第32話 発見

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「深山麻里子、2年E組か。2Eには今年、授業出てなかったな」山田先生がみんなの頭越しに覗き込んだ。

「でも見覚えはある。う~~ん、ああそうか、あいつか。去年は確か教えてたな」


「どんな人ですか?」さわこが尋ねた。

「そうだな、特にお前らみたいに悪目立ちする方ではないな。ごく普通の大人しい生徒だ」

「それ、どういう意味ですか?」美穂が眉を寄せる。

「特に深い意味はない。そのまんまの意味だ」


「心外だわ」さわこがつぶやく。

「それ、私のセリフなんだけど」美穂が言う。



「でも、部活とかやってなきゃ、もう帰っちゃったでしょうね」

 橋野先輩が奥の壁にある時計を見上げて言った。時計の針はもうすぐ一時半を指そうとしていた。


「とりあえず、2年E組の教室へ行って聞いてみましょうよ」美穂が言った。

「そうだね、話を聞くなら早い方がいいだろうし、まだ校内にいるようなら…」黒子先輩が答える。



「失礼しまぁす」

 不意にガラッと部室のドアが開き、新田先生が顔だけこちらに突っ込んで言った。

「山田先生いますか?」

 新田先生は俺たちと同じく、今年からこの学校に赴任してきた、新規採用の英語科の先生だ。


「なんだ、ニッタちゃんか、何か用か?」

「先生こそ、こんなとこに居たんですか? 随分捜しましたよ」 

「なんだよ、そんな急ぎの用なら放送かければいいだろう」

「いやぁ、僕、校内放送って、なんか苦手なんすよ」言いながら顔を顰める。


「教師のくせにそんなこってどうすんだ、ニッタちゃんよぉ!」

「先生、生徒の前でそのニッタちゃんって言うの、やめてくださいよぉ」

「なんで? 英語科の先生はどこのガッコでもガイジンみたいに、みんなニックネームで呼び合うんだろ? ウィルとか、エヴァとか、ゲリヲンとか」

「なに言ってんすか、そんなことありませんよ。それにニッタって、ニックネームでも何でもなく、そのまんまじゃないですか」


「そうか、んじゃ、今度からニックな!」

「なんすか、それ。そんなことより、生徒指導部会だそうです」

「ああっ⁉ また何か悪さしたヤツがいんのか? ったく、しょうがねえなあ」

「違います、三日ほど前から行方不明になっている生徒がいて、家族が警察に捜索願を出すと言ってるとかで、学校としてもどうするかその対応を、臨職の前に生徒指導部で先に打ち合わせしたいと、戸田先生が」


「そんな三日くらいのことで騒ぐことないんじゃないのか?」

「それが、鞄は昨日警察から連絡があって、落とし物で見つかったのに、ずっと家に帰って来ないし、連絡も取れないので、何か事件に巻き込まれたんじゃないか、ってご両親が心配して」

「そうかぁ。で、それ誰だよ?」

「2Eの…」新田先生は、山田先生が俺たちと一緒に居るのを見て一瞬言い澱んだ。

「まさか、深山とか言わないよな?」

「なんで知ってるんですか?」


「なっ‼」

「えっ!」

 その場にいた俺たち全員が言葉を失った。

 俺たちの態度に、新田先生は訳が分からず怪訝な顔をしている。


「あっ、その生徒の顔写真のアルバム、会議で使うのに無いって、職員室で戸田先生が騒いでましたよ。なんでここにあるんですか?」

「なに⁉ ホントか。やっべえ、行くぞ、ニックー‼」


 言うが早いか、山田先生は三冊のアルバムを引っ掴むと、トデン研の部室を飛び出して行った。

「えっ! ちょっと山田先生!」慌てて新田先生が後を追った。



「どういうこと…」さわこがつぶやいた。

「さあ…」あまりの急展開に考えがまとまらず、なんだか俺も素っ気なく答えるしかなかった。


「せっかく誰だかわかったのに、本人が行方不明じゃ、話の聞きようがないわねぇ」

 美穂は近くの椅子にストンと脱力したように腰を下ろした。

「これでようやく手掛かりが得られると思ったんだけどなあ」黒子先輩も残念そうに言った。

 

 橋野先輩は黙って眼鏡を外して、ポケットからハンカチを取り出して静かにレンズを拭いている。


「だけど、深山さんという人、何かの事件に巻き込まれたのかも、って新田先生言ってましたよね」

 さわこが誰に言うでもなく言った。


「そうだね、でも、その人がこの間のもののけ達と、どういう関係があるのか、今回の行方不明がそれと関係があるのか、ないのか、現時点では何もわからないし。現状今の僕らにできることは何もないかな」

 黒子先輩が手短にまとめてくれた。


「そうですねぇ。今は行方不明だという深山さんが無事に帰ってくることを祈るだけですかねえ」

 橋野先輩もつぶやくように言った。




 この時、ようやく手掛かりが掴めたと思った矢先の出来事に、俺たちは完全に放心状態だった。けれど事態は、俺たちの予想をはるかに超えた、深刻な方向へと向かっていたのだ。


 連休最終日の五月七日、日曜未明。深山麻里子はこの学校から程近い、H公園の奥の方にあるトイレに隣接した雑木林の中で、遺体となって発見されたのだ。


 しかも、身体をバラバラに切断された状態で…。

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