積んで戦闘技術を上げるか、魔術や戦闘向きのスキルを使いこなすしかありません。残念ながら、今は準備不足でしょう」

「ソウデスカ・・・」

「ちなみに、何か護身用になる武器はお持ちですか?」

シャリアの問いに聖人クロス様はコートを開き、腰の剣帯に鞘ごとブラ下げた大ぶりのナイフを見せてくれた。

「コレデス」

聖人クロス様の体格が小さいので、これぐらいの武器が丁度いいのでしょう。

「なるほど、そのぐらいのナイフがあればソニックラットもドリルラビットも倒せるでしょう・・・・ですが、魔物の攻撃を防ぐ手段がありません」

「フセグ?」

「はい、魔物は倒せても怪我をしては意味がありません。盾などの防具を揃えて対策すれば魔物の攻撃は防ぐことが出来ます」

「ナルホド」

「魔物に対する戦闘手段に関しては私達が相談に乗りますので、街で一緒に考えましょう」

「ワカリマシタ」

ふぅ、良かった。

私達の接触が遅れていたら、聖人クロス様はソニックラットかドリルラビットに挑んでいたかもしれない。

私はひそかに安堵の息を吐いた。

「姫」

「何?」

「農道から騎兵がこちらへやって来ます。恐らく隊の者達かと・・・」

シャリアに言われて農道の先を見ると、こちらへ向かってくる沢山の騎兵が見える。

「シャリア、彼らに説明をしてきて」

「解りました」

「それと、ウィンストンで宿の確保と明日までの警備の計画、それと王都への連絡を指示しておいて。私達はこのまま歩いてウィンストンに入るから」

「はい、行ってきます」

そう言ってシャリアは馬二頭を引き連れて走って行ってしまった。

「アレハ?」

聖人クロス様はこちらへ向かって来ていた隊の騎兵を指さしている。

「あれは聖人クロス様を探す為の捜索隊の一部です」

「ソウサクタイ?」

「はい、占星術師と占い師と神様による神託で、今日聖人クロス様が国の何処かに降臨されると知らされていましたから」

「ワタシガココニキタコト、ミンナシッテルデスカ?」

「はい、恐らく国中の者が見たのではないかと」

「クニジュウ?」

「日食の真っ暗な闇の中に天から一条の光がこの地に射し、その光は大きな光となって世界を照らしました。やがて、その光は収束しこの平原で御使い様へと姿を変えました」

「・・・・」

「それはとても幻想的で美しい光景でしたよ」

「アア・・ソウデスカ」

「ですので、街に入るとお祭り騒ぎになるかもしれません」

御使い様の降臨の神託という裏付けが取れた王家は、御使い様の降臨を国民に対して公表しています。

そこへ降臨のあの光が天からウィンストンの近くに降りて来たのだから、聖人クロス様が街に入ればウィンストンの街は大騒ぎになるでしょう。

「ソレハコマリマシタ」

この服装と顔立ちです、ウィンストンの街に入れば一発でバレますね・・・

「ですので混乱を避けるために、本日はウィンストンに宿泊し、明日には王都へ向かって頂けるとありがたいのですが・・・勿論、諸経費は全額王家が出します」

「オウトデスカ・・・」

「はい、このままでは身の危険があります。まずは王都で聖人クロス様を行動に対して私達王家が公認し庇護を宣言し、王家の後ろ盾がある事を認知させたいのです。そうすれば、良からぬ事を考える物も減るでしょうし・・・」

「ワカリマシタ、オウトヘイキマス」

「おお、ありがとうございます。では、明日の朝にはウィンストンの街を出発する事になると思います」

「ハイ」

「ですので、今日はこれからウィンストンに入り、食事でもしながら聖人クロス様にこの世界の事を説明いたしましょう」

「オネガイシマス」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る