15 体育祭の朝

そして迎えた運動会当日。

「陽依、応援しているからね!」

「お父さん、今回の運動会のために、新しくカメラを買ったんだ! しっかりと撮るからな!」

「やめてよ、ふたりとも!」

 二年前の運動会では両親ともに仕事で来れなかったけど、今回体育祭では来れることになっているんだ。

 嬉しいなら、恥ずかしいやら。

 色んな感情が込み上げてくる。

「見てみて、陽依! このお弁当! お母さん、早起きをして頑張ったのよ〜!」

 声を弾ませながら、お母さんがいった。

 その手には、三段の重箱が収まっている。

 中から、唐揚げとか卵焼きの匂いとかして……。

 今さっきご飯を食べたばっかりなのに、ぐ〜〜っと盛大にお腹が鳴った。

「食べるのが大好きなわたしでも、こんなに食べきれないよ〜!」

「それもそうね〜。三人分にしては多く作りすぎたかしら。あ! そうだわ。碧くんを誘ってみたらどう?」

 アオくんの名前を聞いた瞬間、ドキンと心臓が高鳴った。

「え、アオくん!?」

 声が裏返っちゃった!

「昨日、茜(あかね)から聞いたんだけど、両親ともに運動会に来るのが遅れるんだって。お昼には間に合わないかも、って聞いてるの。一緒にお昼ごはんを食べるのはどう?」

 お母さんがそう提案した。

 茜さんっていうのは、アオくんのお母さんの名前だ。

「う、うん、そうだね。一緒にご飯食べよう! わたしの方から誘うね」

「『わかったわ。……あ、陽依、もう七時半よ! 朝早く出るんでしょ?』

「そうだった! 忘れてた!」

 朝早く生徒会で準備があるんだった!

 来客の案内とか、色々とすることがあるんだよ。

 慌てて食パンを口に放り込むと、カバンを持つ。

「いってきまーす!」

 両親にそう告げて、学校に向かうのだった。

 

 学校に着くと、みんながすでに到着していた。

 それから、先生たちと準備を進めていく。

 長机にパーフレットを並べたり、全体の流れを確認したりする。

 生徒会が保護者の案内役を務めるから、案内の練習をしたりした。

 うう、知らない人の前で話すの苦手なんだよなぁ。

 深く息を吸って、吐いて……。気持ちを落ち着かせる。

 そこから、小一時間案内を練習したら、クラスの集合時間になった。

 その前に、円陣を組む。

「これから、体育祭頑張るぞ!」

 アオくんが声を張り上げると、みんなで「「「「オー!」」」」と声を上げる。

「次会うのは、宝探しゲームの前準備だな。忘れないように!」

「「「「はーい」」」」

 返事を返して、各自観覧席に向かう。

 その時、今朝のことを思い出して、アオくんに声をかける。

「ねぇ、アオくん。お母さんたちがね、一緒にご飯を食べないかって。どうかな? 誰かから誘われた?」

「いや、誘われていない。迷惑じゃなければ、ご一緒してもいいか」

「お母さんたちに伝えとくね! あ、そろそろ行かなくちゃ。またあとでね!」

 アオくんと別れて、わたしも観覧席に向かうのだった。


 



  

 





 



 

 

 

 


 

 

 

 

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