プロローグNo2① 『日常と変化』

プロローグ②

時間は少しさかのぼり2027年1月8日 日本:東京:TOS大学 カフェテラス

ニューヨークの悲劇から約一か月、遠く離れたこの地ではいまだ非現実の影は薄く、人々は代り映えのしない生活を送るものが大半である。

「原因不明の大爆発から早くも一ヶ月以上となるここニューヨーク市では現在も陸軍及び近隣の州から応援に駆け付けた消防隊やボランティアによる生存者の捜索活動が続けられています。」

壁にかけてあるテレビからは今だ原因不明とするニューヨークの大規模爆発に関する情報をニュースキャスターが読み上げる声が聞こえる。

時計の針は15:50分を指しており午後の二コマ目の講義が行われている時間帯、カフェの利用者は疎らで、新年が開けて8日しか立っていない現在、寒風が吹くテラス席には自分以外誰も座っていなかった。

TOS大学 理工学部 3年 秀嶋 涼 将来ロボットを開発する夢を追いロボット工学の知識をなりふり構わず頭に詰め込み早3年、人間の力仕事をアシストする装着型デバイスの設計開発を行い今では学外の企業と連携して社会の役に立つロボットの開発に携わっているが、時間的な余裕を見つけては自分自身の夢で男のロマンでもある人が乗って操縦するロボットの設計を続けている。

「やっぱり、人が乗って操縦するロボットってなると需要が無いのかな…協賛企業を募ってもなかなか反応が悪いなぁ…」

スマホに視線を下げていた体制から一気に空を仰ぎ見て誰ともなしに独り言ちる。

「こうなったら、今の会社を担保に金借りて自分たちだけで作るしかないかぁ~・・・」

今度は机に突っ伏して頭を抱えてもだえるように独り言ちる。

(ぱこん)

そんな涼の頭が軽い衝撃を受けて重たい頭を持ち上げて衝撃を放った張本人をみる。

「あれ?どうしたん?荒崎氏。今は精密機械工学の事業中なんじゃ?」

丸めた教科書を左手に半眼で見下ろしている恩師である荒崎教諭。

「先生を付けろ、先生を」

握っていた教科書を机に置いて涼の向いの席に座りながらタブレットに表示した企業名のような一覧を見せてくる。

「あぁ~やっぱりこっちもダメだったかぁ~」

一覧の内容を確認すると再び頭を抱えて突っ伏する涼

「俺の知り合いに手当たり次第に声を掛けてみたけど何処も反応は同じだな」

今だニューヨークの情報を流すテレビに視線を向けながら結果を伝える荒崎教諭

「今時人が乗って操縦する巨大ロボットなんて、ニーズに合わないんだろうな。建築や土木の環境では専用の機械が発達しているわけだし、大きな戦争が起きない現在では現存の兵器の維持だけでも国費を圧迫してるんだ。そこに実績も無い、信頼性も無い巨大ロボットを導入しないかと話しても鼻で笑われるのが落ちだ。1度は乗ってみたい、操縦してみたいと思ってもバカ高い金払ってまで導入しようって企業や国はなかなか無いだろうな」

追い打ちを掛け突っ伏するどころかテーブル上に五体投地する勢いの涼

「まぁ、それも去年までの話なんだがな」

話の流れが変わったことを感じた涼がガバリと頭を起こした鼻先に一枚の名刺が突きつけられる。

「『防衛装備庁 技術戦略部 部長 佐橋 秀則』…防衛装備庁の技術戦略部って、確か兵器の研究開発を立案する部署だよな?」

「あぁ、ニューヨークで起きた大爆発事件が引き金だろうな、年末に向こうから接触してきた。」

「どうせ兵隊に着せるパワーアーム関係だろ?これまでと一緒でしょ」

受け取った名刺を荒崎教諭に返す。

「それがどうもこれまでと違うようなんだ」

受け取った名刺を片手で曲げたり伸ばしたり弄ぶ。

「というと?」

「あの大爆発前に現れた巨大物体あるだろ?各国政府は大爆発を起こす前にあれをどうにかして無力化しようと考えているようだ」

教諭はスマホにSNSで拡散された『それら』の画像を映して見せてくる。

「でもこいつら現行の武器で攻撃してもほとんど歯が立たなかったって話じゃなかったか?」

スマホの画面をスライドして別の写真を写す。

「実は弾頭兵器では傷をつける事も出来なかったが、気化爆弾をぶつけた個体には若干ではあるがダメージを残す事が出来たようなんだ」

画面には黒いゴムのような表面が溶けて内側の筋組織のようなものが露出している映像が映し出されている。

「熱量のバカ高い何かしらをぶつければある程度ダメージが通るってわけか…、でもそれとうちのロボット開発とどう繋がる?それこそアニメみたいにロボットにミサイル付けるかビーム砲みたいのを持たせて攻撃するとかそんなイメージか?」

「そうだな、簡単に言ったらそんなイメージになるな」

「本気かよ、俺が考えてるロボットの設計こそある程度終わっているけど、実物を作った事は一回も無いんだ。それに武器を搭載する事を想定していない。ロボットを動かしてかつ高熱量の武器を扱えるエネルギーを有するだけでも設計を変更しないと行けなくなる。直ぐに対応するのは難しいしそれに…」

一気にまくし立てる涼の言葉尻が小さくなる

「自分の作るロボットが軍事利用、特に兵器にするのはいやか?」

涼の目を見て確認する荒崎教諭

「確かに今回の申し出は奴らをどうにかするための手段を講じるための事なんだろうけど、奴らが現れなくなった後はどうなる?俺が設計したロボットたちが人殺しの武器を持って戦場で戦う事になるんじゃないか?」

涼は教諭の目を見返せなくなり顔を伏せる

「ロボットは人を手助けする存在でないとダメなんだ…人を殺す兵器にするなんて最悪だ。せっかくいい情報を持ってきてくれた荒崎氏には悪いけど…」

「そうか…まぁ、設計者が嫌って言うんなら仕方ないな。あんまり気にするな」

涼に気を使わせすぎないように明るい声で返す教諭。微妙な空気になった場の雰囲気を変えるべく話を変える。

「そういえば、年末年始に御神楽の実家に挨拶に行ったんだよな?許しは得られたか?」

荒崎教諭の気遣いに気付いた涼はそれに乗っかることにした。

「あぁ、学生の身分で結婚する事がどうとか言われたけど、ちゃんと説得して最終的には入籍は卒業後ってのを条件に許しを貰えたよ」

顔合わせの後の大宴会を思い出し少し疲れた笑顔で答える。

「おぉ!そりゃおめでとさん!!これでうちの学部のツートップが名実ともにパートナーになるんだな!いゃ~おめでたい!!」

荒崎教諭のテンションが上がり涼の背後に移動するとバシバシと背中をたたいてくる。

「あはは、普通の教諭ならたしなめる立場じゃないん?でも荒崎氏、応援してくれてありがと」

涼の口からお礼の言葉を聞いた荒崎教諭はキョトンとした顔になる。

「珍しいな、涼が素直に礼を言うなんて」

半眼になる涼

「一体俺を何だと思ってたん?」

「無駄に行動力と才能があるクソガキ共?」

「無駄にって…ひでぇ!!」

わぁわぁとじゃれるくたびれた中年とクソガキ

「涼ちゃん!!なにじゃれあってるの!!荒崎先生お疲れ様です!」

その二人に片手を振って駆け寄ってくる女性が一人

「梨沙、お疲れ様。午後の講義は終わったの?」

「おぅ!御神楽!こいつを拾いに来たのか?うざってぇから早く連れてってくれ」

「終わったの?じゃないよ!午後の2コマ目終わったら直ぐに介助ロボットの件でツバキ福祉さんの部長さんと会うことになってたでしょ!!後、先生安心してください直ぐに連れて行くのでっ!!」

涼の腕をつかむとグイグイ引っ張る梨沙

「あれ?それって来週の金曜日じゃなかった?」

梨沙にされるがままの涼が頭を傾ける

「来週はニーエシステムさん!!、ほら時間ないんだから直ぐ行くよ!!」

目の前でバタバタする二人をニヤニヤしながら眺める荒崎教諭

「社長がこんなんじゃ副社長も大変だな?公私共にパートナーになって更に甲斐甲斐しく世話を焼くようになったんじゃないか?」

「茶化してないでせかしてくださいよ!先生だって役員の一人なんですから他人事じゃないですよ!!」

身の回りの物をバックに詰め込んで涼が席を立ちあがる。

「それじゃ荒崎氏、きょうの話は有難いけどキャンセルで!!また明日研究室でな~」

「荒崎先生また明日~」

荒崎教諭に一礼すると二人はカフェの外へとバタバタと駆けてゆく。

「ほんとにお似合いだよお二人さん…」

そんな二人を眺めながら中年おじさんはボソリと独り言ちる。

●2027年1月8日 東京都日比谷公園周辺

「少し遅刻しちゃったけど話はしっかりまとまって良かったねぇ~」

今まで話をしていた企業のビルから出ると梨沙は背伸びしてこった体をほぐすように体をゆするとサイドにまとめた髪の毛がピコピコと揺れる。

「梨沙のおかげで丸く収まったよ。ありがとう」

色々と苦労を掛けている意識がある涼は梨沙に頭を下げる。

「涼は専門用語を使わないで説明するのが下手だからね~、私がかみ砕いて説明しないと相手に伝わらないから仕方ないよ」

「でも介護ロボットの細かな説明は扱う上で必要な事だろ?」

「耐荷重やアームの可動範囲なんかの話は必要だから良いとして、人工知能やニューラルネットワークの話ってロボットを扱うエンドユーザーに覚えこませる必要ある?」

「あ…いや、その部分に関しては脳波コントロール機能の説明に熱が入ってしまって…」

軽く睨んでくる梨沙から顔をそむける。

「それに、エンドユーザーは看護師や介護士さんなんだからもうちょっと誰にでもわかる言葉で説明しないと理解が追い付かなくて誤った使い方でロボットを使われることになるんだよ?それで事故とかに繋がったら私たちの会社にも責任が発生するんだよ」

「分かっちゃいるんだけどな~…かみ砕いて説明しようとしてるんだけど気づいたら一方的に喋ってるって感じだし、説明が乗ってくるとどうしても視野が狭くなって気づいたら一人で喋ってたって感じになっちゃうんだよな…」

ナゾだとばかりに頭をひねる。

「昔からそうだよね~、好きな事、気になる事には周りが見えなくなる所、あたしは慣れてるから良いけど、もう大人の仲間入りしてるんだから治せとは言わないけど少し落ち着いた方が良いよ?起業してもうすぐ1年になるけど涼が一番製品に思い入れがあるんだから、それをしっかりクライアントに伝える事が出来たらもっと考えに賛同してくれる人は出てくると思うよ。」

先を歩きながら諭すように話していた梨沙が振り向く。

「人の手助けをするロボットを作る…言葉だけだと凄く幼稚な感じに聞こえるけど、涼ちゃんのその想いでわたしは救われたし今もこうして普通に歩き回れてる…」

梨沙は自分の左足を摩りながら言う。

「最初に作ったのは配慮が足りない、思った通りに動かない不完全な義足だったけどな」

「それでも、あの頃のあたしに立ち直るきっかけをくれる物でも有ったんだよ。これをくれた後も一緒にあれこれ悩んで、考えて、手直しして…、今では外から見る分には普通の人と同じように歩けてる」

梨沙は涼の顔に視線を向ける

「あたしの人生何も無ければあの時点で腐って行ってたと思う。だから変わるきっかけをくれた涼ちゃんにはホントに感謝してる。」

一歩踏み込んで涼の大きな体を包むように抱き着き硬い胸板におでこを当てる

涼は抱き着いてきた梨沙の体を抱きしめる

「大好きだよ…涼ちゃん」

「俺も大好きだ。荒崎氏じゃないけど名実ともにパートナーになるんだこれからも俺の隣に居てくれるか?」

「もちろんだよ!涼ちゃんが嫌だって言ってもずっとそばにいるからね!」

「そんなこと言わないから安心しろって」

そのまま暫く抱き合っていた二人はどちらともなく体を離すと手をつないで夜のとばりが下りる繁華街へと足を向ける。



------------------------------------ここまで-----------------------------------------------

この小説に出てくる人名、組織名は全てフィクションです。

同名の人物、組織が有っても全て関係の無いものですのであしからず。


涼と梨沙の過去の話は物語が進んだ先で追憶編として載せるつもりです。

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