いのちの在りか
奇妙に草臥れてほっとかれた衣類があって、どこが袖やら、裾やらわからないまで、とにかくいつの間にかまとまって団子になっていた。
ある賃貸の一室のなかで、この団子が臭くなっていくのだった。だれが着たわけでもないのに。それも妙な臭いで、人のものではなくカメムシの刺激臭へ似ていた。
一度だれかが広げてみようとした。するとほどけなかった。蝶結びの変に引っ張って玉になってしまう事象とおなじもどかしさがあった。けっきょく耐えられなくなって、ほっておかれた。
街ではよく噂になった。ある科学者が面白がって来た。いろいろ研究をしたところ、ほどけなかったがなかを透過して覗けた。なかみにはうごめく影があって、どうやら腹のなかで丸まった胎児の形をしている。では産まれるのかと、聞きつけた人たちの笑い種になる。
こんな布のなかで、生命ができあがるわけはない。また生命があるなら、助け出さねばいけない。衣類の塊の腹は、裁ち鋏から割られた。
なにもでてこなかった。ほつれた糸と布きれが散らばっただけだった。カメムシの臭いも、どこかに散った。さいしょ面白がった科学者は思う。あれはあぁいう絶滅種で、あの繭にくるまる限りは生きていたのではないか。だとしたら私たちは、生命を果たして助けようとしたのか。
そうして採っておいた影のうごめきを確めていけばなにか喋っている。すぐ読唇に長けた人を呼んだ。訳させた。どうやら人のことばであった。馬が走り方を腹のなかで学ぶようなもんだろうか、ともかく訳してもらえば、
どんな生命も永遠である、あかされず動きもしなければ。
と繰りかえし懸命に唱えていた。
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