第4話 降臨

いよいよね・・・

太陽が完全に月の影へと完全に隠れた。

その瞬間、一条の光がサッと天から地へと落ちてくる。

「天から光の筋が・・・なんと美しい光景なのでしょう」

シャリア小さな呟きが私の耳に聞こえて来た。

フフフ

普段は無感情とも言われるぐらい感情を殆ど表に出す事の無いシャリアが、私の横で呆けた顔をしているのが面白い。

しかし、これが伝え聞いていた御使い様の降臨ですか・・・・なんて美しいのでしょう。

天から射す光は徐々に太くなり、世界を眩いひかりで覆った。

「う、眩しい」

周囲が一瞬で真っ白な世界に変わる。

私は黒いガラス板で目を覆うと、光の中心部を凝視した。

周囲に広がった光は円を描き、徐々に小さな光の輪となり中心へと収まってゆく。

そして、中心へと収まった光は、一本の細い光を天に伸ばして消えた。

ほうっ・・

思わずため息が出てしまう。

これが御使い様の降臨なのね。

恐らく、光の収束した場所こそが御使い様の降臨した場所だ。

方角はここから北北西だろうか?

周囲を見渡してみたけれど、薄暗いままだ。

まだ完全に日食が終わっていないからだろう。

黒いガラス越しに太陽を見ると、太陽が徐々に顔を出し始めている。

私は見張り台にいる観測班に声をかけた。

「観測班! 距離と方向は観測出来た?」

「はい、地図と照合しますので出立の準備をお願いします」

「判ったわ」

私は急いで見張り台から降りると、隊の者達に指示を出す。

「騎兵隊の者は全員騎乗して待機」

「「はっ」」

隊の者達は私の指示を受け、全員が慌ただしく動き出した。

ん、これで位置を特定出来ればすぐにでも出立出来るわね。

監視塔の下へと戻ると、辺りがすっかり明るくなっている事に気が付いた。

どうやら日食が終わったらしい。

「姫、こちらをご覧下さい」

観測員達が監視塔から降りて来てテーブルの上に地図を広げた。

「降臨の光の収束点はこの観測所から北北西の方向だと思われます」

観測員が地図の観測所を棒で指し示し、そこから北北西の方向に棒を置く。

「距離はどのぐらい?」

私の問いに別の観測員が答えた。

「三角測量の観測では、地図上のこの地点の辺りだと思われます」

観測員は棒の延長線上の地点に木の実を置いた。

「この地点だと城の北部地域の姉上の隊も城の父上の隊もかなり遠いし、私達の隊が一番近いみたいね」

「そうなります」

だとすると姉上には悪いけれど、御使い様のエスコートは私になりそうだ。

「この辺りは森かしら?」

簡易的な地図なのでこの辺りの地理に疎い私には、予測地点の地形が判らない。

「いいえ、かなり開けた平原があって中央に川が走っています。川沿いにウィンストンという街があり、観測地点はその少し先にある平原の辺りですね」

ウィンストン、聞いた事のある名前ね。

確か、王都と港町ヘスルを結ぶ街道の途中にある街だったかしら。

「そう、予測地点はウィンストンの街の向こう側なのね」

「はい」

「ルートは?」

「そこの道を少し東に行くとウィンストンへと続く街道に出ますので、そちらを通って行くと良いかと」

「時間はどのぐらいかかりそう?」

「うーん・・・2~3時間程だと思います」

高台の山道を馬車と一緒に移動するので、どうしても時間がかかってまうのは仕方がない。

「・・・・・分かりました。そのルートで移動しましょう。観測班は荷物を纏めたら追って来て下さい」

「はっ」

私は観測員達の元を離れると騎兵隊の馬の列へと移動する。

シャリアが私の馬を用意して待っていてくれた。

私は馬に飛び乗ると騎兵隊の者達に声をかける。

「これから街道へ出てウィンストンの街へと移動します。私とシャリアで先行するから騎兵隊は馬車と一緒に後から付いて来て」

「お二人だけで先行するのは危険では? 魔物が出てきたらどうするのです」

私達が二人だけで先行する事に、騎兵隊の副隊長であるジルドが私に反対の意見を述べた。

「私達が到着するまでに、御使い様が魔獣と接触しないと言い切れるのですか?」

「それは・・・」

「私なんかの事よりも、御使い様の事を優先的に考えなさい」

私の事を心配して言ってくれているのだろうけれど、今はそんな事を言っている場合ではない。

「ハッ、分かりました」

「それじゃあ、出発するわよ」

騎兵隊をその場に残し、私はシャリアを伴ってウィンストンへ馬を走らせた。

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