3 落胆
電気炊飯器には、研いだ米と水を入れてある。次はガスコンロに火を点けないといけない。
天つゆを作ってから、ちくわを縦半分に切る。火の点いたガスコンロの天ぷら鍋の油が熱くなるまでに、金属製のボウル内で小麦粉と水、卵、青のりを混ぜ合わせた中に切ったちくわを入れておく。天ぷらは手際が勝負だ。
「もう揚げるわよ」
「わかった」
大学で配られていたという冊子を見ている兄に声を掛け、天ぷら鍋の油に濡らした
揚がったちくわ天は、大きな皿に敷いた古新聞の上に次々と上げていく。無機質な文字の上で、青のりの緑がきれいに目に映る。
「短大の勉強はどうだ? 理数なら見てやるぞ」
「なぁに、突然。珍しい」
「いや……、卒業したら勉強は役に立つんじゃないのか?」
「そりゃ家政科だから役に立つとは思うけど……。そんなこと今まで気にしなかったじゃない、びっくりさせないで」
明るく言うと、兄は黙った。私は気にせず新聞紙から別の皿へちくわ天を移していく。
兄のカップ酒も用意し、「いただきます」と手を合わせてから箸を取る。まだ熱いちくわ天を天つゆを付けずに噛むと、ほんのり甘みを持つ塩気が広がる。ぷりっとしたちくわの食感が楽しく、青のりの風味もよく合っていてとても美味しい。
「美味い。知美は料理上手だ」
「褒めたって何も出ないわよ」
向かい側に座る兄も同じように天つゆを付けないで食べている。そんな姿にひとしきり笑ってから、天つゆを付けたちくわ天を口に入れる。分厚い衣にしみた
「酒もたまに飲むと美味く感じるよ。……ああ、そうだ、近いうちにあいつらと飲みに行くことになると思う」
顔を赤くした兄は上機嫌で、
「大学の人たち?」
「ああ。大学も
「うん」
それから兄は、いかにその仲間が良い人たちかということを語った。私は
「それで、女も男と同じ……」
「そろそろ片付け……、女? 女の人もいるの?」
なかなか止まらない兄の話を遮ろうとした時に出てきた「女」という言葉に、違和感を覚える。兄から女性の話など聞いたことがなかったから。
「ああ。女も社会に出て活躍できるように、世の中を変えようってな」
「女の人が……話に聞いたことはあったけど、本当にいるのね、そういう人」
「他のグループだが。おまえも大きな企業に就職すればいい。発言力が増すぞ」
座布団を立って食器を手にする私に、兄はあぐらをかいて座ったまま話す。片付けられる食器同士が触れ合う音や、床に落ちた箸の音など聞こえていないかのように。
「……だめだよ、私は。お父さんもお母さんも、卒業したら戻ってきなさいって言うもの。増屋の家に話を通したって葉書も来たんだから」
「女も活躍する」という言葉に、私は引っかかりを感じた。これまで女は活躍していなかったのだろうか。ひっそりと大人しくそこにいただけだとでもいうのだろうか。
「そうか」
兄が上気した頬のまま
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