9 保健室で、ナイショの話
「失礼いたします。6年3組の花園かれんです。体調が悪い子がいたので連れてきました」
保健室の前に着くと、先にかれんさんが入った。中をグルリと見渡している。
「どうやら保健室の先生いないみたいだよ。熱さまシートの場所分かるから、陽依ちゃんはベッドに横になっててね」
「はい」
入り口付近のベッドに横たわる。
すっごく、ふっかふっかだ。枕もちょうど良い高さだ。
いつもなら、の○太くんもビックリのスピードで寝れるのに。
授業中に保健室にいるという背徳感のせいか、寝そうにない。
「はい、体温計。測っといてね」
脇に、体温計を入れる。しばらくすると、ピピピッと計測終了を知らせる音がなった。
37.2度。微熱だ。
「ちょっと待ってて。今熱さまシートを持ってくるから」
かれんさんは、棚から熱さまシートを取り出した。貼った瞬間、ひんやりとする。熱がすーっと無くなっていくような気がする。
「かれんさん、手際がいいですね」
「わたし、生徒会に入る前は保健委員に所属してたの。その時に覚えたのよ」
「そうだったんですね」
知らなかったな。
そういえば、わたしがかれんさんについて知っていることって、誰かから聞いた話ばっかりかも。
「……あの、眠れそうにないので、かれんさんのことについて教えてくれませんか」
「わたしのこと? うーん、そうだなぁ……。まずは誕生日は9月10日で、卯年生まれ。好きな食べ物はブルーベリー。あとは……、好きな科目は社会かな。
ね、陽依ちゃんのことも教えてよ」
「誕生日は、7月14日で、辰年生まれです。好きな食べ物は、ハンバーグ入りのカレーライス。好きな科目は特にないです」
「へ〜、ハンバーグ入りのカレーライスが好きなんだね。ちなめにわたしは、ハンバーグの上にチーズをがけるのが好きなの!」
「チーズ! うわあぁ、いま、ハンバーグの上にトロリと乗っかっているチーズが思い浮かびました!」
美味しいご飯のことを考えていたら、ぎゅるる〜っと盛大にお腹が鳴ってしまった。
恥ずかしい!
あまりにも恥ずかしくって、毛布で顔をかくす。
「ふふ、今が一番お腹がすぐ時間だよね。……あ!」
かれんさんが、ポケットの中を探り始めた。
「あった、あった」って呟くと、ポケットから小袋に入ったクッキーを取り出した。
有名お菓子メーカーのロゴが入っているから、市販のクッキーかな。
「本当は学校内でお菓子を持ち込んだらいけないから、ヒミツだよ」
かれんさんは、立てた人差し指を唇に当てた。しーっ、とおどけて見せる。
ぱくっと一口食べてみる。バターが口いっぱいに広がって、とっても美味しいよ。
「もしよかったら、飲んでね」
どこからか、かれんさんがら水筒を取り出した。フタに飲み物を注ぐ。
その瞬間、とってもいい香りが、保健室に漂う。りんごみたいな、甘い香り。
「はい、カモミールティー。このお茶にはリラックス効果があるんだよ」
「ありがとうございます」
雑学を聞きながら、かれんさんからフタを受け取る。湯気が、ほかほかと天井に上っていった。
カモミールティーを飲んでみる。すっきりとした味わいで、身体がポカポカと温まっていくのが分かる。
「どう? 気分は落ち着いた?」
かれんさんが、わたしのとなりに腰掛けた。まじまじと、わたしのことを見ている。
「よかった、血色が良くなっているわ」
ホッと、かれんさんが息を吐き出した。
「心配してくださり、ありがとうございます。かれんさん、授業に戻らなくていいんですか?」
ふと、疑問に思っていたことを投げかける。
今は、授業中。そろそろ授業に戻らないと、先生に心配されてしまうんじゃないかなと思う。
「大丈夫。今日、わたしたちの担任の先生が出張に行ってて、各自図書館で自習してなさいって、ゆる〜い授業だから。司書さんには『忘れ物がある』って行って抜けてきているから、『あの子、頑張って探しているんだなぁ』としか思われていないわよ、きっと。それに、司書さんだって忙しいから、誰が行って帰ってきているか分からないだろうしね」
ニヤリと、カレンさんがいたずらっ子のような笑みを浮かべた。
「だから、時間は気にしなくても大丈夫だよ。ガールズトークしよう!」
「ガールズトーク?」
「そう! 普段、生徒会室出会っているけど、中々ふたりっきりで話す機会ってないじゃない? 前から、陽依ちゃんとふたりっきりで話してみたいと思っていたの!」
確かに。わたしたちのクラスの担任の先生は、一度話し出すと止まらなくなることで有名なんだ。だから、生徒会室に着くのは、集合時間の一分前。
わたしが着いたら、もうみんなが待っていてくれてて、すぐに会議が始まってしまう。
みんな作業があってバラバラに帰っているから、話すタイミングはないし。
「わたし、かれんさんと話してみたいです!」
「ふふっ、話そう話そう。今さっき軽い自己紹介が終わったから……そうだなぁ……」
「あのぉ〜、ずっと前から気になっていたことを聞いていいですか」
「なになに? なんでも聞いて?」
「かれんさんって、蓮見先輩のこと好きなんですか?」
「…………え」
身を乗り出して、かれんさんに聞く。すると、かれんさんの動きが止まった。数秒固まったあと、ポポッと顔がりんごみたいに真っ赤に染まっていった。
「なっ、なにを言っているのかなぁ!? 陽依ちゃんは!」
ハハハと、乾いた笑みを浮かべている。かなり、挙動不審だ。
「かれんさん」
わたしが、じーっと見つめると、かれんさんは両手を上げてみせた。降参のポーズを取っている。
「…………はい、陽依ちゃんの言う通り、わたしは司のことが好きです」
項垂れて、いった。
「あー、そんなにバレバレだったかなぁ!?」
ベッドの上で悶えている。枕を顔に押し付けると、「わーっ!」と大声を上げた。
「多分、バレてはいないと思いますよ」
「そうかなぁ!? だと良いけれど!」
恋バナをして照れているかれんさんは、とても可愛らしかった。
続けて、聞いてみる。
「蓮見先輩のどんなところが好きなんですか?」
「えー……そうだなぁ……。優しいところ……かな。あと、ふと見せるちょっと幼い笑顔も好き。普段はチャラチャラしているけど、とても紳士的な部分があるところとか。ヤバいね、語り出したら止まらないかも。全部、ありきたりな理由だけどね」
恋バナって、聞いているだけでワクワクしちゃう。
恋愛関係が疎いから、余計に。
「かれんさんは、蓮見先輩に告白しないんですか?」
わたしが「告白」という言葉を出した瞬間、またもやかれんさんが動揺し始める。
「こ、告白って。するわけないよっ!」
首を左右に勢いよく振っている。
「なぜ告白しないんですか?」
「だって、告白したってフラれちゃうかもしれないでしょ? 生徒会で一緒だから、会わないってわけにもいかないし。気まずくなりたくない……」
そういうものなのかなぁ。
わたし、初恋もまだだから、よく分からない。
どう声をかけていたらいいのか迷っていると、かれんさんがいきなり立ち上がった。
「気まずくなりたくないって思っているけど、『あなたのこと好きなんだよー』って匂わせるのはいいよねっ! わたし、後夜祭のダンスに司の誘ってみる!!」
「最後に踊った人とずーっと一緒に居られるってジンクスですね!」
「そう!」
「応援しています!」
ガシッと、かれんさんの手を握る。
「ありがとう、陽依ちゃん! 陽依ちゃんは誰か誘いたい相手とかいないの?」
「わたしは……いませんね」
頭の中にアオくんの姿が思い浮かんだけど、慌てて打ち消す。
多分、『恋愛的な意味で』ずーっと一緒に居られるジンクスだよね。
アオくんとずーっと一緒に居たいけど、恋愛的な意味じゃない。
そう……だよね?
「そっかぁ。そういえば、氷高くん、ダンスのお誘いを全部断ってるいるんだってよ。誘いたい人がいるんだって」
「へぇー……、そうなんですね」
胸がチクンと痛み出す。
「氷高くん、あともうひと押しみたいだよ。頑張れ」
かれんさんが何か呟いたけど、わたしの耳に届くことはなかった。
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