おうごんの悟り

 値のつく仏像がおどうにおさまっていた。くすんだおうごんで、手入れがなかった。


 だからだれも、値のあるおうごんだと気づかない。めききという目ききが、きっとおがんだが、そんなことはさとれなかった。


 ただしべつのさとりがあって、いわゆるあの極楽浄土へいたる道をさとれたのだ。それだからだれもこの仏像が、おうごんでたかい値があることを知れない。知るまえに、そんなくだらないことよりだいじなことが、こころねにやどる。


「そんな仏像のあるなら、この世まるごととっくのむかしに浄土のようになっているだろう」


 こんな文句がある。けれどさとった人々はしずかに、またおごそかに説く。


「浄土なんてあるはずがない、しいていえば、こここそ浄土かもしれない。あの仏像へであうまえから私はさとっていた。ただそこに正直になれなかった。いまは正直だ」


 聞いた文句をいった人が、そんなことになれるならと、おがみにいく。いけば仏像がうすい目をあけ座っていた。ちょっとおがんでみる。さとった。そして仏像のものか、声がした。


「君のやることなすこと、くだけちる。おしまいはあっけない。私はたかく売れる。しかしそれは君についた値でなく、私の値である。君は君を売ったとき、君の値がきまる。ただそれにはもうすこし永く待たねばいけない。君がくだけちったとき、きっとその値はつく。かくいう私もまっている、私を売れるなにものかを、かのさとりすら知らぬものを」


 こうしてまたひとり信心深いのがふえた。この仏像がおうごんであることを知るものは、あらわれない。それは仏像がよく知るところ。


 みなどこかで、おうごんより値のつくものを信じている。またおうごんそのものについて、うたがっている。この作用からみなさとってしまうのではないか、値のつかぬ仏像はうごかずそうかんがえて、くすんでいった。

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