14 体育祭前日

 ピピピピ!

「あともう少し……あともう少しだけ寝させて……」

 手を伸ばして、スマホのアラームをとめる。

 アラームの時間を伸ばそうとして、近くに人影があることに気づく。

 振り返ると、ベッドの近くにアオくんが立っていた。

 心臓がきゅっと縮み上がった。

 ヘタなホラー映画よりも怖いよ!

「なっ、なっ、なっ」

 驚きすぎて、「な」しか言えないわたしを見下ろしながら、アオくんがいった。

「おはよう、陽依。昨日はよく眠れたか」

「な、なんでアオくんがここにいるの!?」

「今日、朝早くに生徒会があるからな。起こしに来たんだ」

「もう! 勝手に乙女の部屋に入ってこないでよ!」

 ブーブー文句を告げるけど、無視されてしまう。

 アオくんは自分の左頬をトントンと指差した。

「よだれ。付いているぞ」

 指摘されて、慌て拭う。

 恥ずかしい!

 着替えるからっていって、アオくんを部屋から追い出す。

 そこから急いで準備をして、リビングで朝ごはんを食べる。

 朝ごはんが食べ終わると、アオくんと一緒に学校に向かうのだった。


 *


 学校のグラウンドに着くと、先にかれんさんと蓮見先輩が待っていた。

「おはようございます!」

「おはよう、陽依ちゃん! 昨日はよく眠れた?」

「ぐっすりと眠れました」

「ふふっ、それはよかったわ」

「かれんさんと司先輩は一緒に来たんですか?」

 にんまりと笑みを浮かべて聞く。

 わたしの憶測だけど、ふたりは両思いだと思うんだ。

 蓮見先輩が押せば、付き合えると思うんだけどなぁ

……。

「家を出たら、たまたま、本当にたまたまね、司と鉢合わせたから一緒に来ただけだよ!」

「へぇ、そうなんですねぇ。蓮見先輩は、後夜祭のダンスに誰を誘うんですか?」

「えー……それは……」

 蓮見先輩が、チラリとかれんさんの方を見た。

「どうせ、色んな女の子を誘っているんでしょ。行こう、陽依ちゃん」

「え、かれんさん!?」

 かれんさんが、わたしの肩を押した。

 早くこの場から離れたいようだ。

 もしも、蓮見先輩から別の女の子を誘うって言われたらイヤだもんね。

「待って、かれん」

 蓮見先輩が呼び止めた。

 いつもより真剣な表情を浮かべている。

「オレがさそいたいのは、かれんだけだ」

「え、それって……」

「オレは、」

「待って。その続きは後夜祭で伝えてくれると嬉しいな」

「わかった。絶対に後夜祭のダンス、一緒に踊ろうな!」

「……うん」

 なんだか甘ったるい雰囲気だ。

 アオくんと目配せをし合って、その場から離れるのだった。


 それから、アオくんと一緒に宝探しゲームの最終確認をする。

 場所の確認だとか、ルールの確認とかをする。

「場所は校舎内の廊下、プール、体育館でボルタリングなどで予選を行う。各所で三人まで絞る。そして、グラウンドで決勝戦を行うんだ。それぞれの場所にお題は隠したか?」

「うん! 廊下には展示物の裏とか消化器で死角になるところにお宝を置いたよ。網を潜ったあとに探すから、難易度は高いはずだよ。プールには水色のお宝を用意したから、プールの底の色で紛れて見えにくいはず! プールは滑りやすくなっているから探しにくいと思う。ボルタリングには、先の方にお宝をぶら下げているよ。どうかな?」

「完璧だ。ありがとうな、陽依」

「うん!」

 アオくんにほめられると嬉しい。

 わたしに羽があったら、このまま飛んでいってしまうかもしれないな。

 なんて思いながら、確認を続ける。

 校舎内のチェックを終えて、またグラウンドにむかう。

 グラウンドには様々な障害物が置かれている。

 例えば、砂場の上に網が被せられていて、宝物を探しにくくさせていていたり。

 パン喰い競争とかけあわせて、パンの中にお題がかかれた紙が入っていたりするんだ。

 確認をし終えると、かれんさんたちの元に向かう。

 そろそろ、イチャイチャが終わった頃かな。

 ふたりが付き合うかもしれないなって考えると、わたしの方まで嬉しくなっちゃう。

 幸せのおすそ分けをもらった気分だ。

 チラリとアオくんの方を見やる。

 アオくんも、いつか誰かと付き合ったりするのかな。

 まただ。アオくんのことを考えると、ズキリと胸が痛み出す。

 ────イヤだな。そう思ってしまった。

 どうしてイヤなのかと考えているうちに、ある結論に辿り着く。

 もしかしてわたしは、アオくんのことが好きなのではないかと。

 そう分かっても、アオくんはモテモテだから、狙っている子はたくさんいるだろう。

 アオくん、後夜祭のダンスの誘いを断っているらしいし。

 誰か好きな人がいるのかな。

 好きな人がいたら、きっとその人を誘うよね。

 もしかして、好きな人は天川学園に通っている以外の人?

 それとも……。

 ああ、ダメだ。

 考えれば考えるほど、ネガティブの沼にハマっていく。

 ウジウジしているうちに、アオくんに彼女が出来てしまうんだったら。

「あのっ、アオくん!」

「なんだ」

 呼び止めると、アオくんが振り返った。

 好きだと自覚したら、いつにも増してカッコよく見えるよ。

「あのね、わたしとダンスを踊ってください!」

 声が裏返っちゃった。

 心臓がバクバクと高鳴っている。

 恥ずかしくて、アオくんの顔を見ることができないよ。

「……マジか」

 落とされた、低い声。

 おそるおそるアオくんの方を見ると、背を向けていた。

「分かった。予定を開けておく」

 事務的な口調でそう告げると、

「俺、予定があるから先に生徒会室に向かっているな」

 足早に生徒会室に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

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