12 大詰め

 あれから、数日が経った。

 今日は、宝探しゲームの具体案を詰める日。

 帰りの会が終わってすぐ、生徒会室に向かう。

 廊下を走っていると、「おい、そこ走るな!」と声がかかった。

「はい、ごめんなさい! って、アレ?」

 わたしのことを呼び止めた声。聞き覚えがある。

 振り返ると、ニンマリと笑みを浮かべているアオくんの姿があった。

「この前のお返しだ」

「もー、ビックリしたよ」

「あれから、二年前のことを思い出すことはあるか?」

 エンリョがちに、アオくんが聞いてくる。

「ううん、今のところはないかな。心配してくれてありがとう」

「まぁ、陽依のことが心配だからな」

「えへへ、照れるなぁ」

「なに照れているんだ」

 コツンと頭を小突かれた。

 その衝撃で、あることを思い出す。

「そういえば、後夜祭のダンスの相手決まっているの?」

「え、それってどういう意味だ」

「かれんさんから、誰からの誘いも断っているって聞いたから。決まっているのかな〜って思って! ね、誰を誘うの?」

「それは……」

「久しぶりー、ふたりとも! 元気だった?」

 アオくんの声にかぶせるように、蓮見先輩が割り込んできた。

 蓮見先輩は、のほほ〜んとした笑みを浮かべているけど……。

 アオくんは蓮見先輩に、鋭い視線を送っている。

「なんでお前はこう、いつもいつもタイミングが悪いんだ!」

「あーっ、ギブギブ!」

 ラリアットをくらわされた蓮見先輩の悲痛な叫びが響き渡っているのだった。



 三人で生徒会室に向かうと、中でかれんさんが待っていた。

 今日も今日とて、お菓子のいい香りが、生徒会室内に充満している。

「あら、ちょうどいいところに来たわね。お茶の準備も出来ているわ」

 確かに。お茶もいい香りもするよ。

「席についたら、具体案を詰めていくぞ。先生と話し合った結果、範囲としてはグラウンドと二階までの校舎内、そして体育館だ。その範囲内でできることを出していこう。その範囲内でカメラマンが待機していて、グラウンドの巨大スクリーンに中継が映し出されることになっている」

 アオくんがいったことに合わせて、ホワイトボードに書いていく。

「なにかいい案はあるか」

「はい! グラウンドにジャングルジムがあるでしょう? そこの上に宝物を置くっていうのはどうかな?」

 かれんさんが案を出した。

「いい案だな。次は俺がいいか? 体育館の壁にボルタリングを設置してタイムを競わせるっていうのはどうだ?」

 どんどん案が出てくる!

 わたしじゃ、全く案が出てこないから、感心することしかできない。

「廊下を走らせるっていうのはどうかな? 普段、『廊下を走ってはダメ』って校則があるじゃん? それを破るって背徳感もあるし、超盛り上がると思うなぁ〜!」

 蓮見先輩にしては珍しく、真面目な案だ。

 聞いているだけで、ワクワクしちゃう!

「そして、お宝に書かれているお題はオレ! たくさんの女の子たちがオレに向かって走ってくる! 最高の種目じゃない?」

 あー……蓮見先輩のこと、見直していたのに。

 やっぱり、蓮見先輩だ。最後に持ち上げた好感度を台無しにしてくる。

「つーかーさー、真面目にやりなよ!」

「ちぇー、いい案だと思ったのになぁー」

「本当、アンタは女の子大好きだよね!」

「だって、男はみんな女の子大好きじゃん? だよな、碧」

「オレに振らないでくれ……」

「男子って最低! だよね、陽依ちゃん!」

「えぇー……」

「アンタのことが本気で好きな人もいるっていうのに」

 かれんさんがボソッと呟いた。

 その様子を微笑ましく見守る。

 見ているこっちが照れてしまうほど、甘酸っぱい。

「はいはい、話が逸れてきているぞ。陽依、今まで出てきた案をノートにまとめてくれ。司が出した案は、司に向かって走るって部分はカットな」

 アオくんの指示通りに、生徒会ノートにまとめていく。

「他になにか案はあるか」

 そういって、アオくんが生徒会室内を見渡した。

 みんな、案を出しているよね。

 まだ案を出していないのは、わたしだけだ。

 ノートに鉛筆を走らせながら考える。

「あ、プールに宝物を入れるっていうのはどうかな?

まだ五月だし、水は入れられないけど、楽しめるんじゃないかな?」

 ふと、昨年のプールの授業で宝探しをしたことを思い出したんだ。

「いいアイデアだな」

 みんなでどんどん案を出していく。

 白熱して、時間があっという間に過ぎていった。

 はじめは「いいアイデアなんて出ないよ〜!」って思っていたけど。

 他の人の案からインスパイアを受けて、新たらしい案が出ていくのは、とても楽しい。

 最終的には、一番最初に出てきた、廊下を走る案やジャングルジムの案、ボルタリングの案、そしてわたしが出したプールでプールで宝探しの案が採用されることになった。

 ノートにまとめていたら、下校時間がきたことを告げるアナウンスがスピーカーから流れる。

 帰り準備をしがてら、みんなと話す。

 話題は、組み分けのカラーのことだ。

「陽依ちゃんは何組?」

「わたしは、赤組です!」

「え、わたしも赤組! やった、同じチームだね!」

 女子組で喜びを分かち合う。

「アオくんは何組?」

「オレも赤組だな」

「やった、アオくんとも同じチームだ!」

「そうだな」

「いいなー、みんな同じチームで。オレは白組だよ」

 うしろから、低い声が聞こえてくる。

「ま、ひとりで頑張れよ」

 アオくんが、にやりとした笑みを浮かべて、蓮見先輩の肩を叩いた。

 各学年二クラスずつ赤組と白組にわけているから、三人いる先輩たちは絶対に分かれてしまうんだ。

 そんな会話をしていたら、みんなの準備が終わって、職員室に向かう。

 佐々木先生に、ノートの提出とプレゼンテーションをするんだ。


 その後、職員室で先生たちのまえでプレゼンテーションをした。

 先生から「この案でいこう」とOKがもらえて、翌日から体育祭の準備を始めることになるのだった。



 

 

 

 

 

 


 



 

 


 

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