デミアン/ヘッセ 高橋健二訳
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
ラテン語学校に通う10歳の私、シンクレールは、不良少年ににらまれまいとして言った心にもない嘘によって、不幸な事件を招いてしまう。私をその苦境から救ってくれた友人のデミアンは、明るく正しい父母の世界とは別の、私自身が漠然と憧れていた第二の暗い世界をより印象づけた。主人公シンクレールが明暗二つの世界を揺れ動きながら、真の自己を求めていく過程を描く著者の前期代表作。
(裏表紙より)
୨୧┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈୨୧
“鳥は卵の中からぬけ出ようと戦う。卵は世界だ。生まれようと欲するものは一つの世界を破壊しなければならない。”──p136
漫画『東京喰種』の一巻で『デミアン』の一部が引用されており、その場面はとても印象的です。
先日『東京喰種』を読み返していたとき、『デミアン』が積まれたままになっていたことを思い出し、今回手に取りました。
ヘッセの『車輪の下』が好きなのですが、『デミアン』も似たような感じかしら? と軽い気持ちで読み始めたのですが、なかなかに難解!! 一度読了し、続けて再読してもまだ完全に理解しきれていないなと感じました。
キリスト教やグノーシス主義、ユングといった宗教や心理学の知識があればもっと深く読めたのかもしれません。勉強して出直したい所存……。
それでも、私なりの感想を少し記しておきたいと思います。
『デミアン』を読み進めていくと私の中で二つのキーワードが浮かび上がってきました。それは、「二つの世界」と「自己探究」です。
二つの世界とは「明るい世界」と「暗い世界」のことです。
主人公のシンクレールは、温かく守られた父母の明るい世界にいながら、乱暴で暗い世界への興味も持ち、その二つの世界が交錯する場所で暮らしています。
痛い目に遭ったことで暗い世界を拒んだり、また、明るい世界を手放したりと揺れながらシンクレールは成長していくことになります。
明るい世界はとても居心地のいいものですが、暗い世界を知ることもまた、成長において必要なことなのかもしれません。
シンクレールは、不良のフランツ・クローマーによって暗い世界に引きずり込まれたとき、ある夢を見ています。
“これらの夢の中でいちばん恐ろしかったのは、私は父に対する殺害の夢だった。”──p51より
これはシンクレールが暗い世界に身をおいたことで、明るい世界(父母の世界)から自立、成長しようとしていることを表しているのかなと思いました。
“生活されるような思索だけが価値を持つのだ。きみの『許された世界』は世界の半分にすぎないということをきみは知った。”──p95より
クローマーに支配されていたシンクレールはデミアンの登場よって救われます。
デミアンと出会い、オルガン奏者のピストーリウスに導かれ、シンクレールは自己探究の道を進んでいきます。
『デミアン』のはしがきにこんな一文があります。
“われわれは互いを理解することができる。しかし、めいめいは自分自身しか解き明かすことができない。”──p9より
シンクレールは自分の内側を見つめず、偽ることで度々堕落しました。
私もシンクレールのように、周りと比べてはその違いに悩み、孤独を感じたことがあります。自分はどうしたいか、という声に耳を塞ぎ、どうあるべきかばかりを気にしていたことも。
デミアンは言います。
“われわれの内部に、すべてを知り、すべてを欲し、すべてをわれわれ自身よりよくなすものがいる、ということを知るのはきわめてよいことだ。”──p130より
ピストーリウスは言います。
“きみが世界を単に自分の中に持っているかどうかということ、きみがそれを実際知っているかどうかということは、大変な違いだ。”──p159より
デミアンはすべてを知る自分自身なのだと思います。だからデミアンは、私の内側にも存在します。彼の声を聞こうとしたとき、知ろうとしたときに初めて、姿を見せてくれるのでしょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。