フランケンシュタイン/シェリー 小林章夫訳

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天才科学者フランケンシュタインは生命の秘密を探り当て、ついに人造人間を生み出すことに成功する。しかし誕生した生物は、その醜悪な姿のためフランケンシュタインに見捨てられる。やがて知性と感情を獲得した「怪物」は、人間の理解と愛を求めるが、拒絶され疎外されて......。

(光文社公式サイトより)

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 この小説を読んで、フランケンシュタインの怪物に対する“ただただ恐ろしい存在”というイメージが変わりました。というのもこの怪物、元々は優しい心を持っていたのです。しかし、その恐ろしい見た目のせいで人間たちから受け入れてもらえず、彼の心はどんどん荒んでいくことになります。


“あちこちに幸福が見えるのに、おれだけがそこからのけ者にされている。おれだって優しく善良だったのに、惨めな境遇のために悪魔となったのだ。”


 怪物は、孤独だったのです。

 人間たちは恐ろしい見た目=人を襲う、と決めつけて彼を攻撃します。怪物に寄り添って小説を読んでいると、人間たちの行動は酷いものにも思えました。

 でも実際に私の前に怪物が現れたとしたら? と考えると、作中の人間たちを責めることはできません。私も恐怖で逃げ出すだろうし、身を守りたい一心で彼を攻撃してしまう……かもしれないのです。


“呪われし創造主よ! おまえすらも嫌悪に目を背けるようなひどい怪物を、なぜつくりあげたのだ? 神は人間を哀れみ、自分の美しい姿に似せて人間を創造した。だがこの身はおまえの汚い似姿に過ぎない。おまえに似ているからこそおぞましい。サタンにさえ同胞の悪魔がいて、ときに崇め力づけてくれるのに、おれは孤独で、毛嫌いされるばかりなのだ”


 以前読んだ『人は聞き方が9割』という本の中に“人は孤独になると判断を誤る”という言葉がありました。犯罪の原因の多くが孤独感から発生している、というお話だったと記憶しています。

 優しい心の持ち主だったのに、どうしようもない孤独の末、残酷な行為に及んでしまうフランケンシュタインの怪物にも当てはまります。

 人間が怪物をすんなり受け入れるのはとても難しいことでしょう。しかし、勝手に生み出され、創造主に名前も与えられずに見捨てられ、人間たちに疎外される怪物の孤独を思うと胸が痛みます。


“忘れるな。おまえがおれをつくったのだ。”


 フランケンシュタインは怪物を創り上げ、怪物がいざ動き出したとき、彼を放置して逃げ出すような無責任な人です。

 それでも、怪物はフランケンシュタインにこそ、受け入れてほしかったのではないかなと思います。

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