11 保健室で、ふたりっきり

「そんなことがあったんだね……!」

「え、ちょっ、かれんさん!?」

 わたしの過去を話し終えて、かれんさんの方を見てみると、まぶたに涙を浮かべていた。

 あわててポケットからハンカチを取り出すと、涙を拭う。

「ありがとう、陽依ちゃん」

「いえ。わたしの話を聞いてくださり、ありがとうございます。すっきりしました!」

「陽依ちゃんのお役に立てたなら嬉しいわ」

 わたしの背中をさすりながら、かれんさんが言う。

「なにをしてんだ、こんなところで」

 いきなりうしろから声が聞こえてきて、跳ね上がる。

 ロボットみたいに固い動きで声がした方を振り返ると、保健室の入り口にアオくんが立っていた。

「な、なんでアオくんがここにいるの? 今授業中だよ?」

「なに言ってんだ、今は中休みだ」

「中休み……? いや、まだ1時間目だよ」

 保健室にある時計を見て、びっくりする。 

 わたしたちが保健室にやってきたのは九時前のことだったから……。

 え、もう一時間ちょっと経っているの!?

 ということはアオくんの言う通り、今は中休みの時間なんだ(中休みっていうのは、二時間目と三時間目の間にある二十分休みのことだよ。各地で色んな呼び名があるよね!)。

 かれんさんと話しこんでいたら、あっという間だったよ。

「あ、三時間目は音楽だった! 移動教室だから、わたし、帰るね〜!」

 そういって、足早に去ってしまった。

 ……止める間もなかった。

「となりいいか」

「うん」

 アオくんがとなりのベッドに腰掛けた。わたしの目の前になる位置だ。

 身を乗り出せば、鼻と鼻がくっついてしまいそうな距離。

 ド、ドキドキする……っ!

「なぁ、陽依」

 アオくんのことを意識しないようにしていたら、顔を覗き込まれた。

「話を聞いていたのか」

「う、うんうん、聞いてた! なにかなっ? アオくん!」

「その、体調が悪くて保健室に来たって聞いたが、体調はよくなったか」

「かれんさんに話を聞いてもらったらスッキリしたよ」

「話? スッキリ? ……二年前のことを思い出したのか」

「うん、実はそうなの」

「……そうか」

 しばらく、無言の時間が流れる。

 二人とも、なにをいったらいいのかわからなくて、一言目の言葉を考えている。

「わたしね、あの時アオくんが部屋に来てくれて嬉しかったよ。それともしかして、生徒会長になったのって、わたしが頼りになる人の例で生徒会長を出したから?」

 気になっていたことを聞いてみる。

 あまりにも適当にいったせいか、今の今まで忘れていたんだ。

「……っ! 思い出したのか!」

 アオくんの顔が真っ赤に染まる。

 その顔を隠すように、そっぽをむいた。

 片手で顔を覆っている。

「まさか、覚えているなんて思ってもみなかった」

「今思い出したんだけどね。で? どうなの?」

「……まぁ、そうかもしれないな」

 そういって、頬を掻いた。

 おそらく、わたしがいったら生徒会長になったんだと思う。

 にまーっとした笑みをアオくんに向けると、

「なんだよ」

 とニラまれてしまった。

「わたしのために生徒会長になってくれたアオくんのためにも、臨時の生徒会書記を頑張るね!」

「だーかーらー、陽依のためじゃない!」

「またまたー、照れちゃってぇー」

 ギャアギャアと騒いでいると、帰ってきた保健室の先生に怒られてしまうのだった。



 その後、アオくんに連れ添われて、教室にもどる。

 ガラリとドアを開けると、真っ先に美咲ちゃんが駆け寄ってきた。

「ひよ、体調は大丈夫!?」

 猫目が、心配そうに細められた。

 アオくんの方を見やると、

「氷高先輩、ありがとうございます。ひよをここまで連れてきてくれて」

 なぜかお礼を告げた。

「いつも陽依の面倒をみてくれてありがとう、葛西さん。これからもよろしくね」

 アオくんは即座に猫を被って、美咲ちゃんにいう。

 なんだか、ふたりともわたしの保護者みたいだ。

「はい、任せてください。ひよ、自分の席まで歩ける?」

「ひとりで歩けるよ」

 嬉しいやら、恥ずかしいやら。

 美咲ちゃんと一緒に席に向かう。

 ふと、気になったことを聞いてみる。

「ねぇ、私の種目はどうなった?」

「ひよの種目は、玉転がしになったわよ」

「玉転がしかぁ……。頑張る!」

「美咲ちゃんはどの種目に出るの?」

「私は、生徒会主催の種目とクラス対抗リレーのアンカー」

「え、ふたつも? すごいね!」

「また一緒に練習する?」

「うん、したい!」

 あの事件以来走ることが怖くなって、運動能力が落ちていたんだけど。

 昨年、美咲ちゃんから「練習しないか」って誘われて。

 一緒に楽しく練習したら、運動することの楽しさを思い出すことができたんだ。

「ふふ、ありがとう、美咲ちゃん」

 お礼をいいたくなって告げる。

 すると、美咲ちゃんは頬を染めて、

「なによ、急に。お礼を言ったって、算数の宿題は見せないわよ?」

 といった。

 そっぽを向いているから、照れているんだと思う。

 ツンデレな美咲ちゃんを微笑ましく、しばらく眺めているのだった。

 

 

 


 

 

 


 

 


 

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