第13話 調査開始
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「そうですか、わかりました」
「もういい? じゃ私帰るね、バイバイ橋野君」そう言って軽く手を振る。
連続切り裂き魔事件の被害者の一人である、二年生の飯田
「ありがとうございました。ご協力感謝します」
橋野先輩は開いていた手帳を閉じ、軽く頭を下げて見送った。
なんだかよくわからないうちに、俺とさわこがトデン研に入部することになったその翌日の放課後、俺たちトデン研のメンバーは、二手に分かれて切り裂き魔の被害にあった生徒たちに聞き込みをすることになった。
今現在、把握できているだけで、被害者は八人。事件は俺たち一年生が入学する前の三月上旬頃から起きているから、そのほとんどが二、三年生だが、四月以降にも一年生も含めた三人が被害にあっている。
「ねえ、なんでこうなるのよ?」
口を尖らせ、不愉快そうな表情で仲代美穂が俺に言う。
「なにが?」
「なにがって、どうしてあの子と
「仕方ないだろ、霊能者同士が組んだ方が何かと都合がいい、って黒子先輩が言うんだから」
「そこは、自分はあの子の助手だから一緒に行く、ってアンタが言わないからでしょ。このボケッ、根性なし!」
背の低い美穂が俺を見上げながら罵る。
「なんでだよ! そんなこと言うなら、仲代さんが向こうのチームに付いて行けばよかったじゃん」
「そ、そんなことできる訳ないでしょう!」慌てたように急に下を向いた。
「どうして?」
「だって…。だって私が一緒に付いて行って、それでもし
両手を顔の前で組んで合わせ、目を閉じて祈るように天を仰ぐ。
「ああ、もしも、もしもそんなことになったら、そんなの私…、とても耐えられない」
「チッ、めんどくせえ女」思わず口を衝いて出た。
「なんか言った?」美穂が恐い顔でこちらを見ている。
「いや、なんも…」すぐにプイと横を向いた。
――どうもこの子、苦手だな
「二人ともどうかしたんですか?」
橋野先輩が手帳を制服のポケットに入れながら振り返った。
「ああ、いや何でもないです」
「そうですか?」少々怪訝な顔をしている。
「二人とも数少ないトデン研のメンバーなんですから、喧嘩しないで仲良くしてくださいね」
「はあ、まあ…」仕方なく答えた。
美穂は橋野先輩の言葉などお構いなく、そっぽを向いている。
「ああ、そうそう、知っていますか? 一斉部会の後、もしどこの部活にも所属していない一年生がいた場合どうなるか?」
「そんなの、もちろん知ってるわよ!」すかさず今まで橋野先輩のことをシカトしていた美穂が答えた。
「え、なんかあるんですか?」
一年生の間は絶対に参加しなければならないという決まりのあるこの学校で、そもそも部活動に不参加だった場合、何かペナルティーでもあるのだろうか?
「その場合は…。強制的に『ボランティア部』に入部させられるんです」
「ボランティア部?」
拍子抜けしたような俺の顔を見て「顧問の先生は誰だと思います?」と橋野先輩が訊いた。
「さ、さあ・・・」
「山田先生です! 確か野原君と中臣さんの二人は山田先生のクラスでしたよね?」
橋野先輩が少し下の方にずれた眼鏡を、人差し指で直しながら言った。
「いいですか、この『ボランティア部』というのは、その名の通り学校のために無償で奉仕するクラブ、…なんですが。部員は事あるごとに強制的に呼び出され、休日とかも関係なく、学校のためと称して、誰もやりたがらないような雑用を無理矢理やらされて、さんざんこき使われるらしいです」
「そ、そんな恐ろしい部活がこの世にあるんですか?」
「あるんです! まっ、顧問があの山田先生ですからね、人使いの荒さはハンパないそうです」
「アンタ知らなかったの? 去年はその噂が生徒たちに知れ渡って、強制的にボランティア部に入れられた、って人はゼロだったそうよ」美穂が俺を小馬鹿にしたような笑いを浮かべて言った。
「昨日の話では野原君は『一年生は全員部活に参加する』というこの学校のルール、知らなかったみたいだから、う~~ん、もしかしてと思っていたんだけど…」
橋野先輩が顎に手をあて、目線を少し上にして考える仕草をする。
「山田先生、一年生は全員部活に参加することってルール、わざと自分のクラスの生徒には言わなかったのかもしれませんね!」
「ああそっか! 去年、ボランティア部の部員がゼロだったから…」
「なるほど。確かにあの人なら、それくらいのことはやるかもしれませんねぇ」
ニンマリと微笑む山田先生の顔が目に浮かんできた。
「まあ、とにかくそういう訳ですから、二人ともこの事件解決のため、しっかり頑張ってくださいね」
「なんでよ?」美穂が不思議そうに言った。
「だから、もしトデン研が廃部なんてことになったら、一斉部会の日程からして、二人とも、あ、いや三人か、ボランティア部に強制入部間違いなしですよ」
「なっ!」美穂が絶句する。
「まあ、僕は二年だから、もし帰宅部になってしまっても平気ですけどね。ハハッ」
「そ、そうか…」
「そんな・・・。そんなの絶対イヤ! ケタロウ、こうなったら絶対にこの事件、解決するわよ!!」
「なんかそれも、方向性おかしくない?」
「さて、僕たちが担当の四人の被害者への聞き込み調査は終わったし、とりあえず、一旦部室に戻りますか」橋野先輩が部室棟の方を見ながら言った。
「え~、そんなぁ、最後に話を聞いた飯田先輩が被害にあった事件現場、体育館の方へ行く煉瓦の通路だって言うし、行ってみましょうよ。ここからなら近いし」
俺たちは今しも帰ろうとしていた飯田茉莉を運よくたまたま廊下で見つけ、時間がないという彼女に合わせ、歩きながら聞き込みをして、今は生徒玄関の前にいる。
「なんだよ、なに急にやる気出してんだよ」
「ええい、うるさいわね。ただボランティア部なんて、まっぴらごめんだ、ってだけよ」
「確かに。そうですね、話を聞いた人のうち、二人が同じ場所、あの中庭の通路で被害にあっているわけだし、行ってみてもいいかもしれませんね。黒子君達が話を聞いている人の中にも、事件現場が同じ、って人がいるかもしれませんし」
「じゃあ、そーゆーことで」そう言うと、一人で勝手にスタスタと歩き出した。
「あっ、美穂さん、ちょっと待ってくださいよ」慌てて橋野先輩が追い掛ける。
「しょうがねえなぁ」
つぶやいて、二人の後に付いて行こうとした時、なぜだか俺は、背後にふと冷たい視線のようなものを感じ、思わず振り返った。
――なんだ?
すると、チラリと何かが視界の隅で動いたような気がして、すぐにその辺りを見回した。
見ると、生徒玄関入り口のガラス戸越し、誰もいないと思った廊下の奥で、一人の女子生徒がジッとこちらを見詰めていた。が、振り返った俺の視線に気が付くと、彼女はすぐにそのままスッと廊下の奥に消えてしまった。
急いで重たい玄関のガラス扉を押して開き、下駄箱の群れを抜け、突き当たりの廊下まで走って、彼女が逃げて行った方を見た。
しかしそこには、下校するために今しがたやって来たらしい生徒が三、四人いるだけで、彼女の姿はどこにもなかった。
――誰だろう? なぜこちらを見ていた? 何をしていた?
いくつもの疑問が頭をよぎったが、結局それ以上どうすることも出来ず、戻って二人の後を追い、体育館へ向かう煉瓦敷きの通路へと向かった。
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