第3話 死後の世界

「黒須裕二君」

『えっ? はい』

俺の名前を呼ばれたので、思わず返事をしてしまった。

「24歳、独身、大学を卒業後、設計事務所に入社、間違いないかね?」

『はい』

うん、合ってる。

「ふむ、犯罪歴は無し。思想はかなり白寄りか・・・危ういな」

『危うい?』

犯罪歴が無いのは犯罪をを犯す根性が無いだけなんだけどね。

それよりも「危うい」ってのは何だろう。

「君は死んだんだ」

『ああ、やっぱり』

俺は事務所の夏季休暇を利用し、アメリカへ有名建築物を見に行く予定を立てていた。

いつか自分もそんな建築物を建ててみたいと考えていただけに、先人たちの建築物をその目で見てみたかったのだ。

だが、羽田から乗り込んだ飛行機はエンジンから火を噴き、どんどん高度を下げていった。

・・・そっか、飛行機が落ちたのか。

どうやら、俺は死んだらしい。

「それで、君を輪廻の輪に戻すか異世界で生きてみるかを、選ばせてあげようかと思ったんだけど・・・」

『えっと、ちなみに異世界ってどんな所なんでしょうか』

「ラノベやマンガみたいな世界だよ。魔法があって獣人がいてダンジョンがあったりする」

『ええっ!』

マジか! 行きてぇ!!

「ただ、危険だよ? 衛生状態は悪いし治安も良くない。街中でも強盗に襲われるし、街の外では魔獣に襲われるから」

『輪廻の輪に戻るとどうなるんです?』

「記憶が無くなり魂は浄化されて、地球上の生物の何かに生まれ変われるよ」

ん? それって人間以外にもなるって事か。

バッタとかになったりするのかな。

って、記憶が無いなら意味が無いか。

『えっと、ちなみに異世界に行く場合は記憶はあるんですか?』

「うん、今は実験中の世界だから記憶を持った状態で行けるよ」

『おお!』

記憶があるなら、本来終わった人生だけど別の世界で延長戦が出来るって事だよね。

「まぁ、移転者にはSSRのジョブがランダムで与えられるから、運が良ければ生き残れるかもしれないけどね」

『SSRのジョブ?』

「あー、ほら。スマホなんかでソシャゲーなんかでよく見るランクだよ。コモン・レア・スーパーレア・スーパースヘシャルレアの略ね。私達もそういう言葉を取り入れてみようと思ってるんだ」

『なんか、ガチャっぽい感じですね』

「うん、その実験世界じゃみんな何かのジョブに就くんだ。それが農民でも商人でも、ジョブに就くと何かのスキルが手に入る。スキルは現地の神様が作ったシステムでね、詠唱も魔法陣も必要としない奇跡を起こせるんだ」

『すごいですね・・・』

「ま、詳しい事は"ステータス・オープン"って言えば画面が出るから、それに細かい説明は書いてあるよ」

ステータス画面まであるのか、それは行ってみたいなぁ。

『面白そうですね』

「危険な世界だって事を理解してくれたのなら、いいさ。ただし、"自殺禁止"にはさせて貰うけど、どうする?」

『自殺禁止?』

何で自殺禁止なんだろう?

危険な目に遭ったら死ぬんじゃないの?

「僕としては送り出したからには、諦めずに精一杯生き抜いて貰いたいからね。ちょっと失敗したぐらいで自殺なんてされても困るんだ」

んー・・・・・・まぁ、自殺するつもりも無いしいいか。

『分かりました。行けるのであれば、自殺禁止で構いません』

「そかそか。因みに、君は英語できる?」

『一応大学までの内容なら・・・』

「それは良かった、現地の言葉は英語だから何とかなるね」

『ええっ!? 文法はそれなりに判ってますけど、会話には全然自信が無いです・・・』

文法は判ってるけど、ネイティブな会話なんてロクにした事無いんだよな。

「んー、じゃあ。英和辞典付けてあげるよ、汚れないし破れないし願えば無くしても取られても戻って来るヤツ。単語さえ判れば何とかなるでしょ」

『おお、それはありがたいかも』

「それと移住者セットの入ったリュックもあげよう。腐らない水の入った水筒、干し肉10日分、鞘付きナイフのベルトセット、金貨9枚、銀貨9枚、銅貨9枚、鉄貨10枚、財布用革袋、火打石、手拭い、毛布、、敷布、中身はそんな所かな」

『ありがとうございます』

「ジョブチェンジは教会でやって貰えるけど、まずはSSRのジョブを育てる事をオススメするよ。それと、沢山のジョブを習得しても、ジョブレベルを上げて強いスキルを覚えてもも、基本のステータスは変わらないから気を付けてね」

『えっと、どういう事でしょうか?』

レベル100とかになれば、"人類最強!! 俺TUEEEEEE"になるんじゃないの?

「レベルを上げるだけで筋力が上がったりして、肉体がドンドン強化されるなんておかしいよね?」

『それは・・・まぁ』

「筋力のステータス上の最高値は100なんだけど、筋トレして鍛えまくった人だけが辿り着ける数値だから、普通に生活してたら50~60ぐらいなんだよね。他の数値もそうなんだけど、数値を上げたければ実際に運動して鍛えるしかないって事。ちゃんと覚えておくといいよ」

『あ、そういう』

なるほど、人間の限界を超える事は無いって事か。

まぁ、その方がいいんだろうな。

「種族が違うと限界値も変わるんだけど、知りたければ自分で調べてね」

説明してくれるつもりは無さそうだな。

『・・はい』

「基本的な事は地球の環境をコピーして作り出した惑星だから、公転周期・自転周期・地軸の角度・衛星の数と大きさは、全部が地球と同じだから混乱は少ないと思うよ。先人がちゃんと単位も作っているしね」

『ええっ! そうなんですか!?』

「それじゃ、ド派手に送り出しちゃうよー」

『環境についても教えっ』

「どー--ん」

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