18 宝探しゲームとクラス対抗リレー

午後の最初の競技は、わたしが発案した宝探しゲームだ。

 みんなに楽しんでもらえるかな。

 心臓がドキドキと高鳴っている。

 ピストルを持った先生が画面に映った。

 わたしの持ち場はプールだから、画面越しに見ているんだ。

「位置についてよーい、ドン!」

 ピストルの音と共に、開始する。

 プールでは、四角にいる選手が一斉に走り出した。

 膝当てをしているから安全とはわかっているものの、ドン! と大きな衝突音が聞こえてくると、わたしの心臓がきゅっとなる。

 まるで自分のことのように、膝や肘が痛くなっていく。

 みんなの様子を見守りながらも、画面から聞こえてくる音声の方に耳を澄ます。

 そろそろ、美咲ちゃんの番だ。

 美咲ちゃんは、ボルタリングの宝探しに参加している。

 怪我をしないといいけど……。

 その時だった。

「赤組が、ボルタリングから落下したー!」

 まさか。そう思いながら、画面の方を見やる。

 画面には、うずくまっている美咲ちゃんの姿が映し出されていた。

 おそらく、クライミングウォールから落ちたんだろう。

 ウソ……。わたしの想像が現実になってしまった。

 美咲ちゃんの元へ行きたい。

 でも、今は生徒会のお仕事をしなくちゃ。

 はやる気持ちを抑えながら、宝探しゲームが終わるのを待つのだった。


「美咲ちゃん!」

 種目が終わると、すぐさま救護室に向かう。

 保健室の先生によると、足の軽い捻挫らしい。数時間安静にしていればよくなるとのこと。

「どうしよう、ひよ。私、クラス対抗リレーに出れないかも……」

 美咲ちゃんが、弱々しい声を上げた。

 クラス対抗リレーは、体育祭の目玉。

だから、一番最後にやることになっている。

そこまでに、美咲ちゃんの捻挫がよくなっている保証はない。

それに、美咲ちゃんはアンカーだ。

怪我をしている子に、重荷を背負わせるわけにはいないよ。

「美咲ちゃん、まずは自分のことを考えないと! もしまた捻挫でもしたら……」

 最悪な考えが、頭の中をよぎった。

「そうよね……。でも、急に頼める人なんているのかしら……」

「わたしが走るよ!」

 気がついたら、叫んでいた。

「え、ひよが……?」

 美咲ちゃんが目を見開いて驚いている。

 そりゃあ、そうだよね。

 二年前のことを引きずっていて、リレーの選手に選ばれないようにわざと遅く走っていたから(ごめんなさい)。

 一人でランニングするときは速いペースで走っているから、鈍ってはいないはず。

「……わかったわ。ひよ、頼むわね」

「うん、わたしに任せてよ!」

 美咲ちゃんを安心させるように、思いっきり胸を叩く。

 いつものように、咳き込んでしまうのだった。


 それから軽くストレッチをしていると、アオくんが心配気な表情を浮かべて近づいてきた。

「クラス対抗リレーに出るんだってな。その、大丈夫か」

 二年前のことを指しているんだろう。

 わたしが傷つかないように、オブラートに包んだ表現で伝えてくる。

「怖いよ。とてつもなく怖い。でも、大好きな親友のためだもん。わたし、頑張ってくる」

「そっか。応援している」

 その時、クラス対抗のリレー選手の招集がかかった。

 アオくんに「行ってくるね」と告げると、集合場所へと走るのだった。


 あっという間に時間は流れて、わたしたちアンカーの番になった。

 息を吸って、吐いて。気持ちを落ち着かせる。

 今現在のわたしたちのクラスの順位は三位。頑張れば巻き返せる。

「小原さんっ!」

 わたしの前に走っていた子がバトンを渡そうと、手を伸ばしている。

 走りながら手を伸ばして……。気持ちのいい音を立てて、バトンを受け取る!

 その勢いのまま走った。バトンを落とさないように気をつけながら。

 二位の選手は抜かしたけど、中々一位の選手を抜かすことができない。


 ゴールまでの距離は近づいている。

 そろそろ抜かないと、二位になっちゃう!

 諦めかけた、そのとき。

「陽依、頑張れ──!」

 観客席の方から、アオくんの声が聞こえてきた。

 そうだ。わたし、アオくんとオクラホマ・ミクサーを踊るんだ。

 悔しい思いを抱えたまま、彼のとなりに立ちたくない!

 その応援の声が、エネルギーになって、どんどんとスピードが上がっていく。

 気がつけば、一位の選手を抜かしていた。

 その勢いのまま、ゴールテープを切るのだった。

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