悪の地下

 地下で街があった。日も当たらないが罰もあたらない。あらゆる無法がひしめいている。罪が流れついて、交わってだれがだれだかわからなくなる。


 規則や道徳のまかり通った上の世界で、善良で陰のない人たちは、この街をさげすんでいた。それこそ汚いものには、汚ならしい台詞が似合い、汚い愚行こそ嬉しいだろうと罵詈雑言から唾すら吐きかけた。


 あるとき地上で大きく戦争があった。規則や道徳は吹き飛び、善良ななにもかもが抉られた。すると善良と悪徳がひっくり返った。地上と地下が逆さまになった。日を浴びるのは罰と暴力の特権になった。そして地下では、なくなった規律を信奉する弱った善性の人々が貧しく、せせこましく生きていく。


 善人たちは願う。また戦争さえあればひっくり返る。私たちは地上のひかりで暮らせる。


 聞いた悪党たちは、せせら笑う。いまでも抗争や争いは絶えていない。戦争なぞどこへいったってある。それはきっかけでしかない。人の本質は無法で悪辣である。これを時間が腐らせると善意へ変わる。ざんねんながらお前たちはあと千年はまたなければならない。


 この唾棄をともなった予言はあたった。千年あとに善人の指導者が現れ、善良が巻き返し、規則は元通りのところに建て直され日の目をみた。


 ひとつ意外なのは、この英雄は悪党のうまれで、悪党にしては弱いため迫害され、地下に潜った。それで金や汚い工作をし、善人を騙しながら悪党蹂躙の革命をしたところである。だから指導者として地上を支配し、永く高い地位で居座ったがあまり評判はよくなく、あとから大量の欲深い罪があばかれた。しかしそのころには、その人も世を去って、歴史家でもなければそんな悪を忘れていた。


 地上はみな規律のなかに平和で、また相変わらず悪は地下で潜んでつぎを待つばかりだった。

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