第6話  遭遇

・・・・・

私とシャリアは観測地点から先行して出発すると、2時間程でウィンストンの街の手前にある橋へと辿り着いた。

「随分と立派な橋ね」

「三年ほど前に流されたので新しく再建した物と聞いています」

「ああ、流されたのはこの橋だったのね」

3年前の大雨でどこかの橋が流されたとは聞いていたけれど、この橋だったとは知らなかった。

「姫、ウィンストンに寄っていきますか?」

「いいえ、ウィンストンには寄らずに予想地点に向かうわ。御使い様が予想地点から移動してウィンストンに向かっているなら、途中で見つけられるでしょうし」

「そうですね」

私達は橋を渡り終えると、ウィンストンを通り過ぎた所で街道を外れ農道に出た。

ウィンストンの街の周囲は全て畑で、農道は街から放射状に延びている。

「姫、地図で方向を確認しましょう」

農道をどちらに行こうか迷っていると、地図を取り出したシャリアが馬を寄せて来た。

「そうね」

地図を確認し予測地点を確認すると、その方向に馬を走らせた。

農道には時折人の姿を見かけたが、どれも作業用の恰好をしていたので御使い様ではないと判る。

まさか御使い様があんな恰好をしている訳もないし、見落とす事はないだろうと考えている。

暫く馬を進ませると周囲に畑は無くなり、農道も途切れてしまった。

農道の途切れた先は草原が広がっている。

「この先は足場が判らないから馬を走らせるのは無理ね」

「ええ、馬が転びそうですから歩かせましょう」

私達は予測地点に向かって慎重に馬を進める事にした。

暫く草原を進んでいると、前方に人の姿が見えてくる。

「姫、前方に人が」

「ええ、確認したわ」

「立ち止まってこちらを見ているみたいですね」

「警戒されてはいけないわね。馬を降りて近づいてみましょ」

「はい」

私達は馬を降りると手綱を引いて前方の人に近づいてゆく。

前方に佇む人物の姿が徐々にが見えて来た。

外見的には20歳ぐらいのだろうか。

フワフワとした黒いクセのある髪で、頭は小さい。

背丈は170cm程で色白、黒いフード付きのコートに白いシャツ、黒いズボンを履いている。

どれも、この国ではまず見かけない造りの服装だ。

そもそも、この辺りにいるのは作業着を着た農民か狩人ぐらいしかいない。

だとすれば、この方は間違いなく御使い様だろう。

なら、どうしよう・・・

そうだ! 

まずは自分が何者かを教えて安心して貰って・・・それから御使い様かどうかの確認をすればいいわよね!

「シャリア」

私はシャリアに声を掛けるとその場に頭を低くして跪いた。

するとシャリアも私に続き、慌ててその場に跪く。

そして、私は前方の人物に向かって大声で話しかけてみた。

「すみません! 私はこの国のリンクス王の二番目の娘、マリオン=リンクスと申します! 後ろにいるのはお供のシャリアと言います。お話がしたいのですが少々よろしいですか?」

堅苦しい言葉だと伝わらなかったり誤解されたりする恐れがあるので、出来るだけ砕けた口調にしてみた。

「ハイ、カマイマセン」

ザッザッザッ・・・

私達がその場で頭を低くしてジッと待っていると、御使い様がゆっくりと動き出した。

どうやら、こちらへとやって来てくれるようだ。

「ありがとうございます」

暫くすると、私の低い視界の先に御使い様の足元があった。

うわっ、見た事も無いデザインの靴だ。

この靴の素材は何だろう? 

「カオヲアゲテ」

私が靴を見ながら靴の素材について考えていると、御使い様が私達に声をかけてきた。

「いえ、先に確認をさせて下さい」

「ナニヲ?」

「貴方は御使い様でいらっしゃいますね?」

「ミツカイ?」

私の質問に御使い様は背中に背負っていた鞄から分厚い本を取り出すと、その場でその本をパラパラと捲り読み始めた。

んー・・・御使い様は言葉が片言ですね。

きっとこちらの言葉にはまだ慣れていないのでしょう。

あの本でこちらの言葉を調べているのかもしれませんね。

暫くの間待っていると、御使い様は本を閉じて口を開いた。

「コノセカイノカミノシトニハアイマシタ。デモ、ワタシハツカイデハアリマセン」

神の使徒様に送り出された?

であれば、それは御使い様で間違いないのですが・・・

何せ、私の知る範囲で神の使徒と会った人間はいません。

「ええと、御使い様とお呼びするのはいけませんか?」

「アー・・・ワタシノコトハ"クロス"トヨンデクダサイ」

「クロス様ですか・・・では、聖人クロス様とお呼びします」

御使い様を敬称無しで呼ぶことなんて、恐れ多くて出来る訳がない。

だとしたら、他国の御使い様の敬称に"聖人"という敬称があったから、それを使えばいいでしょう。

「セイジンノケイショウヲ、カエテホシイデス」

「それは無理です。聖人クロス様は神様の使徒様と会っているのですから、その偉業を軽く扱う事は出来ません」

「オオ・・・」

どうやら"聖人クロス"という呼び方には慣れないご様子。

他の敬称を考えてもいいけれど、ここでのんびりもしていられない。

「ここではなんですので、街でゆっくりとお話を致しませんか?」

「マチ?」

「はい、この辺りには魔物が出ます。ですので、この近くにあるウィンストンという街へ移動したいと考えたのですが・・・」

「ワカリマシタ」

「良かった。では、私と部下のシャリアが護衛しますので行きましょう」

私は馬をシャリアに預けると、聖人クロス様と共にウィンストンの街へと歩き出した。

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